私を無知だと笑った妹は正真正銘のバカでした ~辺境伯の地位の高さを知らない貴族などいるわけないのに~
「令嬢Mの暴露ストーリーが載ってるよ」
酒場の前で新聞売りのダニオが声をあげている。
平民と貴族がどちらも出入りする王都の酒場前は、新聞を売るにはもってこいの場所だ。
「一枚おくれ」
「まいどあり」
令嬢Mが貴族の内情を暴露する「暴露ストーリー」は人気の記事だ。
今日もあっという間に新聞は売り切れた。
売り上げの一部は記事を書いたメリザンド嬢に渡すことになっている。
「今月もだいぶ稼いでるな」
メリザンド・エモニエ嬢は子爵家の第二令嬢なのに、異常なほど金に貪欲だった。
金のために暴露記事を書くだけでもすごいと思うのだが、それをより多くの金に換えるためのやり方にもダニオは舌を巻いていた。
一つのネタを、これでもかと薄く引き伸ばして、何回にもわたって書くのだ。
そうすることで、客は毎週新聞を買うことになり、メリザンドの懐には一粒で三度も四度もおいしい金が入ってくる。
その恩恵を受けているダニオには、まったく文句はないけれど、あれでよく客が減らないものだと、時々不思議になる。
思わせぶりな見出しを付けるのが上手いからかもしれない。
「〇〇嬢に△△されたけど、無知な〇〇嬢は××だから□□した」
「〇〇子爵に婚約破棄された無知な××嬢が~」
「婚約していたのに浮気した無知な△△嬢は~」
とにかく無知であることをバカにして、自分と読者はモノを知っていると優越感に浸らせるのが上手い。
たぶん、本人が書きながら優越感に浸っているのだろう。
自分の知っていることを、たまたまほかの誰かが知らなかったりすると大喜びするのは、ほかのことをあまり知らない人間のすることだ。
だが、そういった自分の無知さには気づかない。そこがメリザンドの強みかもしれない。
ふつうは恥ずかしくて書けない。
バカって言う奴がバカなんだよと子どもの時によく言ったものだが、あれは本当だ。
賢い人間が誰かをバカにしているところはあまり見ないが、人をバカ呼ばわりするやつはたいていバカだ。
しかし、そういう卑しさや愚かさにこそ人は群がる。
貴族の令嬢でも卑しい人間はいる。
メリザンドに暴露される貴族たちも相当なものだが、メリザンド自身も相当卑しい。
品性のかけらもないとは、ああいうことを言うのだなと常々思う。
まあどうでもいいことだけど。
せいぜいいい気になって、周りを見下す記事を量産してくれ。
新聞さえ売れれば、中身がどんなものでもダニオの知ったことではなかった。
* * * * *
エモニエ子爵家には二人の令嬢がいた。
姉のブリジットと妹のメリザンド。
ブリジットの上に兄が一人いる。
爵位は子爵だが、小さいながらも肥沃な領地に恵まれ、事業も順調、貴族の生活水準の中でも、中の中くらいの暮らしを送っていた。
贅沢はできないが、生活に困るほどでもないと言ったところか。
ブリジットには幼い頃から婚約者がいて、名前をクロード・セリエールという。
西の国境を守るアダンの辺境伯で、子爵家の相手としては身分が高すぎるとも思えたが、なにしろ二人は幼馴染でとても仲が良かった。
さらに、前辺境伯がブリジットをいたく気に入っていたことから、婚約成立の運びとなったのだった。
明るい優しく聡明なブリジットに対して、メリザンドにはどうにも卑屈なところがあった。
姉ばかり褒められるのが面白くないのだ。
王立図書館に並ぶ民族史研究書を執筆する姉に対抗して、メリザンドも文章を書くようになったが、誰に見せても何を書きたいのかわからないし、文章も下手だと言われた。内容もないし、品性もないと。
だが、ある日ダニオという新聞屋から新聞を一枚買ったところ、そのへんの男女の醜いスキャンダルが書いてあった。内容もないし品性もなかった。なのに、なんだか最後まで読んでしまった。
新聞は一枚こっきりのペラ新聞だが、すみっこに記事募集の文字を見つけた。しかも紙面の半分を埋めるメイン記事を書いた時、その新聞の売り上げから少しばかりの分け前がもらえるらしい。
メリザンドは金が好きだ。
「令嬢M」の名で、身近な貴族の暴露話を書き始めた。
これが売れた。
はじめのうちは性的スキャンダルを中心に書いていたが、意外にも早く飽きられた。延々とくっついたりはなれたりする男女の話は、最初こそ刺激的だが、慣れてくると「またか」と思うらしい。
次に、いわゆる「ざまあ」展開、最後に嫌なやつがコテンパンにやられて「ざまあみろ」となるアレだが、そういう系を書いた。これはそこそこ長い期間人気を誇り、今も基本的には同じ路線で書いている。
ざまあされる人間の属性を「無知」にしたところ人気が爆上がりした。
無知なやつは多い。
みんなモノゴトを知らなすぎる。
世の中、バカばっかりで、ネタに困らないのも嬉しい。
毎週けっこうな金が入ってくるのもたまらない。いや、金はたまるのだ。たまるから楽しくてたまらない。
ネタには困らないが、せっかくの金づるなので小出しにしたい。
似たようなネタでいくらでも書けるし、ストックもあるが、新しいネタはいくらあってもよかった。何しろ金の元だ。
メリザンドは常に人の話に聞き耳を立てていた。
何を聞いても、相手のバカさ加減が目についた。自分が知っていることを知らないやつがいると嬉しくてたまらなかった。
世の中は本当にバカばっかりだと悦に入りながら、ウキウキした気分で立ち聞きを繰り返した。
* * * * *
どこかにバカがいないかな~と、学園や家の中を物色していると、応接室から姉のブリジットの声が聞こえてきた。
ブリジットは賢いことで有名で、メリザンドはいつも比べられて嫌な気分になる。
みんなが思うほど、ブリジットは賢いだろうかと常々疑問に思っていた。本当は自分のほうがはるかに賢いのではないだろうかと思うこともあった。
確か今日は婚約者のクロードが来ているはずだった。
クロードは黒髪のイケメンで、実を言うとメリザンドも少し憧れている。アダンの辺境伯でもある。高位の身分だ。
辺境伯か……。
そう言えば、この前、外国から嫁いできたという伯爵夫人が、田舎の伯爵を「辺境伯」と言ったのを、まわりの奥様方がひそひそ笑ってバカにしているのを聞いた。
辺境伯と伯爵を混同する意味がわからなかったが、その国の言葉では、そういう間違いが起きやすいらしかった。
辺境はたいがい田舎なので、まあ、この国の人でも間違えることはあるかもしれないけど……。
いや、ありえないな。
もちろんメリザンドも笑った。思いっきり笑ってやった。
間違えた人間をみんなで笑うことほど楽しいことはないからだ。
「辺境伯と田舎貴族をごちゃまぜにするなんて、無知ね」
「辺境伯の身分が高いことを知ってるのは、貴族として常識なのに」
奥様方も大喜びでそんなことを言い合っていた。
次はあのネタで書いてもいいかもしれないなと思ったのだが、言ったのが外国出身の伯爵夫人というのが弱い。
知らなくても仕方ないと思われたら、無知なところが強調されない。
笑い者にしにくいのではイマイチだ。
そんなことを考えながら、耳はしっかり応接室のドアに押し当てていた。
面白いネタはどこに転がっているかわからない。姉がボロを出してくれれば、さらに美味しい。
すると期待通りに、妙なセリフが聞こえた。
ブリジットがクロードに向かって「田舎貴族のくせに」と言ったのだ。
え、まさかお姉様、辺境伯の地位の高さを知らないの?
ありえないでしょ、と思う一方で、子爵令嬢の分際で図々しく婚約しているくらいだから、案外知らないのかもしれないと思い始める。
瞬時に、あの伯爵夫人(外国の人)を、お姉様にして書けばよくね? とひらめいた。
お姉様だとわかるように書いてやろう。
きっと大恥をかく。
お姉様がみんなからバカにされる!
そう思った瞬間、嬉しくて「バカを見下す舞」を舞ってしまった。
バーカ、バーカ、むっち無知!
バーカ、バーカ、むっち無知!
やめられない。
バーカ、バーカ、むっち無知!
バーカ、バーカ、むっち無知!
エンドレスで踊りまくった。
みんなでめちゃくちゃお姉様を見下す! 楽しすぎる!
辺境伯の地位が高いことも知らないなんて~!
侯爵に近い地位って、常識ですよね~!
無知ってどうしようもないですね~!
誰かをバカにするのって、なんでこんなに楽しいんだろう。メリザンドは笑いが止まらなくなった。
* * * * *
久しぶりにクロードが王都に来ていた。
クロードはブリジットの婚約者だが、どちらかというと気の置けない友だちと言ったほうがしっくりくる。
幼い頃、アダンの伯父のところに遊びに行った時に知り合った。
知り合ってすぐに意気投合した。
どちらも民俗学に興味を持っていたのがキッカケだった。
ブリジットが八歳、クロードは十歳の時のことだ。
あれから十年。
毎年、伯父の城に出かけて親交を深めてきた。
アダンやアダンと国境を接する隣国カシミロ帝国の風習を調べるのが、ブリジットの逗留の目的だった。
従姉妹たちが王都に遊びに来た時には、エモニエ家の城に滞在した。
ブリジットがアダンを訪ねた時も、伯父一家が快く受け入れてくれた。
伯父のオドラン男爵は母の兄上だ。
セリエール辺境伯の下でアダンに小さな領地を与えられ、役人として働くバリバリの田舎貴族。身分は高くないが、勤勉で人柄も温かく、ブリジットのことをとても可愛がってくれる。
年の近い従姉妹たちもブリジットに優しく、アダンに行く時はいつも楽しかった。
「最近、王都はどうだ?」
「相変わらず、平和ねぇ」
平和すぎて、刺激を求めた令嬢や夫人たちが、弱い者いじめをしている。
何が楽しいのか知らないが、誰かのちょっとした間違いを見つけては、鬼の首をとったように大騒ぎして、間違えた人を笑い物にしまくるのだ。
あれは笑っている人間のほうが恥ずかしい。
品性のかけらもない。
人の無知を笑えるほど、利口なつもりでいるのだろうか。
自分が知らなくて、ほかの人が知っていることが世の中にはたくさんあるということに、なぜ彼らは気づかないのだろう。
本当に賢い人間は自分以外の誰かを笑ったりしないものだ。
「世も末って感じ……」
ブリジットの呟きにクロードが視線を上げた。
「そんなにひどいのか?」
「本当は、全体の一部なのかもしれないけど……」
貴族も平民も出入りする中級の酒場が、中央通りの外れにある。
その前で売られている新聞が、かなり低俗でひどいらしい。
ブリジットも紙面に踊る見出しをチラ見したが、それだけでなんだか遠い目になった。
『〇〇嬢に△△されたけど、無知な〇〇嬢は××だから□□した』
『〇〇子爵に婚約破棄された無知な××嬢が~』
『婚約していたのに浮気した無知な△△嬢は~』
あれがかなり人気だというのだから、どれだけの大勢の人が他人の無知を笑いたいのだろうと思ってウンザリした。
しかし、実際の内容を知らずに一方的に見下すことはしたくないので、一度だけ買って読んでみた。
内容が薄くて、目が点になった。
紙面半分を使って繰り返し同じことが書かれている。
一行で書けよ!
と思わず新聞を丸めて投げ捨てた。
一行で書いても書き手の卑しさと悪意が透けて見えるような、醜い内容の記事だったのだが……。
* * * * *
「そこまでひどい内容だと聞かされたら、逆に気になるじゃないか」
クロードが笑う。
「一度、読んでみたい」
「お金と時間の無駄だと思うわよ」
「自分の目で確かめなければ、意見をいうことはできないって、さっき、きみが言ったじゃないか」
「そうだけど、あなたが読んだところで、どこでその意見とやらを言う機会があるわけ?」
クロードはううむと考え込み、「きみと意見を交換できる」と言った。
ブリジットは笑った。
「王都のどうでもいい与太話に付き合う暇なんてないでしょ? 日々、国境に目を光らせてなきゃならない、自称、田舎貴族のくせに」
二年前に、ブリジットを評価してくれていた前辺境伯が他界し、クロードはアダン辺境伯の地位を継いだ。
高い地位はそれなりの責任が伴う。
どうしても自分の目で読んで確認したいと言うなら止めないが、他人の無知を笑うだけの中身のない文章など、読んでいる暇などあるのか疑問だ。
「確かに、きみの言う通りだな、ブリジット」
おそらくその記事には価値などないだろうと、クロードもすぐに興味を失くした。
「それにしても、ものを知らないことをバカにするというのは、愚かな行動だな」
「そうね。何かを知らないことは恥ではないのに」
「むしろ、福音だ」
これから新しいことを知ることができる。
ささいなことで他人の無知をバカにして、自分が学ぶことをおろそかにするなら、そのことのほうがよほど愚かで恥ずべき行為だ。
学ぶ気持ちのある者にとって、知らないことがあるのは歓びでしかないということすら知らない。
先々成長するのはどちらかなど、誰の目にも明らかだ。
「人の無知を笑う人間が、どれほど賢いものか見てみたい気はするがな」
「どんな人が書いているのか、確かに興味はあるわね」
書いている文章のひどさや内容の卑しさから、品性も賢さも、みじんもないことは明らかだが、実際の人物がどんな人間なのか、確かにブリジットも興味があった。
そう思う自分も俗物なのだという自覚はある。
だが、自分をことさら立派な人間だと思うことも、人に思わせることも別にしようとは思わない。
人は神様ではないのだから。
俗なことも考えるし、間違いも犯す。
誰かの間違いや品性のなさを笑えば、自分の間違いや卑しさを認めにくくなる。
(あの新聞をバカにするだけでは、私も同じだわ。気をつけなくては)
それを自覚することで、恥ずべき態度を取らずに済むという一面もある。
自分の愚かさを知らない者ほど、とんでもないことをしでかすものなのだ。
* * * * *
「令嬢Mの新作暴露ストーリーが載ってるよ」
平民と貴族がどちらも出入りする王都の酒場前で、今日も新聞売りのダニオが声をあげている。
新聞には人気の記事「令嬢Mの暴露ストーリー」の新作が載っている。
「一枚おくれ」
「まいどあり」
今日もあっという間に新聞は売り切れた。
しかし、ダニオはその内容に笑ってしまった。
「いくらなんでも、今回の記事はないよな」
賢いことで知られるE子爵令嬢のBが、辺境伯の地位の高さを知らずに「田舎貴族」と相手をバカにしたという内容の記事だ。
個人的な恨みでもあるのか、これでもかと、ひとつのネタでしつこくB嬢をこき下ろしているが、さすがに辺境伯と田舎の伯爵を混同する貴族はこの言語圏にはいないだろう。
聡明なB嬢ならなおのこと。
B嬢でなくても、内容に無理がありすぎる。
以前、外国から来た侯爵夫人だか伯爵夫人だかが、その国の言葉のニュアンスのせいで混同したという話はどこかで聞いた。
笑い者にしたのは数人の下品な貴族たちだけで、ふつうに「それは別物だ」と誰かが教えて終わりだったらしい。
案外まともだなとダニオは思った。
ダニオの新聞を買ってくれる人たちも、大半はまともだ。
初めてこの国に来た人が間違ったり、何かを知らなかったりしたら、ただ教えてやれば済むということくらい知っている。
そもそもなんでもかんでも知っている人間などいるわけないのだ。
たまたま誰かが知らないことを自分が知っていた時、笑い者にするか、教えてやるか、そこに現れるのはその人の人間性だけで、たまたま知っていただけでマウントを取るほうが恥ずかしい。
第一、今回の記事はその外国の夫人ではなく、B嬢を笑っている。
まあ、ふつうにありえないよなと思う。
M嬢の記事を読んで、自分も賢くなった気になっている一部の人間は、まあふつうにバカなのだろうなと思う。
バカはバカなのだから、相手にしても仕方がない。
どのみち新聞さえ売れれば、中身がどんなものでもダニオの知ったことではなかった。
バカが喜んで買ってくれるなら、それはそれで大歓迎。
自分の恥を切り売りしていい気になってくれているメリザンドも、ダニオにとってはただの金づるでしかない。
「でも、そろそろこいつもオワコンだな」
さすがにここまで頭の悪い記事を書かれたら、読むほうもしらける。
代わりになる書き手を、どこかでスカウトしたほうがいいだろうなとダニオは考えた。
「バカの書くものには、やっぱり限界があるな。ま、似たような書き手はいくらでもいるし、売れればなんでもいいんだけどさ」
最近はもう少し中身のあるほうが好まれる感じだ。
少し新聞の内容をマシな方向にシフトしてみてもいいかもしれない。まあ、どう転ぶかわからないが。
それでダメなら、また下品な記事に戻せばいい。
いずれにしても、読み手の需要に合わせるだけだ。
ダニオとしては、新聞さえ売れればなんでもいいのである。
* * * * *
アダンに帰る前にエモニエ子爵の屋敷に寄ると、ブリジットではなくメリザンドが出迎えた。
「お姉様は、お父様に叱られているのよ」
「ブリジットが? なぜ?」
「家名に泥を塗ったからじゃないかしら」
なぜか得意げに笑ったメリザンドが、クロードに一枚の紙を見せた。
例の新聞である。
「王都では今、お姉様はいい笑い者になってるのよ」
クロードはざっと記事に目を通した。
内容が薄すぎて何が言いたいのかイマイチわからなかったが、要するに「賢いことで有名なE子爵家のB嬢が、辺境伯の地位の高さを知らずに田舎貴族呼ばわりした」ということが、えんえんと繰り返し書かれているようだった。
事業がそこそこ好調なE子爵とはエモニエ子爵のことだろう。
賢いことで有名なB嬢はブリジットのことだ。
まったく隠すつもりはなく、ほぼほぼまんまの特徴が書かれている。あえて誰であるかを特定させる意図を感じた。
「この記事が、王都に広まっていると?」
「ええ。とても人気のある記事なの。大勢の人が読んでいるのよ」
「それで、ブリジットの無知が広まって、笑われていると?」
「そういうこと。お姉様が、あんなに無知だったなんて、みんなビックリよ!」
きゃははははと目を三日月型にして笑うメリザンドを、クロードは得体のしれない化け物を見るような目で眺めた。
「クロード様、無知なお姉様なんかやめて、私と婚約しませんこと?」
続くビックリ発言に、ぞわっと鳥肌が立った。
なんなんだ、このアホンダラ娘は。
ねぇ、クロード様ぁ、としなだれかかってくる気配にさっと飛びのく。
メリザンドは怪訝な顔になった。
「お姉様のどこがいいの? ちょっと美人で頭がよくて、性格が明るいだけじゃない」
いや。それで十分いいと思う。
しかもクロードとブリジットは気が合う。関心を持つものが似ていて、一緒にいて楽しい。
「あんな民俗学オタク」
「いや。それは、僕も一緒だから」
かろうじて、それだけ言った。
なんだか、話が通じる気がしない。
とりあえず、待たせてもらうことにして居間に入ったが、メリザンドがついてきたので落ち着かなかった。
早くブリジットに会いたい。
会って、謎の空気から解放されたい。
手持ち無沙汰を紛らわすために、渡された新聞に目を落とした。
興味はないが読むふりをする。
そして、クロードはあることに気づいた。
「これ、書いたのはきみか?」
「あら。わかっちゃいましたぁ?」
嬉しそうにくねくねする意味がわからない。
「すっごい人気で、新聞売りの人からも次々依頼がくるの。お姉様の本なんて目じゃないくらい売れてるのよ」
「まあ、ジャンルが違うしな……」
ついまともな返事をしてしまってから、そんな場合ではなかったと思い直した。
「この令嬢Mがきみだとわかったら、大変なことにならないか?」
「大変なこと?」
「書かれた者たちから、訴えられても不思議じゃない」
王都にいる間は暇なので、友人たちと酒場に行った。
その時にダニオの新聞とやらを何部かチラ見した。ブリジットには読む価値はないと言われ、実際そうだったのだが、友人の一人が、知り合いがネタにされてずいぶん迷惑したという話をしたので、みんなで目を通したのだ。
書いた人間の品性を疑いつつ、書かれた側は黙ってはいないだろうなという話をした。
(まずいことになりそうだぞ)
クロードは目の前で能天気にはしゃいでいるバカ娘を見て、すうっと遠い目になった。
* * * * *
父の書斎から出たブリジットは、クロードの来訪を知らされて居間に向かった。
居間にはメリザンドもいて、何やらはしゃいだ声で話している。クロードを見ると、どこか疲れたようなウンザリした表情を浮かべていた。
「ブリジット!」
救いの女神を発見したとでもいうように顔を輝かせたクロードが、さっと立ち上がる。
メリザンドはバカにしたようにブリジットを振り向いた。
「お父様から叱られて大変だったわね」
「叱られていたわけじゃないわ。あなたのことで話し合っていたのよ」
「私のことで?」
本気でわかっていない様子に、ため息が出そうになる。
この子は本当にバカなのだ。
「ダニオとかいう低俗な新聞を売る新聞売りに、今回の記事のことでお父様がクレームを入れたの」
ふだん、そんな新聞があることも知らなかった父だが、取引先の某氏から、どうもお宅のお嬢さんのことが書かれているようだとペラい新聞を見せられたという。
はっきりとエモニエ子爵家のブリジットだとわかる書き方に、父は激怒した。
すぐに自らダニオを捕まえに行き、書いたのは誰かと問い詰めた。
『ふつうは教えないんですけどね。今回は、特別な状況だから、教えておきます』
そう言ってダニオが口にした名前に、父はさらに激怒した。
あまりに腹が立ったので、冷静になるために、まずはブリジットに相談したのが、先ほどの会合である。
「結論から言うと、あなたはカシミロの修道院に行くことになったわ」
「え? 何を言ってるの? お姉様……」
「お父様は、今は直接話す気もないらしいから、私から言うわ。あなたがしたことは、人としても貴族としてもとても恥ずべき事よ。ああいう記事を書くことを仕事にしている人もいるけど、あなたの書き方は、あまりにも人をバカにし過ぎている。書かれた人が怒らないはずがないでしょう」
「だって、バカなことをするから書かれるんじゃない」
「それでも、書き方というものがあるわよ。小さな失敗を見つけて、鬼の首でも取ったように徹底的に笑い者にする。自分がたまたま知っていることを知らない人がいることが、そんなに楽しい? その人をみんなで笑うことがそんなに嬉しい? あなただって、知らないことくらいいくらでもあるでしょう?」
はっ、とメリザンドは笑った。
「自分の無知を笑われたのが、そんなに悔しいの? お姉様」
「無知を恥だとは思っていません」
「負け惜しみを言うのはみっともないわよ」
「負け惜しみだと思うのはあなたの勝手だけど、知らないことがあるのは恥ずかしいことじゃないと、私は本気で思ってるわよ。だって、知らないことは調べたり人に教えてもらったりすれば済むことでしょう? 知らなかったり間違えたりした人に正しい知識を教えもしないで、バカにして笑うほうが恥ずかしいことだと思うわ」
メリザンドはプイッと横を向いた。
考えることから逃げたのだと思った。
「とにかく、事が公になればお父様の事業にも影響が出るかもしれないし、あなたには遠くに行ってもらうことになったから」
「嫌よ! 何で、私が!」
「もう決まったの。カシミロの修道院は厳しいところだから、覚悟しなさい」
* * * * *
無知な者を無知だと笑うことの何がいけないのだろう。
メリザンドには意味が分からなかった。
ものを知らないことは恥ずかしいことじゃないですって? いったいブリジットは何を言っているのだろう。
「恥ずかしいに決まってるじゃない」
メリザンドは新しい記事を書くことにした。
知らないことを恥とも思わないB嬢の記事だ。
「もっと笑い者になればいいんだわ」
ところが、例の酒場でダニオに会うと、記事はもういらないと言われた。
「さすがに、デタラメすぎるんじゃないかって、苦情が殺到してさ」
「デタラメじゃないわ。本当に、お姉様は無知なんだから」
「だから、そこがさ。あのブリジット・エモニエ嬢が、無知っていうのに無理がありすぎるんだよ。ふつうの貴族だって、辺境伯の地位の高さを知らないわけがないんだから。逆にM嬢、つまりあんたが笑われてるよ。いくらなんでも、盛りすぎだってね」
「なんでよ。なんで、私が笑われるの? 本当にお姉様は知らなかったのよ! 田舎貴族って呼んでるのを聞いたんだから」
「仮にそうだとしても、それくらいのことであそこまでこき下ろすのは、ちょっとやりすぎたな」
それに、とダニオは言う。
「あんたの父親からも釘を刺されちまったしさ」
「お父様? お父様に私が書いてるってばらしたのは、あんただったの?」
「だって、黙ってちゃ悪いだろ。貴族の娘が、いわば身内とも言える貴族のスキャンダルや落ち度を暴露して、めちゃくちゃ笑い者にしてたんだ。バレたら、ただじゃ済まないよ。その時に、一番迷惑するのは、あんたの父親だ。教えてやらなきゃまずいと思ってさ」
だから、今のうちに手を引けよとダニオは言った。
「じゃないと、父親に迷惑がかかるぜ。俺は、もうあんたとは関わり合わないでおくよ」
それがメリザンドとエモニエ子爵家のためだとダニオは続ける。
メリザンドは納得できなかった。
「何よ。私の記事が載ってるから、新聞は売れるのよ! 私が書かなくなったら、あんたが困るのよ? それでいいの?」
勝ち誇ったような顔で言い放つが、ダニオは視線も上げずに笑っただけだった。
「代わりの記事を書く奴なんか、いくらでもいるさ。あんたの記事がなくたって、新聞は売れる」
「嘘よ。強がらないで」
「強がってなんかいないよ。あんた、何か勘違いしてるみたいだけど、新聞が売れるのは俺の力だ。あんた程度の記事を書く人間なんか、すぐに見つけてみせる」
それより、とダニオはメリザンドを見上げた。
口元がにやりと笑う。
「あんた、どこかの修道院に送られるんじゃないのかい? こんなとこをふらふらしてて大丈夫かい? 修道院が牢獄に変わらないうちに、屋敷に戻ったほうがいいんじゃないか?」
「牢獄?」
「名誉棄損で訴えるって言ってる貴族がけっこういるんだよ」
「なんですって?」
「俺としては、自分の身は守りたいし、いよいよとなったら、あんたの名前を出す可能性もなくはない」
「あんた……」
「なるべく証拠が増えないように、俺とこんなとこで会ってるところは、人に見られないほうがよくないか? 目撃者が大勢いたんじゃ、白を切るのも難しくなるだろ?」
「この、ろくでなしが!」
捨て台詞を投げつけてメリザンドが立ち上がる。
何を言われようが、どこ吹く風のダニオは「せいぜい正体がバレないように、頑張るんだな」と言って、酒場を出ていくメリザンドにひらひらと手を振った。
* * * * *
「新作の暴露ストーリーが載ってるよ」
酒場の前で新聞売りのダニオが声をあげている。
平民と貴族がどちらも出入りする王都の酒場前は、新聞を売るにはもってこいの場所だ。
「一枚おくれ」
「まいどあり」
今回の「暴露ストーリー」はとっておきの最高傑作だ。
超覆面作家が寄稿した最初で最後の記事。
二度とお目に掛かれないキレキレの文章。
ただし、中身はいつも以上に「ざまあ」が炸裂している。実に興味深い。
『某M嬢の転落人生』
姉の「無知」を笑い者にしたせいで自分の頭の悪さを露呈した上、これまでの行いがすべて父親にバレて、隣国の修道院に送られることになったM嬢の話だ。
絶対売れるし、評判になると踏んで、ダニオはいつもの倍以上の枚数を刷っていた。
書いたのは、極秘中の極秘だが、アダンの辺境伯であるクロード・セリエール卿である。
婚約者であるブリジット嬢をバカにされたことが面白くなかったらしく、匿名で「事の顛末」を書き記したいと言ってきた。
あまりの大物の出現に、さすがのダニオも動揺してしまった。
そのせいで、いつもの商売の勘が狂ったようだった。
新聞は飛ぶように……、売れなかった。
ちらほらとしか売れない。
(なんでだ?)
客の様子を慎重に探る。
「なんだか、今回の記事は、こむつかしくて読みにくいな」
「内容が詰まりすぎてて、頭が痛くなる」
読み始めてすぐに、客たちは新聞を放り出していた。
たまに熱心に読んでいる客もいるが、ほとんどの客が、「イマイチだな」と肩をすくめていた。
その様子を見て、ダニオは反省した。
ダニオの新聞はメリザンドが書くくらいの文章がちょうどいいのだ。
内容も、あのくらい薄いほうが、読み手の頭に入りやすい。
(背伸びをし過ぎたな……)
売り上げの一部を支払う約束は辺境伯とも交わしている。
断られたが、そこはダニオの矜持もあるので、決まりは決まりということで納得してもらった。
しかし、この調子ではいくらも支払うことはできないだろう。
ちょっと高尚な路線に移行してみることを考えていたダニオだったが、それはやめておくことにした。
ダニオにとっては内容の良し悪しよりも売れるか売れないかが大事だ。
下世話で頭の弱いくらいの記事が売れるなら、そういうものを載せたほうがいいのである。
そう。ダニオは新聞さえ売れれば、中身はどんなものでもいい。たとえ、その良し悪しが自分にわかっていても、薄くて中身の悪いものが売れるなら売れるものを売る。
それがダニオの生きる道だ。
偉そうなことを言う気はないし、なんなら自分がバカだと思われてもいっこうに構わないのである。
* * * * *
カウチに座ったクロードを見下ろして、ブリジットはため息を吐いた。
エモニエ子爵家のブリジットの私室の居間で、手にはダニオの新聞を持っている。
「何をやっているの、クロード……」
「いや、ちょっと、黙っていられなくてね……」
キリっとしていれば超イケメンの辺境伯は、情けなく眉を下げて笑った。
「あなたもたいがいバカな人ね」
「……自分でも、そう思う」
ゆっくりと真顔になって、クロードは視線を落とした。
「しかも、僕の記事はメリザンドの記事より人気がないんだ。あの、ダニオという新聞売りが、ほとんど赤字で原稿料は出せないと言ってきた」
「あら……」
広大なアダン領を治める辺境伯にとって、ペラ新聞の原稿料など微々たるものだ。だが、品のない記事に手を染めた上、その記事がメリザンドより人気がなかったと言われて、クロードは若干ショックを受けたらしかった。
なにやら落ち込んで、両手で顔を覆って目を閉じてしまう。
幼馴染でもあり婚約者でもある青年の、いつになく凹んだ姿を見て、ブリジットはなんだか笑ってしまった。
「それはそれは、残念だったわね。あの子はバカなことをしたけど、ちゃんと売れる記事を研究して書いてたらしいから、負けても仕方ないんじゃない?」
「そうか……」
「そうよ。頭がいいからって、天狗になったり油断したりしてれば、その道で努力してきた人には負けるわよ」
「別に天狗になっているつもりはないよ」
「でも、書きたいことを書いただけで、ニーズは掴めてなかったってことでしょ」
「手厳しいね」
覆った手の中からクロードが目を上げて、ブリジットを見た。
「でも、そういうバカなところ、けっこう好きよ」
「え……?」
「誰でも失敗はするし、バカなこともするわよ」
それをいちいち責めたり笑ったりするのは、なんだか窮屈だし、心が貧しい気がする。
「私だって、いつか何かしでかすかもしれないし。間違いも失敗もそこそこやらかして、ちょっとバカなところもある人のほうが、気が楽だし、好きだわ」
「ブリジット……」
クロードは顔を上げ、カウチから立ち上がった。
ブリジットの正面に立つと、真面目な顔になって言った。
「ブリジット、相談がある」
「何?」
「僕たち、そろそろ、長い婚約期間にピリオドを打たないか?」
ブリジットは軽く眉を上げた。
「それはつまり、婚約を破棄するということ? それとも……」
「わかってるくせに」
クロードは笑い、ふいうちに、さっとブリジットの唇を奪った。
「ちょ……っ」
「ブリジット、僕の妻になってほしい」
ブリジットは少し赤くなってクロードを睨む。
それから、ふっと軽やかな笑みを浮かべて頷いた。
「いいわよ。喜んで」
「ホントに? よかった……」
「断られると思ったの? 私たち、ずっと婚約してるのに?」
「そうだけど、僕はバカだし」
ブリジットはぷっと噴き出してしまった。
「笑い事じゃないよ。一応、気持ちは確認したい」
瞳を覗き込まれて、ブリジットは観念した。
「僕はきみが好きだ。きみは、僕のことが好きかい?」
「ええ、好きよ」
ほっとした様子で、クロードは綺麗な笑みを浮かべた。
それから、今度はゆっくりブリジットにキスをした。
「僕たちは、きっとうまくやっていける」
「ええ。でも、けんかもするかもよ?」
「うん。たくさんしよう」
「たくさんなの?」
「うん」
いいことばかりでなくていい。
いいことも悪いことも、いろいろあっていいのだ。
「ダメなところはお互いに補い合って、許し合ってやっていこう」
「そうね」
間違ったり、バカなことをしたり、たくさん失敗をしたりしながら、一緒に生きていこうと笑い合う。
気の置けない友だちのような関係から、少しだけ甘い関係になって。
ブリジットもクロードも、おそらく情熱的な恋をするようなタイプではない。
クロードがブリジットでいいと言ってくれるなら、クロードと夫婦になるのは、ブリジットにとっても嬉しいことだった。
クロードより好きな相手もいないのだ。
「お父様に今後のことを相談しに行きましょう」
* * * * *
長い期間を婚約者として過ごしてきたブリジットとクロードとの結婚は、王からもすんなり承認された。
ふつうは添えられることのない祝福の言葉が添えられていて父は驚いていたが、おそらくクロードの地位が高いせいだろうと言って、嬉しそうに顔をほころばせた。
「辺境伯の夫人というのは、大変な立場だ。しっかり務めるんだぞ」
父の言葉に、ブリジットは感謝で胸をいっぱいにしつつ、気持ちを引き締めた。
クロードがアダンに戻らなければならないため、王の承認が降りるとすぐに、ブリジットも王都を発つことになった。
結婚式はクロードの領地であるアダンで行う。
両親と、次のエモニエ子爵夫妻である兄夫婦が、詳細な日程が決まり次第アダンに来て式に参列することになった。
「メリザンドはどうしましょうか」
母と兄夫婦がこっそり相談に来た。
父がカンカンに怒っているので、出席させるのは無理かもしれない。ブリジットがそれで心残りにならないかと確認に来てくれたのだ。
メリザンドが預けられたカシミロ帝国の修道院は、アダンの城から、それほど遠くない。
バカな子だけれど、メリザンドは妹だ。できれば出席してほしかった。
いずれ結婚する予定だったとはいえ、わりと急に日程が決まったので、慌ただしく準備に追われていた。
メリザンドのことを父に言い出せないまま、出発の日が近づいてきた。
そんなある日、ブリジットの準備を待つだけだったクロードは友人たちと飲んでいたとかで、王都の酒場で売られていたダニオの新聞を手に入れてきた。
そこには「修道女Mの暴露リポート」なる記事が載っていて、知られざる修道院の世界をつまびらかにするとあった。
「メリザンド……」
「何と言うか、たくましいね、彼女は……」
これは、言えない。
メリザンドを許して招いてほしいなどとは……。
メリザンドに対しては何のわだかまりもないし、結婚式にも出席してほしい。
けれど、考えてみれば、メリザンドはそれを望んでいないかもしれない。
メリザンドが好きなのは他人の不幸や落ち度であって、誰かの幸福な場面には、たとえそれが実の姉であっても、あるいは実の姉だからこそ、興味がないのではないかという気がした。
「ちょっと複雑な心境だけど、メリザンドが出席するかどうかは、お父様の考えにお任せするわ」
ブリジットからは何も言うまい。
結婚式に出席してもらえれば、それはそれで嬉しいけれど、メリザンドに対しては、ふつうの家族愛を期待するよりも、別の考え方に切り替えたほうがいい気がする。
「あの子なりに元気にやってるみたいだし、それでいいかなって気持ちになったわ」
「許すのかい?」
「あまり人を傷つけるような記事は書かないでほしいけど」
それだけは心から願う。
「でも、懲りずにたくましくやってるところは、たいしたものだわ」
「確かに」
クロードが笑う。
「もう少し、懲りてもいい気がするけどね」
かすかに棘を含んだ言い方に、もしかしたら小さな嫉妬がクロードの中にあるのだろうかと、淡い匂いをかぎ取って、ブリジットは微笑んだ。
どんなに立派な人でも、少しだけ人目を気にしたり、自分のことが気になったりすることはあるのではないかと思う。
自覚がないだけで、ブリジット自身にもそういうところが全くないと言い切ることはできない。
あからさまなデタラメでも、メリザンドの書いたものを読んで、ちょっとイラっとしてしまった。
(クロードに至っては、謎の暴走をしでかしたし……)
それでいいのだと思う。
人間なのだから、完璧でなくていい。
つまらないプライドも、くだらないマウント合戦も、ある程度はあっても仕方ないと思う。
あまり極端になっては問題だけれど、そうでない場合は、お互いに目をつぶって許し合ってもいいのではないか。
メリザンドが、この先少しでも、相手のことを考えることを学んでくれればと願って、相変わらず中身のない薄い内容の、けれど一部の人には人気のある新聞を静かに閉じた。
(ただし、メリザンドが書いているとは言わないまでも、やはりこれはお父様に見せなくては。もし本当にあの子が書いていて、それが知れ渡ったら、お父様の事業に支障が出るかもしれないし……。それは、大変。メリザンドには悪いけど)
遠いカシミロの地にいる妹には、やはり少し懲りてもらうしかなさそうだ。
―了―
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