第二十四話
毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
「あなた方がランドールから離れればいいのです」
アイン・フォードの思いもよらない言葉に二人は絶句した。
「・・・・・・姉さまもランドールを出ないといけないのですか?」
「そう、お二人ともランドールを出て下さい。お二人は”それ”に落ちられては、行けない存在なのです。明日にでも出発するつもりです。準備を整えておいて下さい」
「私がどうしてランドールを離れないといけないのです?」
リオンは非難めいた口調でアイン・フォードを咎めた。
「―ランドールの娘の一人として来ていただきたいのです」
「―!」
その言葉を聞いてリオンは、あの儀式は何か途轍もないものを、守る為のものだったのだと、改めて思い知った。徹底した秘宝の儀。ランドールの娘達は儀式の内容を他に漏らす事を禁じられていた。そして、娘達本人でさえ、儀式の間、記憶を奪われ、その儀式の方法さえ知らない。自分の発する声の音しか分からないのだった。そこまでしなくてはならないものを、ランドールは守り続けていたのだ。
「ランドールの娘?姉さま何それ?」
「イリス悪いけど、この事は決して他の人に話してはいけない決まりがあるのよ。わかるかしら」
「―そう、わかった。もう聞かない。僕も話してはいけない事があるもの。その気持ちは分かるよ」
「何があったの、イリス?」
「僕も姉さまの事を聞かないから、姉さまも僕の事を聞かないで」
リオンはその口ぶりから、イリスも何か”闇”に関するものに、関わっているのだろうと想像できた。
「―わかったわ、イリス」
イリスは手を伸ばして姉の手を握りしめた。その行為で、リオンは彼の不安を感じ、心配気に弟を見つめた。
「良かった。・・・・・・姉さまと一緒で。ずっと森の奥へ行きたかったけど、この国の皆と二度々会えないのは悲しかったんだ・・・・・・ランドールを離れたら、この国の事思い出さなくなるんじゃないかと、思ってすごく悲しかった」
イリスは下を向き静かに息を吐いた。
「姉さまと一緒なら、きっと、生涯忘れないんじゃないかな・・・・・・本当に姉さまと一緒で良かった」
「・・・・・・イリス」
リオンは弟の小さな手を守るように自分の手を重ねた。
―もう二度と帰れない。リオンは明日の旅立ちを思うと悲しくなった。この国を離れる事になるなど、つい先ほどまで思いもしなかったのだ。
「―姉さま。大丈夫だよ。姉さまは僕が守ってあげる。寂しくならないようにランドールの事をたくさん話してあげる。だから、姉さま泣かないで」
「―・・・・・・イリス」
私は泣いているのだろうか。リオンはイリスの真剣な眼差しを見た途端、声を上げて笑い出した。
「姉さま?」
イリスは姉に笑われる理由がよくわからない。
「だって、イリス、私の方が守ってあげないといけないくらい弱いのに」
「何だよ、それ。僕だって随分と強くなっているよ。まだ、姉さまには勝てないけど、いずれ勝つよ」
イリスは一生懸命に言った言葉が、姉に馬鹿にされたと面白くなかった。
「ごめん、イリス。ありがとうね。あなたがしっかりしているのを見ると嬉しいの。いつの間にか成長していたのね」
リオンはイリスの顔を優しく撫でた。
「・・・・・・」
イリスはそんな姉の子供みたいな扱いに、より一層腹を立てていた。
「では、お二人とも、旅の支度を急いでください」
アイン・フォードが二人のやり取りを切るように二人に告げた。
「旅の支度って、何を用意すればいいのです?」
「そうですね、替えの服ひと揃えがあればいいでしょう」
「食料は?」
「私が準備します」
「僕はお気に入りの本を持って行っては駄目でしょうか?」
「ごく薄いものなら大丈夫かと。あまり、かさばらない様にして下さい」
「私は布を一番綺麗な布を持って行きたいのですが、駄目でしょうか?」
「量によります。取り敢えず、お二人とも部屋で荷造りをしておいて下さい。後で私が見て旅に必要なものを判断します」
アイン・フォードの言葉に二人は頷いた。
「それから、お二人が旅に出るという事は、誰にも知られないようにして下さい。そのうえで心の中でお別れを」
「・・・・・・お別れ」
「心残りの無いように」
「・・・・・・」
二人はお互いの顔を見合わせ、この国での別れの時が、近付いているのを改めて感じた。
「リオン様、これを渡しておきます」
アイン・フォードはリオンに包みを渡した。
「これは?」
「守りの印です。旅立つあなたに必要なものです。いざという時に守ってくれます」
「これを持っていると安全なのですか?」
「そうです、大切にして下さい。肌身離さずに」
包みの中の紋様が彫金されたものを、リオンはしげしげと見つめた。
「―私だけですか?イリスは要らないのですが?」
「イリス様にはもう手渡しております」
「そうなの?イリス」
リオンがそう訊ねるとイリスは黙って頷いた。
「そうですか、大切に致します」
「では、後ほど」
部屋から出て行くアイン・フォードを見送ると、リオンは弟の手を引いて歩き始めた。




