8日目 ツインテールちゃん誕生(日常パート)
今朝、俺はいつものように起きていつものように支度していつものように家を出て、そしていつものように学校へ着いた。
そこまで普段と何も変わらない。
だが、いつものように俺に挨拶をしてきたクラスメイトへ返事をしようと顔を上げた瞬間、俺の今日は日常から逸脱したといっていい。
「おはよう那珂川、言い朝ね」
「おは――え、ああ……うん、そうだな」
何食わぬ顔で着席する九条を横目で見ながら、俺は思考を巡らせる。
九条が。
ツインテールになってる。
カワイイ。
さすがトップクラスのビジュアルを持ち合わせているだけあって、まるでアニメのキャラみたいな仕上がりだが――問題はそこではないだろう。
普段は長めのボブである彼女が何故ツインテールに?
昨日の話が聞こえていたから? それとも偶然?
「……なに?」
「ああいや、別に」
いかん、見過ぎて気付かれた。
まあ最悪、経緯はいいとしても。
この状況――俺はどうするべきだ?
何かを言うべきなんだろうか。
それとも俺なんかが余計なことを言うべきではない?
うーん……以前、亜桜が髪を切った時は気付かなくて怒られた記憶がある。
ケースがたったの一例しかないので不安だが、それでも歴然としたデータであることに間違いはない。
言ってみよう。後は野となれ山となれって感じで。
「九条、髪型変えた?」
「まあそんなとこね。寝癖がついてたし、セットする時間もなかったから適当に結んできただけなんだけど」
「あぁ、応急処置みたいな感じ?」
「そ。別にそれ以外の理由なんてないから」
そう言って、気だるげに手ぐしで髪をとかす九条。
俺からしてみれば十分気合いの入ったセットにも見えるが……まあ男には分からない高レベルの話なのかな。
「それで? どう?」
「……どうって?」
「感想。話題にした以上、何かしら意見を述べるのが礼儀ってもんでしょ」
「ああ……似合ってると思うよ。可愛い可愛い」
「もっと」
「えー……そうだな、マジでいいと思う。まあ、俺なんかに褒められても大して意味ないだろうけど」
「そうね。特に嬉しくもないわ」
「えぇ……聞かれたから答えたのに……」
女心むずっ。
「ま、このヘアスタイルは今日だけだから、偶然とはいえ気に入ったのなら、精々目に焼き付けておくことね」
「あ、そうなの? 今日だけ?」
「寝癖がついたから仕方なくって言ったでしょ」
「マジか。じゃあもう二度と見れないんだ……はぁ、残念だな」
「……なにそのため息。え、そんなに残念?」
「個人的に一番好きな髪型だからな。現実で見かけることってほぼないし」
「ふ、ふぅん……」
と、九条は歯切れの悪い相槌を打って、いつものようにスマホを取り出しながら――
ボソッと一言。
「……まあ、また寝癖がついたら、コレにしてあげてもいいけど」