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幼女と幼女と変態と(4)

「だ、大丈夫だからあ。俺の家で待っていれば、お母さんも来るよお」

「は?」

 男の様子がおかしい。

 何を言っているんだと、カオルは眉を寄せる。

「俺の家には、オヤツもいっぱいあるんだよお。オヤツを食べながら、お母さんを待とうねえ」

 男がカオルの腕を、さらに強く引っ張った。

「離せ!」

 引っ張られた腕を引き戻そうと、カオルは男に抵抗した。

「ひひ。離さないよお。離したらこの前の女の子みたく、どっか行っちゃうだろう?」

 ここで、ようやくカオルは気が付いた。

 この男が近所を騒がしている不審者だということに。

 カオルは男を親切な人間だと判断したことを悔いた。

「俺の家はすぐ近くだからねえ。誰も来ないうちに俺の家に行こうねえ」

 歩き出した男にぐいと腕を引かれ、カオルはつんのめって前に進んでしまう。

 カオルの服をギュッと掴んでいた女の子もくっ付いて来た。

 危ない状況だった。

 カオルが女の子を守らなければならない。

「離せって言っているだろ!」

 カオルは男の足を思い切り踏みつけた。

 全体重をのせ、足先にひねりも加える。

「いだだだだ!」

 男が足をかばうようにしてしゃがみ、カオルの腕を離した。

 チャンスだ!

 カオルは女の子の手を引き、男から距離を取る。

「ヴィーゼル! ステッキをくれ!」

 何か武器が欲しかった。

 さすがに人間相手で魔法を使うことは出来ないが、ステッキは鈍器ぐらいにはなる。

 カオルの足元にいるヴィーゼルが、リュックからステッキを取り出す。

 カオルはそれを受け取り、男に向かって構えた。

「元気過ぎる子だなあ。でも子供はこうじゃなきゃねえ」

 足を押さえたまま顔を上げた男は、カオルを見てにやぁと笑った。

 気持ち悪い。

 カオルは総毛立つ

「さあ、家に行こおう」

 男が立ち上がり、またカオルたちに近付いてきた。

「来るな!」

「大丈夫だよお。オヤツ食べたいだろお? あ、それともオモチャがいいかなあ。今はこれだけしかないけど、家に行けばたくさんのオモチャがあるよお」

 男がポケットから何かを取り出し、それをカオルたちに見せた。

 男の手のひらには、ビー玉が五個のっていた。

 そのうちの一つは、どす黒い色をしている。

「そんなもんいるか!」

 カオルは男の手をステッキで叩き落とした。

 ビー玉が地面に転がる。

「この変態が! 警察を呼ぶぞ!」

「け、警察う?」

 男の顔が歪む。

「何で警察なんて呼ぶんだよお。俺、何もしてないだろお」

 男が地団駄を踏んだ。

「カオルさんちょっとよろしいですか」

 ヴィーゼルがカオルの足をポンポンと叩く。

「いつもいつも犯罪者扱いしやがってえええ」

「女の子を家に連れ込んで変なことをするのは犯罪だ! バカ野郎!」

「カオルさんカオルさん」

「変なことなんてしないよう! ちょっとお話しして、ちょっと触り合いっこするだけだよう!」

「それが犯罪なんだよ! このクズめ! お前のような変態のせいで、まともな俺たちが男ってだけで疑われて迷惑してんだ! お前なんか去勢されてしまえ!」

 カオルはヴィーゼルを無視して、今までの色々な鬱憤を晴らすかのように、男へ怒声を浴びせ続けた。

「カオルさん。よろしいですか」

 またヴィーゼルがカオルの足を叩いた。

「うるさいな。今は大変な状況……。って何、喋ってんだ!」

「大丈夫です。女の子なら恐怖で聞こえていません」

 女の子を見ると、カオルの胴体に手を回してしっかりと抱き付き、カオルの服の中に顔をうずめて震えていた。

 確かにヴィーゼルが喋っていることに気付いていない。

「で、何だ」

 カオルは男を睨み付け、耳だけヴィーゼルに傾ける。

 男はビー玉を拾っていた。

「こうやってプレゼントも用意しているのにい」

 男がブツブツともんくを言っているのが聞こえてくる。

「カオルさん。実はあのビー玉なんですが」

 男の足元にあったどす黒いビー玉に、男が手を伸ばした。

「あれビー玉ではなく、シュテルン石です。しかも、実体化する寸前」

 男がビー玉を拾った瞬間、ビー玉から黒い煙が大量に噴き出て、男を包み込んだ。

「あ、遅かったようです」

「ヴィーゼルウウウ! そういうことは先に言え! このクソネズミがあ!」

「ボクはネズミじゃありません。どちらかと言えばイタチです。そして、属するのなら、女の子に大人気のフェレットに属したい。それと、言おうとしたのに、聞かなかったのはカオルさんですよ」

 黒い煙はどんどんふくらみ、カオルが見上げるほどになった。

「おいおい。これどうなんだ? というか、シュテルン石が人間にも有効だなんて聞いていないぞ!」

「有効じゃないなんて言っていません」

「屁理屈をこねるんじゃねえ!」

 黒い煙がはれていく。

 そこには巨大な変態男が、道路を塞ぐように立っていた。

 でかい腹がたぷんたぷんと揺れ、道路の幅いっぱいに広がり、両脇の壁を擦る。

「ようじょ〜。ようじょ〜」

 変態男が低い声で、辺りに響くようにうなり出した。

「これ騒ぎになるぞ」

 こんなのが誰かに見られたら、警察どころか自衛隊出動レベルの大騒ぎになる。

「それは大丈夫です。シュテルン石を視認したと同時に、結界魔法を発動させました。あの実体化したシュテルン石は、結界がある限り外に出ることは出来ませんし、結界内の音が外に漏れることもありません。さらに、人払いの魔法も使いましたので、この近辺に人が来ることもありません。思う存分、戦ってください」

 ヴィーゼルがこれまでみたこともないほどの有能さを発揮していた。

「戦えって……。いや結界はありがたいけど」

 今までのは植物や魚だったから気にしていなかったが、さすがに人間相手に攻撃するのはためらわれる。

「攻撃して男は大丈夫なのか?」

「何を言っているんですか?」

「いや、倒したら灰になるだろ? それって男を殺すことになるんじゃ……」

「何を言っているんですか?」

 バカにしたように繰り返すヴィーゼルにイラつきながら、カオルはもう一度、説明しようとする。

「いや、だから――」

「あれはシュテルン石であって、さっきの男ではありません。男なら実体化したシュテルン石の向こう側に転がっています」

 カオルを遮るようにして言ったヴィーゼルの言葉通り、巨大な変態男の足の隙間から道の向こう側が見え、そこに男が倒れていた。

「以前シュテルン石について解説した時、聞いていなかったのですか? あの巨大な人間は、エネルギーを吸い込んで膨れ上がったシュテルン石です。あの男はエネルギーを吸われただけであって、その身体を奪われたわけではありません。実体化したシュテルン石が吸ったエネルギーの影響を受けて、姿や思考が男とそっくりになっているだけです」

 ヴィーゼルはため息を吐いた。

「あんなに丁寧に説明したというのに理解していなかったなんて、まったく嘆かわしい。そのおつむには、何も詰まっていないのですかね?」

「う、うるせえ! ちょっと勘違いしていただけだ!」

 カオルはすべすべの白い頬を真っ赤にした。

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