第三十七話
毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
しばらくして、女性の影は薄らぎ、次に乳白色の霧の中に様々な色が、虹のように彩られ、下から上へと煌めきだした。
〔―イリスとリオン一歩前に進みなさい〕
威厳のある和音が二人のお腹の中から揺さぶった。先程の女性の優しい声とは対照的に力強い男性の声の重なりが響く。それは、雷の響きにも似て、重圧的に人を従わせるようなものを感じさせた。二人はその威圧感の中言われるまま、足を進めた。
〔最大の恐怖を持つ子供達よ。その力はお前達で全て決着を付けなくてはならない。我らは助ける事は出来ない。我々にはここを離れるわけにはいかないからだ〕
「・・・・・・」
長の姿はイリスには見えなくても、その姿は想像できた。きっと、アリエンのように深い皺がある、それでいて、知性を携えた瞳を持つ人物像が彼の脳裏に浮かぶ。
〔今ここに来てもらったのは、自分の住む世界を追われたものの末路をお前達に知ってもらいたかったのだ。どうだね、限られた場所に留まざる得ない種族を見た感想は?〕
「どうして、世界を追われてしまったのか、その理由を考えると悲しくなります」
リオンはエリアンと自分達の行く末を重ね合わせて返答をした。自分達もしくじれば、きっと彼らと同じ運命をたどる。このエリアンの長はこの事を伝えたかったに違いない。
〔原因は世界を我が物のように振舞った者達にあった。そして、ある所に禍々しい光が生まれた。我々は第二の太陽と呼んでいる。その光が現れた時私達の世界は終わり今の時代が始まった。お前達の時代は光から生まれたのだ。光は”闇”を産み、”闇”は再び光を求めこの時代を彷徨い続けている。お前達がその光の復活を阻むものになるのだ。”闇”から守らねばならないものは、私達の時代の残した痕跡、全て、それは第二の太陽を産みだす要因なのだ。人の子よ、我々がこの時代になっても、この世を去らないのは我々が産みだした最悪をこの世界に持ち込ませない為。我々はそれだけの為に生きている。第二の太陽の全てが無くなる時我らもようやく眠りにつく事が出来る〕
「第二の太陽の光を生み出す要因はたくさんあるのですか?」
イリスは時代を終わらせる第二の太陽が、どれだけ怖い存在か震えながら訊ねた。
〔数多くは土の中に存在している。ランドールの土の下にも、第二の太陽と力ある石が幾つか眠っている。この力ある石はお前達にとって、ただの石であって何物でもない。しかし、将来は分からぬ、この石を扱える時こそ時代の終わりの時なのだ〕
「石にはどんな力があるのです?」
〔石にはなるべく触れぬことだ。ケルウェンはまさしく石によって殺されたのだ。髪は抜け落ち黒き血を吐く事となった。あの石は人にとって変化をもたらす災いの石。世界を変えるほどの力は人には扱えぬ。強力な力ほど恐ろしいものはない。それ故、先の時代の知識のほとんどが、次の世代に受け継がれることも無く消えて行ったのだ。我々の時代の先にも、その終わりを迎え、そうして新しい種族が絶えず生まれてきた。お前達の時代が成熟期を迎えた時、全て理解するだろう。如何にして先の時代が滅んできた事を。時代が終わる足音を〕
「・・・・・・何度も繰り返し世界は変わってきたのですか?」
〔―これまでもあったし、これからも起こるだろう〕
「・・・・・・」
イリスは今生きている時代が、普遍的なものではないのだと愕然とした。エリアンの辿った運命はいずれ自分達にも来るのだ。だから、この人達の声は静かで悲しく聞こえるのか。それは遥か未来に人が呟く声と同じ声色なのだ。
〔お前達の間に数多くの神話があるが、その中のほとんどは先の時代の終わる時を書き記してある。全てはお前達への警告として書き示したもの。再びこの最悪が起こることの無いように〕
「神話の全てが事実なのですか?ずっと想像の世界かと思っていました」
〔記憶の無い者達よ、お前達は先の時代を知らない。あまりにも無知なのだ。神話は表現を直接的でないものの真実を伝えているのだ。現在ではありえない事でも先の時代では可能だったのだ。神話はお前達に同時に警告を伝えている。形こそ違うが、時代を変えるその時を知る道しるべを伝えているのだ。それを完全に理解が出来るのは、もっと先の未来の人々となるだろう。今の人々では、その事実を理解するにはこの時代は若く幼過ぎる。時が経ち、人々が第二の太陽の技術と知識を手にする時に、初めて理解されるだろう〕




