第十一話
毎週木曜日に投稿します。よろしければ読んでみて下さい。
―母様の弾く弦の糸に似ている・・・・・・。深い桶の中、水に漂う銀の髪を見つめながらリオンはそう思った。銀の奥方として名高い母の美を、ただ一つ受け継ぐ銀の輝きは、青みがかった金属質の輝きにも似て美しい。
ランドールで選ばれた娘達は皆、儀式の前に薬草の入った沐浴で身体を清める。
「・・・・・・」
リオンの深いため息が水の水面を軽く揺らした。
頭でとどまっているのは、ただ一人。目を閉じると、彼は優しい微笑みで、リオンを見つめている。しかし、イシュマールはリオンの事を振り向く事は無い―・・・・・・。
リオンはその想いを振り払う様に、身体を水で清める作業に入った。桶から上がると水の重みで髪が身体に纏わりつく。水は全ての物を洗い流す。水に含まれた香草の香りがリオンの心を落ち着いたものにしてゆく。用意された白衣を身に付けると、その香りは一層リオンを取り巻いてゆく。
―ここからいつも何も知らないものになってゆくのね・・・・・・。
かすれてゆく意識の中、浮かんでは動こうとしない、あの人への想いも消えてしまえばいい。リオンはそう願いながら傾く身体の重みに身を任せた。
人の多く集まる広場に出たイリス達は、そこで探していた人物を見つけ安堵した。
「イシュマール様」
イリスは彼の方へ走り出した。
「イリス」
近づくとイシュマールの側には母が立っていた。
「イリス。学士様をきちんと案内して差し上げたの?」
「うん、母様。あ、あのね、イシュマール様に話したい事があるの」
「イリス、学士様達お二人は、今からする事があるの。私達はお祭りのみんなのお手伝いをしましょう」
「けど、母様」
「イリス、彼らは忙しいのよ。さあ、行きましょう」
母王の声は優しいが、従わずにはいられないものが表情の奥底にあった。
「―・・・・・・はい、母様」
アイン・フォードはイリスの視線を受け、安心させるように頷いて見せた。イリスはその意味を受け取り母王に素直に従った。
イシュマールは二人の姿を見送ると、アイン・フォードに守りの儀式に行く事を伝えた。
「守りの儀式ですか。あのランドールの娘が行う儀式ですよね。私が行ってもいいのですか?」
「構いません。あなたにはこの儀式の事を、実感しておいてもらわないと」
「イシュマール様。イリス様の元に、あの者が来ました」
「―やはり・・・・・・気配がありました。明日、私はここを立ちます。アイン・フォード、彼らが来る前にここを離れた方が良いでしょう」
「・・・・・・それはいつ頃の事になるのでしょう?」
「あなたが危険だと思った時に。アイン・フォード、判断は見誤らない様に。もしもの時はあなたの英知が全てを助けます」
「―・・・・・・わかりました」
「さあ、儀式が始まってしまいます。急ぎましょう」




