お出かけ
楽しんで頂けたら嬉しいです。
あ、母上おはようございます。今日も素敵ですね。では、おやすみなさい。ちょっとブランケットは大事なので取らないで下さい。
まだお昼ですよ。もう少し寝たいです。え?昨日まで寝かせてくれたじゃないですか。ダメなんですか。
は?母上もう一度おっしゃって下さい。母上の冷たい微笑みが気になって聞こえませんでした。
こ、婚約者候補様が来ている?いやいや、正式に婚約のお誘い来ましたけど本人も来るとかないでしょ。
あっ、本当ですか。それは、兄上も怒ったら大変ですね。命が欲しいので今日は起きますよ。母上、ごめんなさい。
だから、母上が手に持っている私の愛読書持っていかないで。やめてー。
王族の親戚のムービル公爵家の爵位後継者ディリス。方や、ディルワーズ公爵家引きこもり令嬢フレア。なんか登場人物が違ってません?
「ご気分がすぐれないのに来てしまって申し訳ありません。フレア大丈夫ですか」
「いえ。もう、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
私の愛読書を人質に囚われ最短で用意いたしました。まだ、続きが。最後の良いところなのに。
母上のあの悪魔みたいな……素敵なお顔を悲しませるわけにはいかないですからね。
でも、相変わらず婚約者候補様はキラキラしていますね。顔が赤い?ちょっと緊張してるだけです。
この前の事を思い出して顔が赤くなんてなってないですから。本当になってないです。
ち、近寄らないで下さい。手を取るとか、私と経験値が違うんですから。
「では、今日は買い物にでも行きませんか。行きたいところがあれば言って下さい」
「買い物ですか?」
婚約者候補様と一緒に入れるのは嬉しいですが、外に出るのはあまり嬉しくはないです。
子供の頃にちょっとあってトラウマがありまして。あれは半分以上兄上のせいですが。
そりゃ、遠い目にもなりますよ。
「心配なさらないで下さい。ちゃんと俺がお守りします」
「……えぇ、それは心強いですね」
なにそれ。意味深。もしかしなくても私のトラウマ知ってます?
兄上の学友なら知っててもおかしく無いですね。でも、その言葉で安心と嬉しいと感じる私は単純です。
「そう言えば、最近新しい大きな書店が出来たんですよ」
「行きましょう」
なんで、笑うんですか。笑い声も素敵ですね。笑い顔も可愛いです。じゃなくて、婚約者候補様に私の心を見られてるみたいで恥ずかしい。私、心の声だだ漏れですか?
でも、書店なんて行った事ないです。いつもは侍女が適当に買って来たのを読むだけなので、自分で見て選ぶのは夢のようです。
「喜んでもらえて嬉しい。馬車を用意してます。さぁ、行きましょう」
また、手を繋がれて屋敷を出ました。
外に出るのは正直怖いです。でも、繋がれてる手の暖かさが不安がなくなる気がします。
婚約者候補様は天使様ですか?胸の奥が暖かく感じます。
ですが、馬車の中で手を繋いだまま隣に座り笑顔で私を見ている婚約者候補様はいただけません。
私を見ていても面白いものではないですよ。そんなに見られると穴開きます。いや、開きませんが手汗が出そうです。
あぁ、小説の令嬢たちはなぜあんなに冷静でいられるのでしょうか。頬をあからめるだけなんて信じられない。乙女は強いですね。
私は動悸が止まりません。
「さぁ、着きましたよ」
わぁ、凄いです。私の夢がこんなに詰まっているなんて。あぁ、ここは天国ですか?ここは書店ですね。
「どうぞ、見て来て下さい。フレアが好きな本はあっちにありますよ」
ん?私が好きな本?な、なぜに知られているのですか?いやいや、1人で見たいんです。だから手を離して下さい。
そんな、悲しそうな笑顔で見ないで下さい。嫌といえないです。わかりました。行きましょう。
あー、周りには本を買いに来た人が私を見ています。
羨ましそうに令嬢様が見ていますが、私と替わりませんか。まぁ、そんな頬を赤らめて婚約者候補様を見て。
私はずっとさっきから全身真っ赤ですよ。
「フレア」
振り向いた婚約者候補様の後ろには棚一面の恋愛小説。新しいものから年季の入った古い本もあります。なんと素晴らしい。
「俺は待ってますから、お好きな小説を選んでください」
「……はい。ありがとうございます」
手が離れて、少し寂しいなんで思ってませんから。ちょっとしか思ってませんから。優しい笑顔で私を見ている婚約者候補様に悪いので早く本を選びましょう。
こ、これは庭師と令嬢の話。新刊がでているのですね。こっちは今朝母上に人質にされた本の新刊。なんて、幸せなのでしょう。
不思議とニヤニヤしちゃいますよね。こっちの本も面白そうだしあっちには違う話の本が。
いつの間にか手には3、4冊と増えていきます。まだ、欲しい本はいっぱいあります。
あれ、頭の上に影が。こ、婚約者候補様。いぇ、大丈夫ですよ。大丈夫ですから。
「持ってますよ。まだまだ欲しい本あるんでしょ」
「はい。す、すぐ選びます」
「ゆっくり選んで下さい。選んでいる君の顔を見るの好きだから」
婚約者候補様は私の心臓を止めたいのですか?眩しすぎる笑顔で言わないで下さい。思わず背を向けてしまったではないですか。やっと落ち着いた動悸が戻って来ましたよ。手汗も。
あれ?待って、私のニヤニヤ顔を見てたわけですよね。恥ずかしすぎて死ねる。あー、冷静になりましょう。
取り敢えず、あと5、6冊選んでここから出ましょう。もちろんニヤニヤ顔で選びますが何か。
「お待たせしました。選び終えました」
「では、次に行きましょう。もう代金は支払い済みなので」
左手に本を右手に私の手を。強引すぎませんか?それに力持ちですね。
そう言えば、強引王子の本がさっき選んだ本の中にありましたね。ああ、現実から逃避したいです。現実の恋は体力を使いますね。
馬車の中でどんな本選んだんですかなんて聞かれても距離が近くないですか。さっきよりも近いと思います。馬車が止まったのを口実に離れてみたら、もっと近くにいます。磁石でもくっついてるんですかね。それに本の内容なんて説明できません。
「そんなに気になるなら読んでみます?」
「はい。是非」
って、私はなに勧めてるんですか。それに答える婚約者候補様も婚約者候補様です。なんでそんなに嬉しそうなんですか?
あぁ、本当に私に付き合ってくれるなんて物好きな人ですよね。
でも、小説の話で盛り上がれるなんて素敵ですね。変わってる?自分が1番よく知ってます。
ちょっと期待しながら強引王子の本を渡しましたよ。
読んで頂きありがとうございました。