第01章 フェアリーに転生
【悪逆非道の限りを尽くした俺が、転生したら可愛い妖精に成って居た・・・】
一
「俺は死ぬのか・・・」
思えば、世の中の悪の限りを尽くして来た俺が、こんなところで死ぬのか。
相手は鉄砲玉か、いや、殺し屋だ。
一発で心臓に当てて来やがった。
こんな汚いドブ川で死ぬのか・・・
まぁ、しかし俺にはお似合いの場所かもしれない・・・
段々意識が遠のいていく・・・暗い・・・
もし次に生まれて来られるとしたら、もっと、ましな人生だといい・・・な・・・
意識を失った俺は、とうとう死んだようだ・・・
どれだけ時間が立ったのだろうか、段々意識がはっきりしてきた。
俺はなぜだか、花の中で眼を覚ましたようだ。
なんだ、ここは天国か?
そんなはずはない、あれだけ悪の限りを尽くして来た俺だ。
落ちる先は地獄だと相場は決って居る。
しかし、眩しい。
「あ、女王様、生まれました」
「あら、ほんと、可愛らしい女の子だこと」
何を言って居るのだ、俺の事か?
俺が女の子?それにコイツはなんだ?
まるで物語に出て来る、精霊みたいな恰好をして居る。
「女王様、名付けをお願いします」
「そうね、チャムって言うのはどうかしら」
「わぁ、可愛い名前。よろしくねチャム、私はリリィよ」
「さぁ、みんな集まって、新しく生まれたチャムの為に、お祝いの歌を歌いましょう」
あちこちの花の中から、妖精みたいなのが集まって来て、歌を歌い始めた。
「ち、ちょっと待ってくれ、ここはどこだ」
さっきまで楽しそうに歌って居た妖精たちが、歌うのをやめた。
みんな不思議そうな顔をして、俺の方を見て来る、覗き込んで来る奴もいる。
「私は、この森の女王のラフレシア、もしかしてあなたは前世の記憶を持って居るの?」
精霊の女王が話しかけて来た。
「俺は崎谷健司っていう名のヤクザ者だ」
まぁ、解ってはいたが、みんなキョトンとして居る、いつもなら、これでみんなビビってしまうのだが・・・
「前世の記憶を持っている者が居るとは、話しに聴いたことがあるけど、ホントだったのね、初めてだわ」
ラフレシアも不思議そうな顔で見つめて来た。
「なぁ、俺はどうしたら良いのだ?」
俺は、率直な質問をぶつけてみた。
「どうしたらって、あなたはフェアリーよ。ここで歌ったり踊ったりして、楽しく暮して行けば良いのよ」
はぁっ、この俺が楽しく歌ったり踊ったりするだと?ないないない。
なにがフェアリーだ、タバコは?ビールは?無いだろ?
オワタ、俺の人生、生まれて直に終わって居るじゃねぇか。
「さぁ、もう一度楽しく、みんなで歌いましょう、チャムも一緒に」
「だぁ~、待て、待て」
「あらどうしたの、チャム、楽しくないの、今日はあなたが誕生したおめでたい日じゃないの」
「楽しい訳ねぇだろ、だいたいそのチャムって言うのは、やめろ」
「あら、名前が気に入らないのね、チッチって言うのもあるわよ」
「ちげ~よ、そんなんじゃねぇよ、こんなところで暮せるかって」
「ダメよ、チャム、この森から出て行ったら最後、あなたは生きて行けないわよ、外の世界は危険なの。悪い魔物や魔王が居るのよ。あなたは弱いフェアリーなのよ。私の庇護の下でないと暮して行けないわ」
なんかコイツ上からだな、気に入らない。
「うるせぇ!俺はここを出るんだよ!」
言った瞬間飛び出してやった。
あれっ、俺、空飛んで居るよ。
スゲー、空飛ぶって気持ち良いなぁ。
てか、魔物や魔王ってまるでドラクエの世界だな。
フェアリーって攻撃力サイテーじゃね?村人にすら勝てねぇじゃん。
喧嘩では一度も負けた事ねぇ、あの俺が?お笑いだぜ、全くよう。
「チャム~、待ってよ~」
遠くから声が聴こえた、さっきのリリィとか言うヤツだ。
「なんだ、お前、連れ戻しに来たのか。無駄だぜ、俺は戻らねぇ」
「違うわよ、私も連れてってよ」
「はぁ~っ」
「だいたい私もうんざりして居たのよ。毎日歌ったり踊ったりして何が楽しいのか、わかんない。それに女王様って嫌いなのよ、ホントは・・・」
「お前、結構毒舌吐くねぇ」
「お願い、私も連れてってよ。さっきのチャムって恰好良かったわ。今まで女王様にあんな口きいたフェアリーって一匹も居なかったもん、私スッキリしちゃった」
「ふ~ん」
「で、いったいどこ行くの?」
「いや、別に決めてねぇ」
「なに、あなたバカ?無計画に飛び出したの?どうするのよ」
「知るかよ、嫌なら帰れよ」
「帰れる訳ないじゃなぃ。私だって飛び出して来たのだから・・・終りよ~、もう終わり~、私たちきっと魔物に食べられちゃう、終わりだわ~」
「うるせぇなぁ、ビィビィ泣くなよ」
「だって~」
リリィと言い合いしていると、いきなり雨が降って来た。
「お前がビィビィ泣くから、雨が降って来ただろ」
「そんなの、私のせいじゃないわよ」
「あそこにちょうど洞窟がある、雨宿りしようぜ」
「ダメよ、洞窟って魔物の巣じゃない」
「知るかよ、じゃあお前はそこで濡れておけよ、じゃあな」
「も~待って~、いくわよ~」
リリィと二人で洞窟に入った。
森を抜けてすぐ魔物の洞窟があるなんて、やはりこの世界は危険なのかも知れない。
俺は根性だけは座って居る、しかし今は可愛い女の子のフェアリーなのだ、余りにも無力すぎるぜ。
「おい、もっと奥に行って見ようぜ」
「あなたホントにバカなの」
「ドラクエならだいたい洞窟の奥に宝があるのだよ、ま、魔物も居るのだがな」
「なによ、ドラクエって」
「男のロマンよ」
「なにそれ、あんた女の子だよ」
それにしても気持ちの悪い洞窟だ。
今にも何か出て来そうなきがする。
ゴゴゴゴゴゴゴゴォ~
クソ、やっぱり出たか。
いきなり大きな音と共に、巨大なゴーレムが現れた、ヤベェ。
「ここはフェアリーの分際で来る様な場所じゃないぞ!」
ゴーレムが喋った、と言うか、怒って居る。
リリィは気絶寸前だ。
フェアリーって、なんか武器ってあったっけかなぁ・・・
ドラクエを思い出しても、何にも出て来ない、いや、フェアリーって最弱じゃん。
しょうがない、こうなったら気合いだ。
喧嘩は気合が八割って言うからな。
「こらお前、フェアリーだからってなめんじゃねぇぞ、この野郎、ぶっ殺すぞ」
「俺を誰だと思ってるんだ。俺はしつこいからな、俺が勝つまで終んねぇからな」
「ん?」
「ん?じゃねぇ、コラ、かかってこいや」
かかって来られれば困る、一撃でノックアウトされて昇天だろう。
しかし気合を入れて睨みつけてやった。
これが今の俺に出来る精一杯のハッタリってヤツだ。
「もしかして、ア、アニキか・・・」
なんだ、このゴーレムは、気持ち悪い。
「その啖呵の切り方は・・・絶対にアニキだ」
「なんだぁ」
「俺だよ、アニキ、三郎だよ」
三郎、俺が可愛がっていた舎弟だ、しかし四年前に交通事故で亡くなった。
「なっ、サ、サブか、四年前に交通事故で死んだ、サブかお前」
「そうだよ、そのサブだよ、アニキ~」
「おおお、サブ~、こんなところで再開できるとは・・・しかし、お前、変わったなぁ」
「アニキの方こそ」
「ハハハ、ホント、今じゃフェアリーだぜ、笑っちまうだろ」
あの心優しかった三郎が、魔物のゴーレムとはなぁ・・・
「それはそうと、サブ、お前も前世の記憶があるのだな」
「うん、初めてこの世界に転生した時は、ビックリだったよ・・・」
「ちょっと、私のこと忘れてない。ちゃんと紹介しなさいよ」
おっと、そうだった、リリィの事をすっかり忘れて居た。
「おぉ、そうだな、コイツはリリィ俺のダチだ。こっちはサブと言って、俺の弟分」
二人が照れながら挨拶を交わした。
「ところで、サブ、こんな所で何して居るんだ」
「あぁ、一応、宝物を守って居るんだよ」
「誰に言われて?」
「別に誰にって訳じゃないんだけど、洞窟の守り神だからさ、ゴーレムって言うのは」
「はぁ~ん、相変わらずしっかりした性格してんなぁ、サブはよう」
コイツは昔からしっかり者だった、転生しても全然変わって居ない。
「で、どこに有るんだ、その宝物は」
「ダ、ダメだってアニキ」
「ちょっとチャム、失礼過ぎない、ゴーレムちゃん困って居るじゃないの」
リリィが止めに入って来た。
「バカ野郎、宝物だぜ?見たいし、欲しいに決まってんだろ」
「あんたホントにバカでしょぅ」
「ダメだってアニキ、それにアニキの指には大き過ぎるって」
「お、指輪かよ、いいじゃん」
指輪と聞いて俺は欲しくなった、昔から貴金属は大好きだ。
「だからアニキ、これはそこら辺にある指輪じゃないんだ。勇者が魔王を倒す為の大事な奴なんだよう。俺はそれを大事に守って居るんだ、俺に勝てるような奴じゃないと、持つ資格がないんだよう」
「なんだお前さっきから、俺がフェアリーだからってなめてんのか?」
「いや、その、そんな訳じゃあ・・・」
「俺に勝てるとか何とか言いやがって、今まで俺が散々叩きのめしてるのを、忘れてんじゃねえよ、なめんじゃねえぞ」
「はい、すいませんアニキ」
「解ったら直に持って来いや、宝をよう」
「はい、すぐに・・・」
サブが慌てて宝物を取りに走って行く。
「あんたってサイテーね」
リリィがなんか言ったが俺は気にしない。
サブが奥から、宝箱を大事そうに抱えて持って来た。
「なんだよ、そんな大きな箱に入ってんの?ただのリングだろ?」
「アニキ・・・これはただのリングじゃないんだ。魔王を倒す為のアイテムの一つなんだよ」
「やっぱ居んのか、魔王ってのが」
「うん、居る」
「強ぇのか」
「めっちゃ強ぇらしい・・・」
「そか、まぁいいや、で、このリングは何ができるんだ」
「稲妻を落とすことが出来る、それもスゲー強力な奴を」
「おおお、いいじゃん、早く出せよ」
「でもコレ、やっぱ兄貴には大き過ぎるよ」
箱の中には指輪が一つ入って居るだけだった。
石も何も付いてなく、結構シンプルなヤツだ、周りに何か文字が刻んである。
銀製のリングだ。
リリィも横から覗き込んで来た。
「なんだよ、シルバーかよ。俺はゴールドが好きなのによう」
「あんたすごい事言ってるわよ、きっと罰が当たるわ」
ちょこちょこ横からリリィが口出しして来るが、まぁこの世界で初めて出来たダチだ、許してやる。
「ほら、サブ、見て見ろよ、指には大きすぎるから無理でも、首ならピッタリだぜ。ネックレスみたいで恰好良いだろ」
「ネックレスと言うよりは、首輪ね、犬、猫の」
リリィが突っ込んで来た、コイツはやっぱ一回シメとくか・・・
「よし、サブ、リリィ、行くぞ」
「えっ、俺もっすか?」
「はぁっ、行くってどこへ?」
「バカ野郎、そんなの、決ってんだろ。その魔王ってのを倒しにだよ」