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第十四話

毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。

 人々が輪になって踊る回転踊り(サークルダンス)は、国中の若者が手を繋ぎ、輪は解かれ又繋ぐ。舞曲のリズムは常に心音と共に高鳴りつつある。繰り返し交差される足音の動きで、軽やかに舞い続ける。

―リディアの柔らかな髪は月光で縁取られ揺らぎ輝く。彼女の視線の先は銀の光抱(いだ)きしシェルシード。やがて二人の手は重なり、金と銀の輝きは人々の輪より離れ消えていった。

リオンは二人の様子を二階の窓より見下ろしていた。

二人が輪から離れた後にも、一組二組と恋人となる人々は踊りの輪を離れて行く。中庭の奥に広がる木立の下で彼らは夜通し語り合う。祭りの日に許される恋人たちの密やかなる時。

―自分には当分そんな日は来ない・・・・・・。リオンは柔らかく滲む月光の向こうに想い人の優しい笑顔を想った。リノスは恋とは人をかき乱すものだとよく言う。平気で人の心を失くしてしまう恐ろしいものだと。

リオンにとって、イシュマールは共にいると安心できる温かなるものだった。穏やかな春の風にも似た優しさを持つ彼への想いは、リオンの心の中にゆっくりと彼女の成長と共に育っていったのだ。それは大人になるものの始まりのようなものかも知れない。リオンはこの感情を大切に思っていた。決して傷つく事の無い様に、固く守り続けていたものだった。

「―恋は相手の心が自分の物になるのではないわ。自分の心が相手にあるから恋なのよ」

リオンはそう呟いた。敵わないものへの自分の決心を、揺るがないものにするためにそう言い聞かせる言葉だった。

「―・・・・・・」

背後の方で誰かのささやき声が聞こえてくる。

「何かしら?」

その方向は闇に包まれ先は見えない。月明かりは雲に遮られ、深い闇だけが残っていた。

・・・・・・確かにあれは人の声・・・・・・。リオンは窓を離れ耳を頼りに声のする方へ歩き出した。暗闇の中は冷たくリオンを不安にさせた。リオンは夜を照らす月を思った。

「・・・・・・どうか光を」

夜風は月光をあらわにし、静かにその者の姿を見せるとリオンの肩越しに通り過ぎた。

月夜の下、彫刻の間と呼ばれる広間に、銀の砂を少年が落としてゆく。春と冬の混ざり合った緩やかな夜風は、少年の髪を揺り動かす。少年のその唇は微かに動き何かを詠唱している。砂は月光により浮かび上がり形どられ、意味ある物へと変化していった。少年の瞳がはっきりと目を開かれた。その瞳は微笑んでいる様にも見えたり、哀しみの色も含んでいるようだった。

「アイン・フォード様?」

彼の強い視線はリオンを見てはいなかった。月が落とした二人の強い影の方を静かに見ていたのだ。リオンはアイン・フォードが、ただそれを見ているだけではない事に気付いた。彼の口は沈黙の向こうで何かを刻んでいる。

「・・・・・・急いでその場を離れるんだ!耳を塞げ!」

アイン・フォードの声ではない何かがリオンに警戒を促した。リオンはそのただならぬ声の通りに、その場より遠くへと駆けだした。リオンは足元に広がる影が一瞬揺らぐのを感じた。その変化に怯えリオンは慌てて耳を塞ぐように頭を抱え込んだ。目を閉じたリオンの周りに何かが揺らぎ消えていった。

・・・・・・沈黙が続いている。リオンは自分の目と耳以外の五感で周りの気配を感じていた。

―先程の不安な感じとは違う・・・・・・。リオンはゆっくりと目を開けた。目の前に広がっているのは、いつもと変わらない景色。

「・・・・・・」

リオンはアイン・フォードのいる方を見た。彼は同じ場所に(たたず)んだままだった。しかし、先ほどの奇妙な雰囲気は彼にはなかった。リオンは少しだけ肩の力を落としその場に座り込んだ。

「―・・・・・・」

アイン・フォードは静かに目を閉じて何かを呟いた。自身の心を落ち着かせるものだったのかも知れない。リオンは彼の横顔を見ながら、次第に湧き上がる疑問と不安で一杯になった。そしてリオンは彼にそれをぶつけた。

「―今の・・・・・・今の起こった事は何ですか?今の声は何?」

リオンは立ち上がりながら彼に声をかけた。

「―!!」

こちらを見るアイン・フォードの視線の強さにリオンは体を強張(こわば)らせた。その色は狂気に似た色をしていた。アイン・フォードはもう一度目を閉じリオンを見た。その表情は落ち着きを取り戻し、リオンの存在を改めて認識したかのようだった。

「・・・・・・どうしてここに?」

アイン・フォードの声はかすれ、いつもより低い。

「・・・・・・何か音がしたのです。それで・・・・・・あなたが見えたから」

「―・・・・・・」

アイン・フォードはリオンの視線を避けるように、又目を閉じ黙り込んだ。

「―今何が起こったのです?」

リオンは重ねて質問した。

「―知らない方が・・・・・・よろしいでしょう」

アイン・フォードはそう答えると、胸元から一房の黄色い花を取り出し、リオンに差し出した。

「どうして?今さっき何かが揺らいだわ。見たわけじゃないけど、感じました。・・・・・・教えて下さい。この国で何が起ころうとしているのです?」

「この花を姫君、リカノンと言いますが・・・・・・先程の者からあなたを守ることが出来ます」

彼はそう言うと花をリオンの手のひらに乗せた。

「質問に答えてください。学士様」

アイン・フォードの口は再び開かれる事は無かった。リオンはその態度に、半ば挑むように彼の瞳を睨みつけた。

「―・・・・・・」

アイン・フォードの透明に近い瞳に何かが揺らぎ消えてゆく。リオンはその不思議な光に不吉な何かを感じた。

「―あなたは・・・・・・何者?」

リオンの口から自然に言葉がこぼれ出た。

「学士ですよ、姫君」

明解で確かな事実を言葉にすると、アイン・フォードはリオンから離れて行った。


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