表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/35

絶体絶命風呂場パニック(3)

「洗面所はここだよ」

 桃子が通路の突き当たりにあるドアを開けると、その先はまだ通路が続いていた。

 桃子が示す洗面所はすぐ左側の引き戸で、この通路の奥は桃子たち家族の住居となっている。

「ここで靴を脱いでね」

 ドアの内側には段差があり、玄関のようになっていた。

 困った。

 脱げと言われても、カオルは自分で脱ぐことが出来ない。

 桃子は先に靴を脱いで上がってしまった。

 カオルがまごついていると、桃子がポンと手を打った。

「あ、ごめん。脱いでって言われても、靴が水を吸っていてうまく脱げないよね。しかもブーツだし」

 カオルの靴は前面編み上げのブーツで、凝った作りだった。

「肩に手を置いて」

 桃子がカオルの前にしゃがんで、肩を指で示す。

 カオルは言われた通りに、桃子の右肩に手を置いた。

 それを確認してから、桃子が頭を下げる。

「はい、足上げて」

 足を上げて前傾姿勢になると、桃子の後頭部が目に入った。

 首元から長い髪がさらりと前に流れ、無防備にうなじが見えている。

 カオルは慌ててうなじから目をそらした。

 いや、今は女の子なのだから、目をそらす必要はない。

 カオルはゆっくりと視線を戻す。

 そして、もっとよくうなじを見ようと、じょじょに身体を前にのり出した。

「脱げたよー」

 桃子が言うと同時に立ち上がり、桃子の後頭部とカオルのあごがぶつかった。

 カオルは強烈な衝撃に、あごを押さえてうずくまる。

「わっ、ごめんねかおりちゃん! 大丈夫?」

 桃子がまたしゃがみ、カオルの顔を覗き込んだ。

 カオルはあごを押さえたまま、コクコクと黙って頷く。

 これはさすがに自業自得だ。

 カオルが立ち上がると、桃子は洗面所の引き戸を開けた。

 洗面所は洗面台とカゴが置かれているだけの狭い空間で、正面には風呂へのドアがあった。

 左側はすぐ壁で、洗面台は右奥に設置されている。

「君はとりあえずお風呂にいてね」

 そう言うと、桃子はカオルが抱っこしていたヴィーゼルを掴んで、風呂の戸を開いて中に下ろし、ドアを閉めてしまった。

「さあ、かおりちゃん脱ごうか」

「え?」

「え? じゃないよ。服は私の小さい時のを貸してあげるから、濡れている服を早く脱いでね。服は今、持って来るから」

 そう言って、桃子は洗面所を出て行った。

 足音から桃子が洗面所を離れていくのが分かる。

「さて、どうしようか……」

 カオルは腕を組んで考える。

 このままここにいたら服を脱ぐことになる。

 いや、この正装は自分から脱ぐことは出来ないから、服を脱ぐことは不可能なんだが、代わりの服を持って来てもらって、濡れた服を着替えないのはかなりおかしい。

 脱ぐことも着替えることもカオルには出来ない。

 となると……。

 今のうちにこっそり逃げよう。

 そう判断したカオルは、ヴィーゼルを回収しようと風呂のドアを開けた。

「ヴィーゼル?」

 風呂場の中にヴィーゼルの姿がない。

「おい、ヴィーゼル」

 カオルは小声でヴィーゼルを呼ぶ。

 しかし、返事はない。

 隠れられそうな浴槽のフタを開けるが、湯がはられていて、そこにもヴィーゼルはいなかった

「まさか……」

 カオルは浴槽側の壁に付いている、風呂場の窓を見る。

 窓は少し開いていた。

 ちょうどヴィーゼルが通れるぐらいの隙間だった。

「あいつ一人で逃げやがったのか?」

「あれ、かおりちゃん?」

 ドキンとカオルの心臓が跳ねる。

 洗面所から桃子の声が聞こえた。

「あ、こっちにいたんだ。バスタオルを持って来たから、髪を拭くのにこれ使って、ってまだ服を脱いでいないじゃない」

 桃子は手を腰に当てて顔を前に出し、眉を寄せてメッと可愛らしくカオルを睨んだ。

「もう。風邪ひいちゃうでしょ!」

 桃子に引っ張られて、カオルは洗面所に戻った。

 桃子は風呂のドアを閉める。

 もう一度、桃子を洗面所から追い出すにはどうすればいいのか。

 カオルが悩んでいると、桃子がとんでもないことを言い出した。

「もしかしてお風呂に入りたかった?」

 桃子の言葉にカオルはギョッとする。

「そうだよね。濡れていたら身体も冷えるし、着替えるだけじゃなく温まった方がいいよね」

 風呂なんてとんでもない。

 カオルは必死に首を横に振るが、桃子はおかまいなしだ。

「ちょうどお風呂も沸いたところだから入っていって。で、かおりちゃんが入っている間に、お姉ちゃんがかおりちゃんの家に電話かけてあげる」

 どっちも無理だ。

「そうと決まれば、さっさと脱いじゃって」

「いいですいいです大丈夫です」

「子供が遠慮するものじゃないよ」

 桃子は膝立ちになると、カオルのジャケットをガバリと脱がした。

 ひいいいぃぃぃ!

 危うく叫び出しそうになったところをなんとか抑え、カオルは心の中で悲鳴を上げた。

「うわっ、中もびちゃびちゃじゃない」

 植物に服を脱がされてぬるぬるにされたので、もちろん中も洗っていた。

「これじゃあ身体もかなり冷えているんじゃない?」

 カオルに言葉をかけながらも、桃子はカオルの服を手早く脱がしていく。

 これはヤバい!

 脱ぐことは出来ないが、脱がされることは可能だ。

 そして、服を全て脱がされた時、カオルの姿は元に戻る。

 しかも、素っ裸というおまけ付きだ。

 その時のことを考え、カオルはゾッとした。

 桃子はジャケットの下のブラウスも、さささとボタンを外していく。

 手際がかなりよく、カオルが桃子の手を押さえようとしても、さっとカオルの手を払いボタンを外す。

 何でこんなことになった!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ