1日目 ツンデレちゃんのツン初日(日常パート)
「九条凛音よ、よろしく」
「え、ああ……こちらこそよろしく。那珂川だ」
「那珂川ね。オッケー、もう覚えたわ」
そう言って、九条は俺の左隣の席に腰を下ろした。
新学期。
高校二年生になってクラスが替わったその初日。
俺がクラスメイトと初めて言葉を交わしたのは、不幸にも、このクラスで最も可愛さのポテンシャルが高いと思われる――九条凛音だった。
すらっとしたスタイルに鮮やかなブラウンの髪。それをミディアムボブに切り揃えている彼女の評判は、去年違うクラスだった俺の元にも届いている。
1組にめちゃめちゃカワイイ子がいるらしい。とか、なんとか。
記憶が正しければ去年、文化祭のミスコンみたいなのに出てた記憶がある。
誰が一番カワイイかを決めるアレね。
一年の時は違うクラスだったからどういう性格なのかは知らないけど……。
うん。
怖いなぁ、こういうクラスカーストの頂点に君臨してそうな女の子って。
なんか変なこと言って怒らせないようにしないと、嫌われたら俺の学園ライフが終わってしまう。
まあでも、そもそもこういうカワイイ子は俺なんかと関わる理由がないか。
だったら心配する必要は一切な――
「那珂川ってさぁ、なんか部活とかやってるの?」
「……え?」
反射的に声のした方を向くと、九条が頬杖をつきながらこちらを見ていた。
話しかけられた……だと⁉
マズい、向こうは単なる雑談のつもりだろうが、こっちは一語一句に運命がかかっている!
しかし一年の時はどうにか穏便に過ごしてきたんだ、今年も目立たないよううまくやって見せるさ。
重要なのは当たり障りのない会話だ。興味を持たれなければ関わることもないのだから。
「い、いや、特に何も」
「ふぅん、帰宅部なんだ。私も」
「ああ……そうなんだ」
「那珂川って勉強得意?」
「まあ普通くらい」
「へぇ、私はそこそこ勉強できるわよ。分かんないとこあったら教えてあげるからなんでも聞いて?」
「ああ……どうも」
「うん。……まあ、そんな感じかな? とりあえず、これからよろしくってことで」
そう言って、九条は会話を終了し手元のスマホに目線を落とす。
の、乗り切った……!
なんの面白味もない男としてこれ以上ない出来だった。
まさに完璧。
これで九条は俺をつまんない奴だと認識しただろうし、今年一年も安泰だな!