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第四十一話

毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。

 霧の向こうから、ソルヴェイグが姿を現し森の奥へと飛び込んで行く。イリス達が慌てて彼女を追うと、その先に二人を待つアイン・フォードの姿が見えた。

「アイン・フォード様だ。姉さま行こう」

「―イリス」

リオンは思いついたように立ち止まり、弟に言い聞かせる為、彼の目を覗き込んだ。

「どうしたの?」

「―姉さまの言う事をよく聞いてね」

「―?う、うん」

「―“それ”についてさっきイリスも聞いたでしょう?”それ”に憑りつかれたものは、本人にもわからない、以前とは違う不思議な行動を起こすって」

「うん」

イリスはリオンの言葉の奥に、誰の事を指して言っている事なのか、朧気ながら理解できていた。しかし、疑う事はないと思った。リオンの考え過ぎだと。

「―私も確信はしてないの。けど、何か不安なの。彼の行動、表情どれ一つとっても、怖いのよイリス」

リオンの表情は次第に青ざめ、顔の影は青さを増し死人の色をしていた。

「イリスに言わなかったけど、彼・・・・・・アイン・フォード様は昨夜恐ろしい目で私達を見てたの。祭りの夜もそう、彼は“それ”と何かしていたわ」

「―そんな、姉さま気のせいだよ」

「だって、あんなに恐ろしいのに」

「彼は表情が乏しいだけだよ」

「”それ”と何かしてたわ」

「“それ”を追い払ってたんだと思うよ」

「・・・・・・イリスは彼のあの表情を見たことが無いから」

イリスはリオンの言うアイン・フォードの別の表情を知らない。“闇”は本人にも気づかれないように操り人を惑わすという。もし憑りつかれた者がイリスの身近に居たとしたら・・・・・・。

―それはアイン・フォード様とは限らない。目の前の姉さまも、その可能性があるのだ。

「アイン・フォード様が私の考え通りの人なのか、わからないし、私もそうであってほしくないわ。だって、私達を導いてくれる方なのだもの」

リオンの瞳は何かを決心したようでもあったが、心の迷いが何処かに存在しているようにも見えた。

「―イリス、私に考えがあるの。この瓶に守り(テノン)の葉があるの。“それ”はこの手の味を嫌うという言い伝え、イリスは知っているわね?」

「うん」

「これをお茶に入れて彼に飲ませてみるわ。もし何事も無ければ、二度と私彼を疑う事はないわ。でも、もし彼が苦しみだしたら・・・・・・」

「苦しみだしたら?」

「そうしたら、逃げなさい。イリス」

「―姉さまは?」

「私も逃げるわ」

声を潜め見つめ合う二人の間に奇妙な沈黙が流れた。

「どうかしら、イリス。試してみてもいい?」

そう問うリオンにイリスは言葉に詰まっていた。

「・・・・・・」

イリスはじっくりと姉の目を見た。その瞳はいつもの薄青の彼女本来の色をしているようで、どこか不穏な光が宿っているようにも感じられた。イリスがリオンの心のどこかで疑っているせいなのだろう。

―こうやって、人の心を惑わせていくのか。

イリスは張り巡らされた敵の罠の恐ろしさに苛立つ思いを抱いた。よりにもよって近しい人をつけ狙う、その巧妙な手口に。ああ、僕の中にある力ある言葉よ、どうか力を。

「?イリス?」

イリスは自分を惑わす全ての要因を断つように、目を閉じ自分の心に問いかけた。

―もし、姉さまの言う通りに行動して、取り返しのつかない事態になったら?アイン・フォード様は本当に“闇”に憑りつかれていらっしゃるのだろうか?

「・・・・・・」

イリスは決心したように目を開きリオンの目を見た。

「―アイン・フォード様が本当に“それ”なのかはっきりさせよう。疑いは晴らした方がいい」

イリスは同じ道を行く導き手に対して、疑心暗鬼でいる事自体が“闇”の策略にはまる事だと判断した。疑う事で人を惑わせ不安にさせる。リオンはまさに、その状態に陥っている。その元を解決することが一番の方法だとイリスは自分の心で決めた。

「何事も無ければアイン・フォード様を二度と疑わないんだね?」

「ええ」

「じゃあ、姉さまの思う通りにすればいいよ」

「ありがとう、イリス」

二人は遠くに佇む学士の方へと近づいて行った。


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