第三十五話
毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
淡い木の影が辺りで霞み、行く手は白く霧で覆われイリス達は、ソルヴェイグの後をはぐれないかと不安になりながらついて行った。重く湿った空気は森から放たれる木々の香りをより強くしていた。足元は固く湿った土から石畳みへと変わり、イリスはイスターテに入ったのだと思った。
「―」
イスターテに入ったとしても、一向に霧の晴れる気配は無かった。霧は何もかもを覆い隠すように、イリスが進むたびに、幾重にも重なり濃くなっていくように感じられた。
気が付けば、辺りはより濃い霧に包まれ、木の影などは消え、一切見えなくなっていた。
「―ソルヴェイグ」
二人は不安に駆られ、ソルヴェイグを中心に身体を寄せ合った。
〔怖がらずに、一歩前に進みなさい〕
霧の中から女の声が聞こえた。それは、木々の静かな囁きにも似た、優しいものだった。
「―」
二人は一瞬息を止め辺りを見渡し、それからいつの間にかイリスの肩に止まったソルヴェイグの目を見つめた。
「ソルヴェイグ、今の声は、お前の仕業か?」
ソルヴェイグは無表情のまま、その場を飛び立つと、再び地面にふわりと着地した。そして、こちらに来いと言わんばかりにイリス達を振り返った。
〔さあ、前へ進むのです〕
再び女の人の声がかかる。
「・・・・・・」
リオンはイリスの手を引いて指示通りに前に進んだ。
「―!」
すると、その場で一瞬光と共に風が起こり、イリス達の服を翻すと、再び何事もなかったかのように霧を纏い始めた。
「一瞬何か見えたよね」
イリスはそうリオンに問いかけた。
「そうね」
イリス達は突然の出来事に、不安に駆られながらも足を進めた。イリスは見えないものへの恐怖とこの沈黙を抑え込むように白い霧を見た。
〔これはイスターテに入る為の儀式のようなもの。何も怖がることはありません〕
「―あなたは誰ですか?お願いですから姿を見せて下さい」
リオンは微かに震えながらそう願った。
〔わかりました、全てを見せるわけにはいきませんが、あなた達がそう言うのであれば〕
濃い空気の重なりの向こう、淡く僅かに長身の人影が見える。その人影は、ほっそりした淡い影を作り、その人の線の細さを思わせた。
〔―申し訳ないけれど、これ以上あなた達に近付くことが出来ません。あなた方の持つ空気は私達には毒なのです〕
毒・・・・・・?ああそうか、確か古い種族であるエリアンは、何からかの原因がもとでより数少なくなったって書物に書いてあったな。それは、外の世界の空気が原因だったとも。イリスは距離を保って近づこうとしない人影を見上げた。
「すると、あなたはもしかして森の人、つまりエリアンなのですか?」
〔―そうです。あなた方がそう呼ぶ者です〕
イリスはこの人が森の人、エリアンかと、よく目を凝らした。
頭から微かに銀に似た輝きが見える。しかしそれ以上はっきりとした像を結ぶことは出来なかった。エリアンは悲しい声をするのだな。静かでとても物悲しい。イリスはそういう印象を持った。
〔さあ、こちらへ。私達の長がお会いになります〕
霧に霞む人影が動き出す。イリス達もその後に続いた。




