第三十話
毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
均等に並ぶ木々の狭間から輝く水面の上に、太陽の光が踊り揺らめく。その周囲を縁取るように水の下から顔を出した花々が咲き、白く映る水面に春の彩りを与えていた。
「・・・・・・綺麗。なんて大きな池なのかしら。ねえ、イリス。アシュオンの池より随分大きいわね」
二人は見たことも無い大きな水の揺らぎに興奮していた。澄んだ水はイリスの背をはるかに超えた深さの色をしていた。
「月下湖と言います。月夜になるとこの湖の下に何かが浮かび上がると言われています。まあ、夜に森を行く者はいませんから、本当かどうか定かではありませんが・・・・・・」
―湖って何の事だろう・・・・・・。イリスはその言葉を不思議に思ったが、アイン・フォードが先を急ぐので、その事を訊ねるのを諦めた。
アイン・フォードの足取りは、月下湖のそばをすり抜ける時より早まり、イリス達の息も限界に近付いていた。
「・・・・・・」
イリスは遠く離れていく月下湖の光を振り返り見た。
―あの水に足や身体を浸したらどんなに気持ちいいだろう、想像しただけで彼は爽やかな気分になった。
「―!!」
その時、イリスは輝く湖水を黒い影がよぎるのを見た。
「・・・・・・」
イリスは疲れ果てたリオンを見た。彼女の髪と息は乱れ、これ以上急ぐことは無理に見えた。
「・・・・・・」
イリスは姉の手を引くと全身の力を振り絞って走った。
―アイン・フォード様が急ぐのはこの影のせいだ!喉が擦れ、恐怖で震える足は地面をまともに踏みしめる事が出来ないでいた。ただ、姉の手を引く力だけがイリスの身体の中で残っていた。森の影さえも何か不気味に暗く閉ざして見えてくる。
―気のせいだ、気のせい。イリスは心の中でそう唱え続けた。幾つもの枝や木々を通り抜け、森の影が深まった、その先を行き過ぎた時、一行は光り輝く空間の中に辿り着いたのである。




