6日目 ツンデレちゃんの呼び方問題(日常パート)
月曜日。朝。
また今日から新たな一週間が始まってしまうわけだが。
それはつまり、また九条や亜桜と顔を合わせることになる、ということである。
しかし問題はない。
土日を挟んだ結果、事態は既に解決している。
「はい、到着」
俺は下駄箱で靴を履き替え教室に向かう。
歩きながら説明しよう。
先週の時点で俺が抱えていた問題。それは「九条凛音は俺を嫌っている」というものだった。
カースト上位の女子に嫌われては平穏な学校生活は送れない。
しかしそれを解決する術を、俺は土日を思考に費やすことで編み出した。
要するに、敬意を払えばいいわけだ。
つまりどういうことかというと――おっと、着いてしまった。
説明するより実践してみせようではないか。
と。
俺は教室に入って、自分の机でウトウトと眠たそうにしていた九条へ挨拶した。
「おはよう九条さん」
「……ん、おはよう那珂……え、那珂川?」
「ああ、そうだけど」
「そうよね? え、私が寝ぼけてたのかしら……今なんて言った?」
「おはよう九条さん、と」
「九条……さん?」
つい先程まで眠そうにしていた九条は、その目を大きく見開いた。
おそらく、俺の敬意に感心していると思われる。
そう、考えてみれば当然だ。
なんで俺みたいな奴が九条のことを普通に呼んでいたんだろうか。
民衆がたとえうっかりでも王様のことを呼び捨てしたら死罪、なんて時代も昔はあったわけで。
この空間における九条は王族のようなものであり、俺は民衆であることに疑いの余地はない。
つまり敬称を備えることによって、九条への印象を良くしようという作戦だ。
が、しかし。
想定していたより九条の反応が良くない。
「えっと…… なんで『さん』が付いてるわけ?」
「なんでって……敬意をはらっているからだけど」
「私、那珂川に尊敬されるようなことは何もしてないんですけど」
「……嫌?」
「嫌よ。次の休み時間までに直しといて」
そう言って、九条は不機嫌そうにスマホを取り出した。
↓
――なるほど。
一時間目の授業をほとんど耳に入れずに考えた結果、答えに到達することができた。
おそらく敬意の表現が不十分だったと見ていいだろう。
「さっきはすまなかったな」
「別にいいけど。それよりさっき私が言った意味、ちゃんと分かった?」
「ああ、もちろん」
今度は大丈夫だ。
俺は最大限の敬意を込めて――彼女の名前を呼ぶ。
「九条様」
「なんでよ!!!!! 全然分かってないじゃない!!!」
ダメでした。
人生で一番キレられた。
「え……これでもダメ!?」
「よりダメになってる! いい? 私とあんたは対等なの。クラスメイトなのよ?」
「じゃあ一体……俺はなんて呼べば……?」
「……いや、普通に九条って呼びなさい?」