5日目 ツンデレちゃん話しかけられる(日常パート)
「……あ」
教室に到着すると。
今日は珍しく九条が先に来ていた。
「おはよう、那珂川」
「……ああ、おはよう」
まあ、だからといってなにがあるわけでもなく、俺は自分の机に座る。
「…………」
「………………」
……うん。
ものすごーく不機嫌そうな顔でスマホ見てる。
やはり俺の隣というのが気に入らないのだろうか。
なにもやらかした覚えはないのだが、他に思い当たる節もない。
うーん…………。
聞いてみようかな、いっそのこと。
雑談中にさりげない感じで。
「なぁ、九条ってさ」
「え⁉ な、ななななに⁉」
俺に話しかけられた九条はなぜか激しく動揺し、ゴトン、とスマホを机に落とした。
「……大丈夫か? スゴい音したけど」
「へ、平気よ、これぐらいで割れるほど私のスマホは貧弱じゃないから……! そ、それよりなに?」
「あーいや、全然大したことではないんだけどさ、九条って休み時間いっつもスマホ見てるじゃん? あれってなにしてるの?」
「な、なにって……?」
「だからほら、マンガ読んだりゲームしたりSNSみたりとか、いろいろあるじゃん」
「私はその……いや、えっと、別になにもやってませんけど?」
「…………なにもやってないの?」
「ええ、そう。ホーム画面で時間を見てるの。休み時間があとどれくらいあるかが気になって。悪い?」
「いや、悪くはないけど……」
予想外の返答。
ゲームに集中してたりシリアスなマンガに夢中になっていたりすれば、それを見ている表情が険しくなることもあるよな、とか、そういう納得の仕方ができたわけだが。
これは雲行きが妖しくなってきたな。
というかまあ、いきなり「スマホで何してんの?」って訊く俺の方に問題があるわ。どちらかというと。
「えっと……その、ホーム画面ばっか見てるのって退屈じゃない? 友達とお喋りしたりしないの? 九条、友達多そうだけど」
「多そう、じゃなくて多いわよ。休み時間にわざわざ話すほど仲が良い友達がいないだけであって」
「ってことは、意外とぼっち気質なのか」
「誰がよ。ここ最近はちょっと忙しかったから仕方ないの」
「なんかあったのか?」
「えっ……それは、その……」
九条はそこで顔を紅潮させ、気まずそうに目を横へ逸らす。
そして。
「いや、別にアンタに話す必要ないでしょ!」
キレられた。
うん、プライベートに踏み込んだのだから当然か。
やっぱり人付き合いってのは苦手だ。
「とにかく、私はスマホのホーム画面を眺めるのに忙しいの。……ああ、さっきの途中送信しちゃってるし……」
と、九条はなにやらスマホを眺めながら独り言を呟いている。
大体いつも指がフリック入力みたいに動いてるから、多分なにかしらやってるんだろうけど……これ言ったらまた怒られるんだろうな。
これ以上地雷を踏む前に今日は撤退するとしよう。
しかし……うん。
この感じだと、どう見ても嫌われてるよな。
あぁ……最悪の週末になりそうだ。