11日目 ツンデレちゃんの初電話(日常パート)
「はい完成。今日もまあまあの出来だな」
早朝。
俺がいつものように二人分の弁当を作り終えて一息ついていると、ドアをゆっくりと開けて廊下から気だるげな人物が入り込んできた。
「お兄ちゃん、藍奈ダルい……」
そう言ってリビングのソファに倒れこんだのは、那珂川藍奈という中2の少女。
関係性は妹。
世にも珍しい銀髪ロングの妹である。
目鼻立ちがハッキリしていることも手伝って、なんの前情報もなければ日本人であると推測を立てるのは難しいだろう。
「お兄ちゃん、藍奈ダルい」
「二回言わなくても聞こえてる。ていうか毎朝言ってるしな」
「ちがうよぉ、今日は本当にダルいの」
「なに、もしかしてマジで言ってんの?」
そう言われてみると、確かに、藍奈の顔色は普段と比べるとあまり良くない。
確認のために藍奈のおでこに手を当ててみる。
「どれどれ……熱っ」
「でしょでしょ? ここまで歩いてくるのもダルかったんだから」「
「風邪だな。今日は学校休んでゆっくり寝てな」
「うん、そうする」
「朝と昼に食べられる雑炊を作っとくから、お腹が減ったらそれを温めるんだぞ」
「え。でもお兄ちゃん、もうお弁当作ってくれてるでしょ? 藍奈それ食べるよ」
「いいよ、体調悪いんだから消化のいいものを食べたほうがいい」
まあ、とはいえ。
せっかく作った以上、藍奈の分も無駄にはできない。
ちょうど連絡先も知ってることだし、相談してみよう。
俺はスマホを取り出して九条に電話をかける。
朝だし向こうも忙しいかもな……あ、出た。
『――えっと、あ、はい、もしもし!』
「おはよう九条。那珂川だけど、今いい?」
『あ、うん。はい、もちろんどうぞ』
「九条って今日の昼ごはんもう何か用意してる?」
『ま、まだ何も買ってないです』
「なんで敬語なの?」
『……まだ何も買ってないです、わ』
「今度は混ざってる」
『そ、そういうのいいから! 要件! 朝っぱらから無駄話するためにかけてきたわけじゃないでしょ?』
「そうだった。いやあのさ、作った分が一つ余ったから、もしよかったら弁当を食べてくれないかなと思って」
『え、那珂川の作ったお弁当を? 私が?』
「ああ」
『ちなみにこれって何人目?』
「九条が最初だ。これがダメだったら亜桜にかけようと思ってる」
『なるほど。私が最初の一人目……ふぅん、そう、そうなんだ……』
「……どうした?」
『なんでもないわ。ぜひいただきます』
「助かる。それじゃまた学校で」
通話終了。
交渉成立。
「……お兄ちゃんさぁ」
そして、それを待っていたかのように話しかけてくる妹。
「今の人、誰? 亜桜さんと話してる感じじゃなかったよね?」
「え、話し方だけでそんなん分かるの?」
「分かるに決まってるよ。だってお兄ちゃんの連絡先って藍奈たちと亜桜さんしか入ってないじゃん」
「入ってないじゃなくて入れてないんだ」
面倒だから。
亜桜はすごいグイグイくるから仕方なく追加してるけど。
「そんなお兄ちゃんがわざわざ連絡先を登録していて、わざわざ電話をかける相手って誰? 男? 男の人だったら許すよ? まさかまた女の子じゃないよね?」
「うーん、まあ女王様みたいな感じ?」
「……女王様?」
藍奈はポカンとした表情でこちらを見ている。
「そう。位が高すぎるから初対面の時はどうなるかと思ったけど、話してみると案外まともな女王様。そんな感じ」
↓
「はいこれ。朝言ってたやつ」
ランチタイム。
俺から受け取った弁当を見て、九条は少し驚いたような表情になる。
「ありがと――って、この可愛いお弁当箱……那珂川の趣味?」
「妹の趣味だよ」
「ん、那珂川って妹のいるの?」
「ああ、今日は風邪で休んでるから弁当が一つ余ったんだ」
「なるほど。それで」
「なんか余り物を押し付けるみたいになってごめんな」
「全然いいわよ。妹さんお大事にね。それじゃ、いただきーます」