表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/35

誕生日と都市伝説と魔法少女カオルの誕生(3)

 三十歳の誕生日に、とんでもないことになってしまった。

「何でこんなことに……」

 薫はガックリと項垂れる。

「しかも、三十歳にもなって、魔法少女とか……」

 とんだ赤っ恥である。

「そういえば、何で魔法少女なんだ? 化け物を倒すなら、もっと強そうな格好の方がいいんじゃないか?」

 ペラッペラの服装もそうだが、薫は体格が縮んでいる。

 戦うなら、リーチは長い方がいいはずだ。

 例えば、元の体格のまま、全身を鎧に包むとか。

 筋力補助や防護付与が付いているといっても、ペラペラの布に付けるより、鎧に付けた方が元の頑丈さと相まって効果的に思える。

「ああ、ですよね。ボクもそう思います」

 ヴィーゼルは深く頷いた。

「実際、他の人間の時は大男になったり、全身完全防具だったり、こんな変な正装にはしませんでしたからね」

「はぁ? じゃあ何で俺はこんなのなんだよ」

 薫はスカートを引っ張って不満を示した。

「それは、王子の趣味です」

 不穏な言葉がヴィーゼルから飛び出した。

「王子は極度のロリコ……。ゴホン。えー、かなり年下の女性がお好きなんです」

「おい、ほとんど言っているぞ」

「儀式を行うと決まった時に、オッサンの集めたシュテルン石など使いたくない。俺は幼女に集めてもらいたい。俺の為に幼女が可愛い手で一つ一つ集めるところを想像すると……。もう最高! と王子がのたまいまして」

 とんでもない変態である。

「魔法使いになれるのは、三十歳の童貞と決まっておりますし、幼女は無理だと王子の周りのものが諌めたのですが、それなら三十歳の童貞を幼女に変えればいいじゃないか、と魔法使いの正装をそのようにしてしまいました」

「そいつは外見が幼女なら何でもいいのかよ……」

 薫は頭を抱えて唸る。

 最悪な奴に捕まってしまった。

「あ、そういえば、王子への報告がまだでした」

 ヴィーゼルが前足でノートパソコンを操作する。

「王子、お待たせいたしました」

『もうすっごい待ったよーっ! どう? どう? 可愛い子と契約出来た? 僕の魔法少女はどこ?』

 テンションの高い声が、ノートパソコンから聞こえてきた。

 とてもマトモとは思えない第一声に、薫は顔を引きつらせる。

「王子の目でご確認下さい」

 ヴィーゼルがノートパソコンの画面を薫に向ける。

 画面には金髪碧眼の男が映っていた。

 長いまつ毛が瞬きのたびにバシバシと音をたてそうだ。

『うおおおおおお! 可愛い幼女来たああああああ!』

 金髪碧眼の男、王子が画面いっぱいに映る。

 どうやら、向こうの画面に貼り付いているようだ。

『可愛らしい瞳。微かに赤く染まる頬。小さくキュートな鼻と唇。マシュマロのような肌。どれをとっても素晴らしい!』

 王子の気持ち悪さに距離を取りたくて、薫は慌てて立って後ずさる。

『おおおおお! 絶対領域! 最高だ! 最高だよ! ニーソとスカートの間の素肌の露出具合がたまらないよ!』

 ぞおっと薫の背筋に悪寒が走る。

 王子の欲望をたぎらせた目が、さらに気持ち悪かった。

『ヴィーゼルでかした! これで儀式へのやる気も出るってもんだよ!』

「それはようございました」

 感情の籠らない声で、ヴィーゼルが答えた。

『な、名前。名前は何て言うのかな?』

 画面の向こうの王子が、じっと薫を見る。

 正直なところ、変態王子に見られているだけで気持ちが悪い。

 この王子の口から自分の名前が出るのが嫌で、薫は黙り込んだ。

「お名前はカオルさんです」

 代わりにヴィーゼルが答えた。

「ど、どうして俺の名前を!」

 ヴィーゼルに名乗った覚えなど、薫にはない。

 どうして知っているのかと、薫はヴィーゼルを見た。

「こちらにお名前が」

 そう言いながら、ヴィーゼルは手で机の上のケーキを示した。

 ケーキにはネームプレートがのっている。

 そこには、薫の名前が書かれていた。

 どうせ一人だけの誕生日ケーキだからと、年甲斐もなく浮かれてケーキにネームプレートをのせていた。

「俺のバカ!」

 今更、後悔しても遅い。

『カオルちゃんかあ。名前も可愛いねえ。魔法少女カオル。いいねえ』

 ゆるみきった顔で、王子が何度も薫の名前を呟く。

 薫の全身に鳥肌が立った。

『カオルちゃんが僕の為に、シュテルン石を集めてくれるのかあ。最高だよぉ。えへへへ』

 何かを妄想しているのか、王子の視点が定まっていない。

 口もだらしなく開きっぱなしだった。

 薫はその隙に、じりじりと横歩きで画面から逃げる。

 しかし、ヴィーゼルが画面を動かして薫を追いかけた。

「ヴィーゼルやめろ」

 小声と払うような手振りでヴィーゼルに要求するが、聞いてもらえない。

 ウロウロと逃げ回っているうちに、王子が現実に戻って来た。

『カオルちゃーん。もう少し、こっちに寄ってくれないかな。もっと近くでカオルちゃんのお顔が見たいんだけど』

「誰がお前なんかに近付くか!」

『ふおお! 幼女とお話ししちゃった!』

 王子がクネクネと身体を揺らす。

 その姿に薫は身震いし、思わず両腕を抱いた。

『カ、カオルちゃんは何か好きなものある?』

 拒否を口にしただけでお喋りしたと大喜びしたやつに、答えられるわけがない。

 薫は口を閉じる。

『カオルちゃん?』

 どんなことを言われても、絶対に喋るものかと、薫は決心する。

『カオルちゃーん?』

 薫は画面から顔を背けた。

『……ツンツンするカオルちゃんも可愛いいいいい』

 喋らない薫に王子が興奮し出し、薫はギョッとした。

 何か言えば喜ぶ。

 何も言わなくても喜ぶ。

 もうどうしたらいいのか。

 頭痛になりそうで、薫は頭を押さえた。

『あれ、カオルちゃん大丈夫? 頭痛いのかなー? 僕は心配だよ』

「お前のせいだろうが!」

『おお! デレた? カオルちゃんがデレてくれた!』

「しまった!」

 絶対に喋らないはずだったのに、薫は思わず怒りのままに王子へ怒鳴っていた。

 後悔しても、一度出てしまった言葉は戻らない。

『ツンデレカオルちゃん可愛い』

 顔をにやけさせて、王子が喜んでいる。

 もうこの王子には何をしても意味がない。

 薫は元を断ち切ることにした。

「……ヴィーゼル。通信を切れ」

「はい。報告は済みましたので、かまいません」

『え? ちょっと待って。ヴィーゼ――』

 ヴィーゼルはノートパソコンの通信を切った。

「最初からこうすればよかった……」

 しかし、どえらい変態と関わることになってしまった。

 この先のことを考えると、気がめいる。

 薫はため息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ