第十七話
毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
風は雲を払い、ランドールの国土を見渡す古人の丘の上では、春日の光が二人を包み込む。森に近いこの丘にイシュマールは、イリスを連れ出すとウィッツランドの高塔と若草色の草地を指差した。その肩にソルヴェイグが音を立てて停まった。
「あなたはこの国をどう思われていますか?」
そうイシュマールに問われて、考え込むイリスにイシュマールはさらに続けた。
「森の中に取り残されたように感じませんか?」
イシュマールはイリスの返事を待たない。
「生涯この国から出ることを許されず、一生を送るそんな人生に満足な人が多い中、イリス様、あなたは森の向こうに興味を持ち続けた」
「そうですね、僕は幼い時から森が好きです。しかし、森の向こうの先に入れば再び帰って来ることが許されないところ。どうしてそのような決まりがこの国に存在するのでしょうか?」
「ランドールは他の土地ではイスの地と呼ばれています。意味は石を守る場所という意味です。ランドールは石を守る人々が、この場所を敵に、人々に知られないようにする為、人の行き来を禁じたのです」
「・・・・・・石を守る為に?」
「遠い昔より行われてきました。ランドールには幾つかの儀式がありますね?」
「はい、この前のお祭りとかが主ですね」
「それも全ては石を守る為です」
「何の石を守っているのです?」
「多くは答える訳にはいきませんが、それは最大のもの。敵の手に渡ると大変なことになるとだけ覚えておいてください」
「ケルウェンの石ではないのですか?」
「あれはほんのさわりでしかないのです。敵に知られる原因の内の一つにしかありませんが」
「そうですか、最も大きなものなのですね、この地にある石は。イシュマール様、アリエン様は詳しく教えてくれなかったのですが、敵とはどういったものなのですか?」
「それは”闇”と呼ばれるもの」
イシュマールがそう言うとざわざわと声なき声がイリスの耳をかすめた。
「あまりその言葉を口にすると危険ですね。”それ”と言いましょうか。”その者に形はない。光ある時、影なすところより生まれ、その行く先は光より先に行くことはない”イスターテの遠い昔に学士の一人が“それ”について語った言葉です”それ”とは形なき悪意のようなもの。“それ”は暗闇や影にひそみ、人の心に入り込みその者を操るのです。“それ”に魅入られた者は一目だけでは区別が出来ません。そうやって次第に操る者達を増やしてゆくのです」
(闇・・・・・・)
イリスはその言葉を聞いて、ぞっとした。イシュマールから、以前一度だけ聞いた。恐ろしい存在だと。闇と口にするだけで辺りが暗くなるような感覚に陥ったものだ。
「だから用心しないといけないのですね」
「―そうです。人を疑うということは苦しい事です。しかし、人を見る目を持つことは将来あなたが王になる時に役に立つでしょうね。見極めることです。誰を信用し誰が何を考えているのかを」
「僕は王にはなりません」
「では、何に?」
「ずっと世界を見て回りたいです。僕の知らない世界を」
「そうですか。それでも人を見る力は必要ですよ」
「どうしてですか?」
「自分自身を治める王として。・・・・・・大人になるということはつまりそういう事ですよ」
「―・・・・・・大人になるって難しいのですね。早く大人になりたかったけれど、人を疑うような事をしなくてはいけないなんて、僕は大人になるのが嫌になりそうです」
ふう・・・・・・と不満気に溜息を漏らすイリスに、イシュマールは誰もが通る道ですよと微笑んで見せた。




