7日目 ツンデレちゃんイメチェン作戦(日常パート)
「で、昨日の紅白戦の時ね、私のスリーポイントシュートが9回連続で入っちゃってさぁ。もう大盛り上がり」
「ふーん……」
昼休み。
俺はいつものように絡んできた亜桜に対して相槌を打つ。
「すごいじゃん」
「いやいや那珂川、リアクション薄いって。『すごいじゃん』じゃないんだよ。9回連続なんだよ? スリーポイントだよ?」
「あの遠くから打って入れるやつだろ? 分かってるって」
「分かってるならなおさらその反応は薄いよー。アレ決めるの難しんだから。私だから簡単にできるんであってね?」
「ご自分で簡単って言っちゃってますけど」
だから俺はリアクションが薄かったの。
スポーツ漫画の主人公みたいな奴が話すエピソードなんていちいち驚いてられない。
「もー、那珂川つまんなーい」
「つまんないのになんでいっつも話しかけてくるんだ、お前は」
「良いリアクションを取ってくれない人には教えてあげなーい」
言いつつ、亜桜は「よいしょ」と俺の机の上に腰を下ろす。
「ちょ、どこに座ってんだ」
「立って話すの疲れるんだって。那珂川は座ったままだからいいだろうけど」
「俺の机が割れたらどうする」
「そんなに重くないわっ。ていうか私さー、そのうち髪切ろうかと思ってるんだよねー」
「話をコロコロ変えるなよ……」
「那珂川ってどんな髪形の女の子が好き?」
「……聞いてないね、清々しいほどに」
こうなると諦めてこっちも切り替えざるを得ない。
まったく、もう。
「俺はツインテールが一番好きだな。男の夢が詰まってるイメージだし」
「あー、ズルい。物理的に私がやりづらい髪形選んでるー」
と、頬を膨らませて不満を漏らす亜桜。
ツインテールにはある程度の長さが必要なので、髪を切ろうとしている亜桜にしてみれば面倒な答えというわけだ。
それにツインテールは運動に適した髪形でもないし。亜桜の場合はあんまり関係なさそうだけど。
いや、というかそもそも。
「別に亜桜が俺の好きな髪型にする必要はないだろ」
「ないことないよ。イメチェンしたら、那珂川が私と話す時のダルそうな態度が治るかもしれないし」
「それは外見の問題じゃない。俺は――」
と、そこで。
隣の席に座っていた九条様が――じゃなかった、九条がイスを引いて立ち上がった。
そして自らの席を指でトントンと示しながら言う。
「亜桜、ここ座っていいわよ。私しばらく戻らないから」
「えーホント? 九条ちゃんありがとー」
「いいのよ、どうぞごゆっくり」
そう言い残して、九条はスタスタと教室から出ていった。
……うるさかったかな。
「九条ちゃん優しいねー。あとすごい綺麗。那珂川の隣にはもったいないよ」
「んなこと言ってる場合じゃない。九条を怒らせちゃったかも」
「うん? どういうこと?」
「いやだから、俺たちがベラベラ喋ってたから出て行ったんじゃないかって」
「えー? お昼休みにジッとしてる方が珍しくない?」
「お前の場合はな。でも他の人は違うんだよ。九条は大体いつも自分の席でスマホいじってるから」
「ふーん。そんな風には見えなかったけどなぁ……あれはむしろ……まあいいや、一応あとで謝っとくよ」
と、亜桜はなにかを言いかけてやめ、別の言葉を繋げる。
そして。
「それよりさ、私がツインテールにして今度の公式試合に出たらどうなるのかな? やっぱ怒られる? でも面白そうじゃない? ねぇねぇ、試合見においでよ」
彼女の話題は再び、そんな雑談に回帰してしまうのだった。