03
スポットライトを浴びた紳士は、恭しく、会場の観客たちに礼をする。
その姿を見た実況が、興奮した声をあげる。
「おっと~! これは、乱入者の登場です」
マスク・ド・ファイトでは、自主的な乱入が認められている。
もっとも、それが、会場を沸かせるものであればと言う条件付ではあるが。
「しかも! 今回の乱入者は、あの、有名な殺人鬼。現代のジャック・ザ・リッパー。殺人紳士・マスク・ド・ジェントルだ~~!」
マスク・ド・ジェントルは、未だ、逮捕されていない犯罪者である。
マスク・ド・ファイトに勝ち続ける限りは、新警察は逮捕権を持たない。
この新法律を利用して、悪事を働き続ける組織がある。
彼らは、人類解放軍と名乗っている。
マスク・ド・ジェントルは、その幹部、悪鬼12天の一人でなのだ。
当然に組まれた好カードに、会場は沸きあがる。
「人気急上昇のヒーローに、死神の鎌が振り下ろされる!」
ジェントルは、その場から高く跳躍してリングに降り立つにと、会場に向かって礼をする。
会場に、今までに無い程の歓声が上がった。
この場では、例え犯罪者であろうとも、強ければ、敬意が向けられる。
マスク・ド・ファイトとは、そういった競技なのだ。
「英雄には、乱入を拒否する権利はありまん。いや、たとえあったとしても、それはしない。それが、英雄なのだから!」
解説の煽りにあわせて、ジャスティスは会場に闘志をアピールする。
いま、今夜のメインマッチが始まったのだ。
カーン!
ゴングと共にジャスティスが仕掛ける。
その逞しい身体を躍動させて回転しながらキックを放つ。
ローリング・ソバットだ。
豪快な風切り音をあげて、そのキックはジェントルを襲う。
「ああ~っとぉ! これは、どうした事でしょうか? ジャスティスが空振りだ~」
その後も、ジャスティスは果敢に攻める。
キック、パンチ、パンチ、パンチ、キック。
しかし、その全てが、ジェントルには届かない。
それどころか、ジェントルはかわす素振りすらも見せなかった。
「ん、ん~。どうしたんですか? 英雄? 私は、一歩も動いてませんよ?」
ジェントルは、ジャスティスを挑発すると、大振りの攻撃で反撃を開始する。
「おっと! 今度は、ジェントルの反撃だ~」
ジャスティスは、その攻撃を回避、若しくは、ガードをしようするが、そのことごとくがヒットする。
「どうしたんですか? こんな大振りも避けられませんか?」
ジャスティスが膝をつくが、その攻撃は止まらない。
「ジャスティス、滅多打ちだ~! このまま、勝負は決まってしまうのでしょうか?」
「しかし、タフですねぇ。流石は英雄。と、でも言うのですかねぇ? しかし、これは、どうでしょうか」
ジェントルが拳を開き、その手を伸ばす。
そして、それを、一気に振り下ろした。
会場から、悲鳴があがる。
ジェントルが振り下ろした腕が、ジャスティスの身体を切り裂く。
これが、彼が現代のジャック・ザ・リッパーと言われる所以、【切り裂く腕】だ。
「これは残酷! ジェントル、攻撃の手を緩めません」
数度の攻撃により、裂傷を負ったジャスティスは、遂に、リングへと沈んだ。
「ふふふ、それでは。止めを刺してあげましょう」
ジェントルは、ジャスティスの身体に深々と自らの腕を突き刺して、愉悦に浸る。
しかし、それは長くは続かなかった。
その、突き刺さった腕をジャスティスが掴んだからだ。
「この瞬間を待っていたぜ。お前は、止めを刺すときに必ず腕を突き刺す。今まで殺された英雄の死は、無駄では無かったって事だ」
「く、馬鹿な!」
その時、ジャスティスの仮面が輝く。
「行くぞ! 【リミット・ブレイク】」
ジャスティスは、ジェントルの腕を掴んだまま、高速で回転する。
「腕を掴まれてしまえば、避けることは出来まい。このまま、コーナーポストにぶつけてやる」
ジャスティスは、狙いを定めてジェントルをコーナーポストに投げる。
流石のジェントルにも、余裕の顔は無かった。
この勢いでぶつかれば、間違いなく即死だろう。
遂に、激しい戦いは決着を迎えた。