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一日ごとにデレていくツンデレちゃんのSNS日記  作者: 抑止旗ベル
1章 ツンデレちゃんはまだ他人
18/25

9日目 ツンデレちゃんのランチタイム(日常パート)

 昼休み。

 午前中の授業を終えてつかの間の休息。

 すなわちランチタイムである。

 あるのだが。


「……?」


 俺が家で作ってきた弁当を広げようとしていると、隣で九条がなにやらゴソゴソとバッグを漁っている。

 まるで探し物でもしているようなゴソゴソ加減だ。


「どうした九条?」

「ん? いや、別に何でもないわ。気にしないで」

「もしかして、昼ごはんでも忘れた?」

「…………」


 黙り込む九条。

 どうやら正解らしい。

 まあ、お昼時に何かを探していれば大体、昼食だろうと見当はつく。


「……忘れたっていうか、持ってきてないだけよ」

「そ、それを忘れたっていうんじゃない?」

「うるさい。この程度なんの問題もないわ。購買でパン買ってくるからいいの」


 と、九条が席を立とうとした瞬間。


「ギリギリセーフ!!」


 購買に行っていた亜桜が意気揚々と教室に戻ってきた。

 彼女は普段からよく購買を利用しており、今日も今日とて買いに出ていたようだ。


「あっぶなー! 私の分で最後の一個だった! みんな見て! 購買に残ってた最後のクリームパン!」


 亜桜は誇らしそうにクリームパンをクラスメイトたちに見せびらかす。

 なんか拍手してる奴もいるわ。なんだこのクラス。


「……ねぇ那珂川、亜桜ってバスケ部でしょ? お昼ごはんがクリームパン一個でいいの?」

「いいんじゃない。本人も嬉しそうだし」


 本当は絶対によくないんだろうけどね。

 まあとにかく、いつもは平然と3,4個買ってくる亜桜がああ言っているということは――


「購買の食べ物はもう全部売り切れだってさ」

「他人事みたいに言わないで。そもそも、私がお昼を買い損ねたのも那珂川のせいっていうか……」

「責任転嫁エグいな」


 なにもしていないはずなのに一抹の責任を感じる。

 うーん、この状況で自分だけランチタイムっていうのも気が引けるよなぁ。


「なぁ、よかったら俺の弁当ちょっと食べない?」

「いい。要らない」


 即断する九条。

 清々しいほどの即答っぷりだ。

 予想はしてたけどちょっとヘコむわ。

 亜桜にはそれなりに高評価をもらっているというのに……。


「まあ、でもそうだよな。普通、他人の作った弁当なんて食べたくないよな……」

「いや違っ……! そ、そうじゃなくて! あんたの分が減るから要らないの!」

「そんなの気にしなくていいって。一食くらい物足りなくてもいいさ」

「その言葉、そっくりそのまま返すわ。私だって一食抜くくらい別にどうってことな――」


 ぐぅー。

 お腹が鳴った。

 ……九条の。


「…………」


 九条は苦虫を嚙みつぶしたような顔で赤面している。


「えっと……九条さん? お腹空いてるみたいですけど」

「す、空いてないとは言ってません。ていうか普通に考えて空きはするでしょ、成長期なんだから」

「じゃ、せめて卵焼きだけでも食べない?」

「なによ、どうせ『午後の授業中、こいつのお腹がずっとなってたらうるさいからな――とか思ってるんでしょ⁉」

「思ってないわそんなこと」

 

 逆に誰が辿り着くんだその発想。


「くっ……仕方ないわね。お腹の音でクラスメイトに迷惑を掛けるわけにもいかないし……少しだけ頂くことにするわ」


 と、観念したように九条はそう言う。

 だから俺はそんなこと思ってないんだけど……まあいいや。

 食べてくれるならそれで。


「じゃあはい。お先にどうぞ」

「……い、いただきます」


 九条は俺が手渡した箸を受け取り、礼儀正しく両手を合わせる。

 それから卵焼きを器用に掴んで口元へと運び――一口かじる。


「ん、これ……」

「どうした? あ、もしかして口に合わなかった? その卵焼き甘いやつだから、もし苦手なんだったらごめんな」


 ……あれ。

 ていうかこれ、冷静に考えるとすごく危険な状況では?

 先日の敬称の件でも九条を怒らせてしまっているのに、ここでマズい判定が出たら間違いなくゲームセットだよな?

 このクラスの王族である九条凛音を怒らせて生きていけるはずがない。俺の学園ライフ終了のお知らせ。

 口コミサイトの評判が悪くて売り上げが落ちる飲食店みたいな感じで終わってしまう……!

 が、そんな俺のマイナスな予想とは裏腹に。


「おいしい……!」


 九条の口から溢れた感想は幸いにもプラスなものだった。

 危ない危ない……どうやら命綱は繋がったままのようだ。 


「これ、今まで食べた中で一番おいしいかも……あ、いや、別に褒めてるわけじゃないから! 私が今まで食べてきた卵焼きが大したことなかっただけかもしれないし!」

「あぁ……なるほどな。確かに」


 ……確かに?

 なんかつい納得しちゃったけど、なにその理論。


「中々やるじゃない。けど――あ」


 謎の理論を提唱しつつ、その一方で何故か目を輝かせながら卵焼きの残りを食べ進めていた九条だったが、突然、彼女は何かに気づいたようにフリーズした。


「しまった。お箸が……」

「箸が?」

「どうしよう……那珂川がこれ使ったら、間接キスになっちゃう……」

「あー、そういうことか。それは確かにマズいかも」


 俺は特にそういうの気にしないけど、人によっては大問題だ。


「でしょ? …………いや、でも、私、那珂川なら嫌じゃな――」


 よし、じゃあなんとかしよう。

 俺は遠くの席でクリームパンを食べていた亜桜に呼びかける。


「なぁ亜桜、箸ある?」

「んー? あるよー。いつでも那珂川のお弁当貰えるように割りばし常備してる。面倒だからこっから投げるよ? ほいっ」


 と、亜桜は割り箸がたくさん入っているビニール袋を正確なフリースローで投げ渡してきた。

 この百均とかで売ってる割りばしの詰め合わせを常備してるJKなんて、日本中どこ探しても彼女以外に見つかりそうにない。

 一年の時からこうだった。しかも普段あんまり使ってないし。


「まあいいや。とにかくこれで解決――って、あれ?」

「…………ふん」


 問題は華麗に片付いたというのに、九条の表情は不服そうだった。


「九条? どうした?」

「……なんでもない」

「いや、でも――」

「なんでもないったらなんでもないの! おいしかったわごちそうさまでした! ありがと!」


 と、九条はまるで怒っているようなテンションでお礼を言い放って、ポケットからスマホを取り出して脚を組む。


「お礼は今度するから。覚悟しときなさい」

「なんでそんな脅迫みたいな言い方なの……?」


 マズい、なんか怒ってるわ……。

 料理の味は問題なかったはずなのに好感を持たれないって、詰んでるだろコレ。

 どうやったらこれ以上嫌われずに済むんでしょうか……。

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