12日目 ツンデレちゃんの帰り道(日常パート)
放課後。
多くの人間が部活やら帰宅やらで校内を行きかっており、HR直後は割と混む。
そんな喧噪の中をすり抜けるようにして、俺は下駄箱から靴を履き替えて脱出した。
普段ならなんてことない作業だが、今日は疲れた。
なんか……今日は昼からずっと頭と喉が痛いし、体が熱い。
こりゃ完全に藍奈の風邪が移ったな。
あぁキツい。とにかく、一刻も早く家に帰――
「あ、那珂川も今帰るとこ?」
「…………」
背後で九条の声がした。
たたたっ、と小走りでやってきて俺の横につく。
マズいな。移しちゃうから言っとかないと。
「九条、悪いんだけど、俺風邪ひいたみたいで――」
「ね、一緒に帰らない?」
九条は俺の言葉を遮ってそんな提案をする。
「……えっと」
「いいじゃない、どうせ一人で帰るんでしょ? たまには一緒に帰りましょうよ」
そう言って意気揚々と歩き出す九条。
なんでか分からないけどすごい楽しそう。
この空気をぶち壊す勇気……俺にはないな。
まあ、マスクもしてるし外だし、ちょっと離れて付いていけば大丈夫か。
「ね-、那珂川の家ってどの辺?」
「駅から南の方に、電車で10分くらい行ったところ」
「分かりにく。駅名で言いなさいよ」
「……九条は? 方向一緒じゃないよな? 朝会わないし」
「私は歩きだから」
「ああそうなの?」
「そうなの。駅を通り過ぎてちょっと歩いたところ」
「駅近か、いいところに、住んでるな」
あー……なんか頭が回らない。
ボーっとする。
「そうでもないわよ。帰っても一人だし、誰かが暇つぶしに付き合ってくれたらいいんだけど……なんて」
「…………」
「あれ、聞いてる?」
「あ、ごめん。ちょっとボーっとしてた。なんて?」
「いい。別に二回言うほどのことじゃないから」
九条は拗ねるような言い方でそっぽを向く。
何を言われたかは分からないけどやらかしたことだけはハッキリ分かる。
体調さえ万全なら聞き逃すこともなかったのだが……。