出会い
楽しんで頂けたら嬉しいです。
(あー。見つかってしまった)
目の前にある悪魔みたいな母上を見る。
裏庭から逃げようなんて思わなければよかった。うん。凄くこわいね。だって、いつも穏やかな笑顔が美しい母上が青筋たってるのがよくわかるもの。危ないよ。倒れてしまうよ。
だから、いや。ちょっと待って。だから待って。ちょっとじゃ足りないかも。ほら。ここは、いろんなお方がいらしゃるんだから。冷静になりましょう!
あー。そうですよね。私のせいですよね。
でも、ほら皆さま気付いてないですから。母上が怒りだすとバレちゃいますから。バレたら大変ですよ。もう、大変ですか。そうですよね。大変ですよね。でも、ずっとこのままがいいんです。
えぇー。母上、待ってください。それはちょっといただけないです。その提案はいかがなことかと。
なんですか、その微笑みは。母上凄くきれいですよ。父上が、一目惚れしたのもわかります。
じゃなくて。いやです。お願いします。謝りますから。それだけは、やめて下さい。お願いします。やめてください。
母上、引っ張るのやめてー。ほら庭の薔薇でも見て心落ち着かせましょう。綺麗ですよ。母上が手をかけてる向こうの白い薔薇も綺麗に咲いてますよ。だから、離してください。
母上の品位か疑われますよ。こんなんじゃ疑われない。そうですよね。母上は完璧ですもんね。尊敬します。
いや、だからって今の母上は尊敬できません。ま、間違いです。尊敬しています。どんな母上でも、尊敬しています。そんな目で見ないでください。
あー、嫌です。着替えたくないです。着替えたら最後じゃないですか。私はお披露目なんてされたくないです。ずっとこのままがいいんです。
待って、母上泣かないでください。母上が悪いわけないんです。私が悪いのです。私が。でもね、泣きながら服を脱がすのはやめてください。
もう、わかりました。覚悟決めます。
だから、脱がさないでー。
「皆さまお待たせしました。今日は、お越しいただきありがとうございます。いつもは床にふせてる我が娘がやっと皆さまにご挨拶出来ることになりました。フレアこちらに」
「はい。お父様」
「そこで皆様にご報告がございます。フレアは今年16歳。そろそろ年頃でございます。そこで、半年間の間に婚約者を決めたいと考えています」
お披露目だけだったのが、婚約者募集中にかわるなんて。これは、大変な事になりました。あぁ、母上に逆らわなければよかった。
母上、こっち見ないで下さい。嫌です。こんな人が多いのに喋りませんよ。私はニコニコ笑っていれば良いって父上が言ってましたよ。
ちょっと母上、父上にそんな微笑みかけて色仕掛けじゃないですか。父上、母上に負けないで。
あっ、そうですか。娘より母上の方が大事ですよね。初めからわかってました。
「皆さま、初めまして。フレア・ディルワーズと申します。素晴らしい縁が持てる様楽しみにいています」
は、恥ずかしすぎる。今まで引きこもりですよ。ハードル高くないですか?
何が楽しみにしていますって自分で言って虫唾が走ります。基本私1人で大丈夫なんで。婚約者なんて必要ないのですが。
母上、人を見下しているその笑顔は娘だからって酷くないですか?スキルが足りないって言うんでしょ。自分でも理解してるので、これ以上こっち見ないで下さい。
父上、生暖かい瞳も正直少し堪えます。
ここから動けないのは仕方ないですが、物凄く帰りたいです。
あぁ、フカフカベッドとフワフワの枕と肌触りの良いブランケット。あと、恋愛小説。あぁ、私のオアシスが恋しい。
これが終わったらもう一生部屋から出たくないです。
だから、母上。扇子で口元を隠しても冷ややかな表情は怖いです。いいえ、怖くないですよ。とても、美しいですよ。
ん?なんか、寒気がしてきました。
「フレア」
ま、眩しすぎる。こっちこないで下さい。引きこもりの原因だとわかってますか?隣に並びたくないんです。私はキラキラしてないので。
兄上、母上の血を濃く引き継いでますよね。素晴らしく綺麗で、私は泣きます。いや、本当に泣きませんけどね。
いや、近づかなくて良いので。
来賓の皆様、そんな頬を染めてなくても大丈夫なんですよ。
美男美女ね、なんて言わないでください。お世辞は逆に辛いです。私は美女ではないので。
でも、皆さま騙されないで。兄上は性格が……。な、何も思ってません。兄上は素晴らしいって話です。誤解です。嫌です。引きずらないで下さい。
父上助けて。あ、母上しか目に入ってないですね。お邪魔して申し訳ないです。
兄上、私はひっそりと座って時間が来るのを待ちたいです。兄上の友人の中に入れるわけないですよ。
だって皆さん、スペック高すぎて私息できません。嘘です。息ちゃんと出来ますから、睨まないで下さい。ほら、可愛らしい妹を頑張って演じますから。
「皆んな、初めてだろう。妹のフレアだ。婚約者探さないといけないから、いろんな人と話したいってさ」
一言もそんな事言ってないです。兄上、幻聴聞こえたら大変ですよ。お医者様に一度相談された方が良いですよ。
兄上の嫌がらせなのは分かってるので、他の人にはわからないイライラ微笑みをやめて下さい。ほら、私一生懸命笑顔振りまいてますよ。兄上の評判悪くしないように頑張ってますよ。
「初めてまして。フレアと申します。お見知り置いて下さい」
皆さま間違っても覚えないで下さい。一生私を思い出さないでお過ごし下さい。
ちょっと、兄上まだ引っ張るんですか?やめて下さい。もう、私は一生分の笑顔を振りまきました。一生分の笑顔が少なすぎる?部屋から出る気ないのでこれで十分です。
「フレア、こいつがお前と話したいと言ってんだよ。ちょっと、2人で庭行って話して来いよ」
おぉ、神様。私にご慈悲を……。あぁ、神は兄上だった。私に拒否権はないですね。兄上の満面の笑みが凄く眩しい。隣の方も、兄上に負けないぐらい眩しすぎる。
この方は兄上の学友で何度か屋敷ですれ違ったような気がします。しかし、しかしですよ。私と話したいだなんて強者ですね。いぇ、バカになんてしてませんよ。ただ、物好きな人ですね。
「フレア嬢。行きましょう」
「はい。よろしくお願いします」
さっと手を繋ぐとは、経験値が全く違いますね。私の顔は真っ赤ですよ。兄上、ちょっと人の顔見て爆笑なんてやめて下さい。
皆さん見てるのでお願いします。兄上の評判が下がります。そんなんじゃ下がらない?そうですよね。すみませんでした。
私は手を繋がれたまま、あっという間に庭ですよ。庭の場所も把握しているとは、どんだけ屋敷の事知ってるんですか?
「何度見てもここの園庭は素晴らしい。緻密に練られた構図ですよね」
「ありがとうございます。私が頼んで植えて頂きました」
そんなに褒めても何も出てこないですよ。一時期、庭師と令嬢の恋愛小説にハマりまして庭師が作った庭を再現させたのがここの庭です。
私が凄いのではなく小説の庭師と屋敷の庭師が素晴らしいのです。
一通り庭を見て回りましたよ。そう、手を繋いだまま。
いつまで手を繋いでいれば良いんですか?もうそろそろ、手汗が出てきそうです。
これでも乙女ですよ。恥ずかしくなりますよ。
「フレア嬢。あの、お願いがあるのですが」
なんですか?手汗の事ですか。そこは、気づかないフリをお願いします。
あれ?なんか雰囲気が違いますね。そんな綺麗な顔でこっち見ないで下さい。見つめられたら逸らせないです。
「……フレア嬢の婚約者候補になりたいんです」
「はっ?いえ……そんな恐れ多い」
一瞬素が出てしまったのはお許しください。だって、婚約者候補にって。私を婚約者にしても良い事ないですから。
あー、身分は良いですけど貴方の方が高いですよ。こんな私なんかどうしたいんですか。もしや、男性の方が好きで目眩しのために私と婚約を。それなら、わかる気もします。
「あの、俺は男とか興味ないですからね」
「なぜそれを……」
如何わしい考えを見破られてしまいました。なぜ分かったのでしょう。びっくりしすぎて素にもどってしまいました。後で兄上に冷ややかな笑顔で苛まれますね。どうか内密にお願いします。
「フレア嬢の顔見てたら分かりますよ。本当に可愛らしい方ですね」
心臓が痛くなるぐらい、小説の中の王子様の様に素敵な笑顔をむける貴方に心を鷲掴みにされました。こんなドキドキする事、小説の中だけだと思っていたのに。反則すぎます。私には逆らえません。
「フレア嬢、婚約者候補にさせて下さい」
「……はい」
拒否できる乙女がいたのなら見習いたいので出てきて下さい。まぁ、出てきても返事してしまった後なので遅いのですけど。
あぁ、私が小説みたいに笑顔で恋に落ちるなんて信じられません。
でも、この方の笑顔をまた見たいと思ってしまうのはそういう事なんですよね。
私には眩しすぎるぐらいなのに。
「ありがとうございます。凄く嬉しい」
あぁ、浄化されそうです。このキラキラ笑顔に耐えられるのでしょうか。私は耐えられる自信全くありません。遠くから見守るのはどうですか?婚約者候補になったので無理ですか。そうですか。
隣でクスクス笑ってる声が聞こえて凄く恥ずかしい。
「そろそろ戻りましょうか。フレアと話が出来て楽しかったですよ」
「あっ、はい。……ありがとうございます」
さらっと名前呼びですけど。どれだけ私の心臓を早く動かそうとするんですか。あ、手も繋ぐんですね。これじゃ、身が持ちません。
どぎまぎしてる私を見て、優しく笑ってる貴方なんて知りません。
これが、私とディリス様の出会いでした。
私はこれからどうなるのでしょうか。
読んで頂きありがとうございました!