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誕生日と都市伝説と魔法少女カオルの誕生(2)

 薫には何から何まで分からないことだらけだった。

「その服は魔法使いの正装です」

 ヴィーゼルが答える。

「魔法使いの正装?」

 イタチと会話をするという異様な状況だったが、薫はこの何か知ってそうなヴィーゼルに聞くしかなかった。

「その正装には魔法効果がかかっており、筋力補助や防護付与、その他もろもろと魔法使いには欠かせない衣装となっています。そして、幼女変化の特典付き」

「幼女変化?」

「文字通り、幼女に変化します。今のあなたのように」

 つまり、魔法使いの正装を着ているせいで、薫は幼女になっているということだ。

 薫は慌てて、脱ぐために身に着けている服を引っ張る。

「何だこれ! 脱げない!」

 ジャケットを上に引っ張っても捲れるだけで、薫はジャケットを脱ぎきることが出来ない。

 スカートを下げようとしても同様で、少し下がったあとはそれ以上ビクともしなかった。

「魔法使いの正装は、本人の意思で脱ぐことは出来ません」

「は? 何だって?」

 ヴィーゼルはとんでもないことを言った。

「他人が脱がせば脱げますけど」

「じゃあ、脱がしてくれ!」

 イタチに脱がしてくれとお願いするというとんでもない状況だったが、一刻も早く元に戻りたい薫は、構わずヴィーゼルに頼む。

「いいですけど。脱がして元に戻ったら、素っ裸になりますよ?」

「い、いいっ。素っ裸になってもいい! 脱がしてくれ!」

 どうせ部屋の中だから大丈夫。

 そう判断して、薫は叫ぶ。

「素っ裸になっていいから脱がしてくれとか、露出狂の変態ですか?」

「この野郎!」

 望んでこうなっているわけではないのに、好きでやっているかのように言われて薫は怒りがわく。

「まあ、時間制限があるので、時間が経てば勝手に戻るんですけどね」

「それを先に言え!」

 薫はため息を吐いた。

「お前と話していると凄く疲れる……」

 ドサリと腰を落とし、薫はあぐらでその場に座り込んだ。

「そうですか。お疲れのところ申し訳ありませんが、一通りの説明を聞いてから休んで下さい」

「説明? ああ、そうだ。お前はいったい何ものなんだ?」

「ボクはこの世界とは別の次元から来ました」

 別の次元という突拍子もない話なんて、普段の薫なら信じなかっただろう。

 しかし、女の子になってしまった身体が、薫にそれが事実だと突き付けていた。

「そして、人間にシュテルン石の回収をお願いしています」

「しゅてるんせき?」

 薫が聞いたことのない言葉だった。

「シュテルン石とはこちらです」

 ヴィーゼルがまたノートパソコンを開き、画面に丸い石を表示させる。

 丸い石の下には『シュテルン石』と書かれていた。

「ボクはこのシュテルン石の回収を、国の王子から命じられています。このシュテルン石は王子の成人の儀式に、必要とされているものです。儀式があるたびに、ボクのような下っぱが派遣され、魔法使いと共に回収を行います」

「何でそんな儀式があるんだよ」

「知りません。儀式は儀式です」

 ヴィーゼルはばっさりと言い切った。

「で、回収したシュテルン石は、こちらのエーデルキステに収めます」

 リュックからきらびやかな箱を取り出し、ヴィーゼルがテーブルの上に置いて開く。

「窪みが五個ありまして、ここにシュテルン石をはめこみます。五個集まると、王子に転送される仕組みとなっております」

「集めるだけなら、お前一人でも出来るんじゃないか?」

「そこに問題がありまして」

 ヴィーゼルはまたノートパソコンを操作する。

 パソコンの画面には、シュテルン石に黒いもやもやが吸い込まれていく絵が映った。

「このように、シュテルン石には特殊なエネルギーを吸い込む特性があります。そして、そのエネルギーを溜め込み続けると実体化し、暴れます」

 ヴィーゼルから物騒な言葉が出てきて、薫はギョッとする。

「その暴れ出したシュテルン石を倒すのが、魔法使いの役目です。今回はその魔法使いをあなたにやってもらいます」

「いやいやいやいやいや! 何だそれ! 何で俺がそんなことをしなきゃいけないんだ!」

 薫にそんなことをする義理はない。

「魔法使いですから。正確には魔法少女ですけど」

「俺は男だ!」

「いえいえ、立派な魔法少女に見えますよ?」

「お前のせいだろが! っていや、だから、そうではなく」

 こいつはわざとずれたことを言っているんじゃないかと、薫はイライラと頭の後ろをかいた。

「何で俺が魔法使いにならなきゃいけないんだよ!」

「あなた言ったじゃないですか。『今日から俺も魔法使いだ』と。すでに覚悟があって助かりました」

「はぁ? そんなこと……」

 そこまで言って、薫は思い出した。

 童貞にまつわる都市伝説のことを。

 そして、確かに声に出して『魔法使いだ』と言っていたことを。

「いや、それはただの都市伝説で……」

「は? 都市伝説? 何ですかそれ。おいしいんですか?」

 ヴィーゼルがキョトンと首を傾げる。

 それに、薫は言葉を詰まらせた。

 別の次元の生き物なのだから、都市伝説なんて知っているはずがない。

「いやー、普通なら条件に合う人間を探すのに、かなり手間取るんですけどね。三十歳の童貞限定とか、ちょっと無理難題ですよ」

 三十歳童貞魔法使い。

 それは、都市伝説そのものだった。

 もしかして、こいつらの儀式が都市伝説化したのか?

 そんな考えが、薫の脳裏をよぎる。

「とにかく! 俺は魔法使いなんてする気はない。他をあたってくれ」

「えー、もう手遅れですよ」

 ヴィーゼルが不吉な言葉を口にした。

「そういうことは、もっと早く言ってくれないと」

 両前足の肉球を肩のあたりで上に向けて、外国人臭い動作でヴィーゼルは顔を横に振った。

 早くも何も、気付いた時には魔法使いになっていた。

 ヴィーゼルの勝手なもの言いに、薫はさらにイラつく。

「手遅れってどういうことだ」

「あなたはもう魔法使いリストに登録されました。変更は出来ません」

「勝手な!」

 叫んでから、薫はあることに気が付いた。

「あ、でも、そうか。元に戻ったら、魔法少女の姿にならなければいいんだ」

 良いアイディアだと、薫は顔を明るくさせた。

「変身のコントロールはこちらでさせて頂きますので、シュテルン石が実体化していたら問答無用で変身させますよ」

「ぐっ。だが、変身しても、その間は部屋に籠っていれば……」

「往来で突然変身させてもいいんですが……。変身しますか?」

 ヴィーゼルが恐ろしいことを言い出した。

「あなたの友人、知人の前でもいいですよ」

 ヴィーゼルが畳みかける。

「どうします?」

 何て奴だ。

 こんな奴の言うことには従いたくない。

 しかし、ヴィーゼルの話を無視した時の方が、大変な目に合わされそうで、薫は突っぱね続けることが出来なかった。

 薫は観念した。

「やる……。やればいいんだろう!」

「おお。やって頂けるとは、なんてお優しい」

 薫にはヴィーゼルの言葉がとても白々しく聞こえた。

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