幼女と幼女と変態と(7)
もうダメだとカオルが思ったその時、ポンと音をたてて、白い煙がカオルを包んだ。
「な、なんだあ〜?」
白い煙に驚いて、巨大な変態男の手が止まる。
煙がはれた時、そこにいたのは男の姿の薫だった。
どうやら、時間切れだったようだ。
「お、男お〜? ようじょが男おおうお〜?」
突然のことに戸惑ったのか、巨大な変態男の手がゆるんだ。
「しめた!」
薫はゆるんだ手から抜け出し、巨大な変態男の小指にぶら下がって、なるべく地面に近い位置から下に落ちた。
「ううう」
着地の衝撃で、若干、足が痺れたものの、薫はケガをすることなく、巨大な変態男から逃げ出すことが出来た。
痺れを我慢しながら、薫は巨大な変態男から離れる。
「ヴィーゼル!」
シュテルン石と戦うのに、人間の状態では危ない。
変身するべく、薫はヴィーゼルを呼んだ。
「すぐに変身を!」
「薫さん。シュテルン石の様子がおかしいです」
ヴィーゼルに言われ、薫は振り返って巨大な変態男を見た。
「ようじょがあ〜。男おお〜。ようじょがあ〜。男おお〜」
幼女と男を繰り返し呟き続けていた巨大な変態男の身体から、黒い煙が立ち上り始めた。
「ヴィーゼル。あれは何だ?」
「どうやら、シュテルン石内のエネルギーが、急に不安定になったようです」
巨大な変態男は、頭を抱えて身悶える。
「男にぃ〜。責められてたあ〜。男にぃ〜。脱がされてたあ〜」
「おい。ちょっと待て」
今のは聞き捨てならない。
「俺は脱がしてないだろ!」
しかし、巨大な変態男に薫の声は聞こえていないようで、巨大な変態男の身悶え方が激しくなる。
「あまつさええ〜。キスしようとおおおおおおおお」
巨大な変態男は頭を抱えたまま蹲った。
黒い煙は出続けている。
「薫さんが男だったのが、そうとうショックだったようですね。これはチャンスですよ。ここでダメ押しをすれば、シュテルン石の実体が崩壊しそうです」
さらに精神的ダメージを与える方法。
変態男の心を折るには。
「となると、やっぱあれだな。ヴィーゼル。魔法道具で購入したいものがある」
「はいはい」
ヴィーゼルがパソコンを用意する。
薫はヴィーゼルの後ろからパソコンの画面を見て、目当てのものをリストから探す。
「お、これだこれだ」
薫はとある魔法道具を指差した。
いったい何故こんなものがリストにあるのか。
深く考えてはいけない。
「これですか。ただ、購入するのはいいのですが、魔法少女にならないと魔法道具として使うことは出来ませんよ?」
「魔法の効果はなくていいんだ。その道具の外見自体に意味がある」
「そうですか」
ヴィーゼルはその魔法道具の購入に移る。
「購入しました」
パソコンの画面から、魔法道具が出て来た。
その魔法道具の外見は手錠にそっくりだった。
サイズは普通の手錠よりだいぶ大きい。
薫はそれを持ち、蹲っている巨大な変態男に近付く。
そういう格好が出来ればもっと雰囲気も出ただろうが、そんなものは持ち合わせていない。
まあ、制服を着ていなくとも、手錠だけで大丈夫だろう。
薫は巨大な変態男の目の前に立つ。
「児童誘拐の現行犯で逮捕する」
薫は巨大な変態男の腕に手錠をかけた。
「お、俺があ〜。た、逮捕おおお? うおおおおおおおお!」
巨大な変態男が断末魔の咆哮を上げた。
黒い煙がぶわりと膨れ上がり、巨大な変態男の身体からいっきに噴出する。
巨大な変態男は崩れていき、灰と化した。
そして、灰は風に吹かれ、全てをなくしていく。
シュテルン石だけを残して。
灰の中から現れた黄色のシュテルン石が、風によってコロリと少しだけ動いた。
「終わったー!」
薫は肩から力を抜いて、大きくため息を吐いた。
体力的な疲れより、精神的な疲れが大きかった。
もう変態には関わりたくない。
薫はそう強く思った。
しかし……。
「ごくろうさまです」
ヴィーゼルがシュテルン石を拾って、エーデルキステにはめ込む。
エーデルキステの中のシュテルン石はこれで四つになった。
まだ四つと考えるべきか。
もう四つと考えるべきか。
薫がどんなに変態と関わりたくないと思っていても、五つ目の窪みが埋まるまで、変態と離れることは出来ない。
そう考えると、さらなる疲労がどっと押し寄せてきた。
一日はまだ始まったばかりだというのに、薫は家に帰って寝たい気分だった。
「だが、その前に……」
薫は道路に転がっている男を見た。
あれをどうにかしなければならない。
薫は男のそばに行く。
男の腹はゆっくりと上下していた。
呼吸はしているようだ。
「ヴィーゼル。この男は大丈夫なのか?」
薫の後を付いて来ていたヴィーゼルが、男を覗きこむ。
「気絶しているだけみたいですね。大丈夫そうです」
「そうか」
とりあえず、薫は男が死なないことに安堵した。
「う、うーん」
男が唸る。
眉間にしわを寄せながら、男が目を薄く開いた。
「気が付いたか?」
薫は上から男を見た。
男は目をパチパチとさせ、薫と視線が合うと、その顔を恐怖で歪ませた。
「よ、よ、幼女、恐いいいいいい」
男は慌てて起き上がり、一目散で逃げ出した。
「俺は幼女じゃない!」
すでに男の姿はなく、薫の叫びが虚しく響く。
「これはどういうことだ?」
薫は男の消えていった方を見ながら、ヴィーゼルに聞く。
魔法少女姿の時ならまだしも、今の薫は男の姿をしている。
かけらも幼女要素はない。
なのに何故、あの男は薫を見て幼女と言ったのか。
「あー……。たぶん、戦いの影響ですね。シュテルン石が受けたダメージの衝撃が、あの男の中でトラウマとなったようです」
「影響って、あんな風にも出るのかよ……」
もし、実体化を燃やしたり切断したりしていたら、そのトラウマをあの男に植え付けることになったのだろうか?
「まあ、幼女でトラウマが出来たのなら、もう誘拐なんてバカな真似はしなくなるだろうから、結果オーライってところか」
しかし、今回はうまくいったが、次もそうなるとは限らない。
シュテルン石は残り一つ。
薫は残りのシュテルン石が、人間に拾われないことを願った。




