2日目 ツンデレちゃんの考察タイム(日常パート)
昼休み。
俺のクラスメイトである亜桜綾香は、失意のあまり、ガックリとうなだれて机に突っ伏していた。
「でねー、最悪なことに、今年からはウチの女バスも練習時間が伸びるらしいんだよ!」
「最悪なことにって……むしろそっちの方が良いんじゃないのか?」
「んー、なんでそうなるのー?」
「いやだって、好きなバスケをやる時間が増えるわけじゃん?」
「それとこれとは話が別。いくら好きな人だからって、恋人と四六時中一緒にいたら流石に嫌になるでしょ?」
「分からん。いたことないから」
「はっ、この程度の例えに共感できないなんて……那珂川、青春レベルが足りないよ」
やれやれ、とばかりに亜桜が首を振ると、それにつられて彼女の黒髪が俺を煽るように揺れる。
肩の辺りまであるその黒髪は、運動部に所属しているにしてはかなり長いように思えるが、彼女はウチのバスケ部のエースなのでそれを咎める人物はいない。
むしろ、「ドリブルしてる時に靡くのがカッコイイ」と男女問わず評判は良いらしい。
さて、俺はそんな彼女に青春レベルが低いことを煽られたわけだが――
「それはお互い様だな。亜桜だって彼氏いないだろ?」
「いやいや、私はボールが恋人なので」
「……そういうのは友達までにしといた方が良いと思うぞ。その恋人、普通に他の人にもドリブルさせてるから」
「あはは、私、バスケットボールに浮気されちゃってるの? やーん、どうしよー」
と、亜桜は持っていたバスケットボールを指先でクルクル回しながら笑う。
器用だなぁ、ほんとに。
「まあでも、リアルな話、私は部活が忙しいんで恋愛してるヒマはありませーん。でも那珂川は別だよね? 帰宅部だから時間あるでしょ?」
「俺も家に帰るタイムを縮めなきゃいけないから忙しいんだ」
「またそんなこと言ってー。ねぇねぇ、那珂川ってどんな子がタイプなの? ウチのバスケ部カワイイ子ばっかりだから誰か紹介してあげるよ?」
「必要ないな。俺のタイプは亜桜みたいな人だから」
「もー、絶対ウソでしょそれー。本当は?」
「こんな風にダル絡みしてこない奴。さぁほら、お前はもう部活に行け」
「面倒だからって適当にあしらうなっ。まだ昼休みですー。まったくもー、いいもん。じゃあ私、他の女の子と楽しくガールズトークしてくるから」
「ぜひそうしてくれ」
俺は自分の机に座ったまま、歩き去っていく亜桜を見送る。
やれやれ、やっと行ったか。
亜桜綾香。
彼女とは一年の時から同じクラスだったので、今でも友達としての付き合いがある。
まあ、入学当初からひっそり過ごそうとしていた俺へ向こうが一方的に話しかけてきて、それが今でも続いてるだけなのだが。
俺は極力目立たないようにしていたいのに、校内の有名人である亜桜が近くにいると不必要に他者の視線が刺さることがある。
とはいえ、クラス内で目立たず優雅に過ごすのと孤立するのは違うからな。クラスメイトとの付き合いはしっかりしておかないと。
そういう意味ではやはり彼女は非常に話しやすい。付き合いがそこそこ長い分長い分、
どういう性格なのかとか、踏み込んでいいラインとかが分かってるから――
「……⁉」
視線を感じたので何気なく隣を見てみると――九条と目が合った。
なんかすごいジトーっとした目でこっち見てる。
さっきまでスマホをいじってたはずなのに……な、なに? 俺なんかした?
今日は朝に挨拶してから一言も喋ってないよな?
「ねぇ、那珂川」
「……なにか?」
「那珂川ってさぁ、どんな感じの子が好きなの?」
「…………」
なんですかその質問。
亜桜と同じ質問なのに、とてもそうとは思えない緊張感だ……。
「えーと、まあ、優しい女の子……とか?」
「他は?」
「りょ、料理が上手な子とか、よく笑う子とか?」
「ふーん、そっか」
と、九条はそっけなく相槌を打って再びスマホに視線を戻す。
うん、何も変なことは言ってないはず。
ただ。
どこか少し、九条が不服そうな顔をしているのが気になるけど。




