02
東京の中心にある、巨大ビルの地下闘技場で、それは行われていた。
「レディース、ア~ンド、ジェントルマン! お~待たせ、致しまっしたぁ!」
リング上で、きわどい衣装を来た女性がマイクパフォーマンスをする。
「さってぇ! 今回の、英雄は~、正統派ヒーロー、10戦無敗、ジャスティスマスク~」
アナウンスと共に、会場に大声援が巻き起こる。
マスク・ド・ファイトの表の顔、大人気ファイター、ジャスティスマスク。
その超常能力は、時間限定で、脳のリミッターを外す、【リミット・ブレイク】だ。
鷲をモチーフにしたマスク、鍛え抜かれた逞しい身体。
そして、瞬間的に増強した筋力で、相手を絞め殺すファイトスタイル。
残虐性が極めて低い、クリーンなファイトが彼の人気の理由で、子供を中心に、そのファンの年代層は幅が広い。
「そっして~! 今回、処刑されてしまう、可哀想な生贄は此方。この東京の路地裏で、婦女暴行をはたらいた不埒者、イビル・ジョー!」
アナウンスの後に、盛大なブーイングが巻き起こる。
犯罪の内容がそれでは、仕方が無いことだ。
盛大なブーイングを浴びたジョーは、悪びれずに笑う。
「おいおい、コミッショナーも分かってねぇな。これは、ショーだぜ?俺の相手は、ヒーローじゃなくて、ヒロインだろうよ」
「あんたみたいな悪辣を、英雄が成敗するを見たいのよ。観客はね」
リングガールは、軽蔑の眼差をジョーに向ける。
「言うねぇ、生意気な女には、お仕置きが必要だなぁ」
ジョーのマスクが、軽く光る。
そして、ジョーは、リングガールの目の前に、女性用の下着を出す。
「え! まさか!」
リングガールはその場にしゃがみ、顔を真っ赤にする。
「か、返して!」
「いやだねぇ、なんなら。全部、盗ってやろうか?」
会場内に、下品な歓声があがる。
「どうだ? 凄いだろ? 俺様の【神秘の手】は、この手で持てる大きさなら、何でも盗めるぜ」
リングガールが這い蹲りながら逃げていく。
その内にも、彼女の衣装は次々に剥ぎ取れて行く。
ジャスティスは、ジョーを睨むと、大声で言う。
「はやく、ゴングを鳴らしてくれ! もはや、我慢の限界だ」
「くくく、ゴングを待たないと、殴れもしない、良い子ちゃんがぁ。俺様に、勝てるって言うのか?」
ジョーは、ジャスティスを挑発する。
両者の視線が、火花を散らす様に激しくぶつかった。
その時、ゴングは鳴り響いた。
「さて、嬉しいハプニンで始まりましたが。実況は、私、マスク・ド・ファイト大好き。千田がお贈り致します」
リング上で睨みあった二人は、互いに、有利な距離を保とうと動き出す。
「さて、先ずはお互い様子見でしょうか?」
ジョーの、巧みな足裁きに業を煮やしたジャスティスは、一気に駆け出し、ロープを利用してドロップキックを繰り出す。
「お~とぉ! やはり、先に仕掛けたのジャスティスだぁ!」
ジョーは、そのドロップキックをいつの間にか取り出した、パイプ椅子でガードする。
「なんと、イビル・ジョー。私の椅子をアポートしてドロップキックを防いだ~!」
パイプ椅子は、激しい音を立てて壊れたが、ジョーは、その壊れたパイプをジャスティスに突き刺す。
「ぐは!」
「どうだ、痛いか? 良い子ちゃん。だが、虐殺ショーは、まだまだ、これからだぜ!」
ジョーは、膝を突いたジャスティスの顔面を蹴り飛ばし、キョキョキョ! と、不気味に笑う。
「そして、その破片を、残酷にも。ジャスティスに突き刺す。これは、ジャスティス。絶対絶命の大ピンチだ~」
「英雄ってのは、不便だなぁ。相手に、超常がばれちまってるからな」
「そんなモノは、ハンデに等ならん」
その時、ジャスティスのマスクが一際大きく輝きだした。
突き刺された傷は塞がり、彼の筋肉が盛り上がる。
一時的に、身体能力を劇的に上昇させる超常、【リミット・ブレイク】だ。
そして、彼は、その拳をジョーの顎にめがけて突き上げる。
その拳は、狙い違わずジョーの顎に突き刺さり、彼の、カラスを模した仮面ごと、その顔面を打ち砕いた。
「どんなに警戒していようが、避けられないスピードで当てれば、問題は無い」
カン! カン! カン! カン!
「此処で、イビル・ジョーの死亡を確認。ジャスティス、圧倒的強さで勝利をもぎ取りました」
ブゥン!
大歓声が巻き起こる中で、突如として照明が落ちる。
静まり切った会場に、コツ、コツと、足音だけが鳴り響く。
カ!
そして、突然。
スポットライトが何者かを照らし出した。
その中に現れた者は、英国紳士の様な格好をしたパピオンマスクの男だった。