07
激しい痛みに、意識が遠のき始める。
どうやら、少し調子乗ってしまったようだ。
最早、立ち上がる事は難しいかもしれない。
諦めかけた僕の耳に、確かにそれは聞こえた。
僕が愛する人の声だ。
全身に、力が漲る。
僕は、身体を一気に跳ね上げて立ち上がった。
「立ちました! マーベラス、復活~!」
会場に声援が湧き上がる。
僕は、ふら付きながらも奴を見て笑みを浮かべる。
「ふん、立ち上がった所で、どうするんです? 貴方の攻撃は当たりませんよ?」
「ふふ、それは、どうだろう、ね!」
僕は、目を瞑り、力を振り絞って拳を振る。
その拳は、寸分狂わずに、奴の顔面を捉えた。
「ば、馬鹿な! 何故だ? 何故当たる!」
「君の超常は、相手を切り裂くモノじゃない。あれは、単純に、凶器さ」
僕は、目を瞑ったまま、回し蹴りを放つ。
その蹴りは、またも奴にヒットし、膝をつかせる。
「君の能力は、相手の精神に干渉して視覚を狂わすモノ【サイコジャック】と、でも、言うのかな?」
「お見事、貴方の言うとおりですよ。だが、だからと言って、対処出来るのもでは無い筈」
「それはね、君から香る、芳しい香りが教えてくれるのさ」
僕は、バク転でロープを蹴り、その勢いで、奴に身体を叩き付ける。
「なんだと? 汗の匂い、だと? まさか、その為に、私の攻撃を受けたと言うのか?」
「それだけじゃ無いさ、僕は、それが好きで、堪らないのさ」
僕は彼に笑顔を見せて、一気に駆け出す。
「な、なんだと? 超常が使えない、圧倒的不利な戦いをするのも、攻撃を喰らうのも、好きだからだと言うのか?」
「そうさ、勝ち目が見えない恐怖、身体中に染み渡る痛み、そして、ぶつかり合う身体、正に」
僕は、彼の首と股を掴み、優しくまざぐった後に肩に乗せて叫ぶ。
「マーべーラースー!」
「や、止めろ! 止めてくれ!」
そして、彼は、絶叫を上げて絶頂を迎えた。
「ご馳走、様、でした」
カン! カン! カン! カン! カン!
「決まった~! マーベラス・ブリーカー。マーベラス、遂に勝利だ~」
試合終了のゴングの後、慌しく新警察が駆けつけてジェントルを拘束する。
マスク・ド・ファイトに敗れた犯罪者は、その権利を失うのだ。
ともあれ、これで一人の犯罪者は拘束され、少しだけ、世界は平和になった。
しかし、彼の戦いは、まだ終わらない。
この世にマスク・ド・ファイトがある限り。
この世に、彼の快感がある限り。
正体不明の無敵のヒーロー。
彼の名は......
マスク・ド・M