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絶体絶命風呂場パニック(1)

 一つ目のシュテルン石を回収したカオルは、順調に回収を成功させていた。

 今は三つ目の回収を終わらせ、家に帰るところだった。

「へっくしゅん」

 魔法少女姿のまま暗い夜道を歩くカオルは、盛大なくしゃみをした。

「うー、五月で暖かくなってきたとはいえ、さすがに水浸しだと寒いな」

 植物にぬるぬるにされたカオルは、そのまま歩いて帰るには気持ち悪かったので、公園の水道でぬるぬるを洗い流していた。

 水でぬるぬるが取れたのは良かったが、ぬるぬるは全身にかかっていたので、カオルは結果的に全身びしょびしょになってしまった。

 ジャケットやスカートを絞って水気を切ってはあるが、冷たいことに変わりはない。

 風が吹けば冷たい服ごしの空気が身体に当たり、カオルは余計に寒く感じていた。

「さっさと家に帰らないとこれは風邪をひくぞ」

 変身がとければ服も変身前の濡れていない服になるが、元に戻るまでまだ時間がある。

 服を全部脱げば変身はとけるが、外で素っ裸になるのは抵抗があった。

「風邪をひいてもうつさないで下さいね」

 カオルの隣を歩くヴィーゼルが、若干距離を空ける。

 そんなヴィーゼルを、カオルはねめつけた。

「ひいてたまるか」

 パティシエは風邪をひいたら仕事が出来ない。

 ただでさえ人手不足なのに、ここで風邪をひいて休むことになったら、店に迷惑がかかる。

 下手したら、オーナーが過労で倒れてしまうかもしれない。

 病欠は絶対に避けねばならなかった。

 カオルは両手で腕を抱きながら震える。

「そういえば、購入リストにはどんなものがあるのか、一回見ておかないといけないな」

 魔法の呪文に関しては諦めるしかないが、今回のハサミのように使えるものがあるかもしれない。

「購入リストは常に更新されていますので、いつでもどうぞ。あと一応、魔法道具ではありますので、使い方には注意してくださいね」

「お前の国の変態王子のように私物化はしないから安心しろ」

 魔法少女に変身しないと魔法が使えないのだから、どんなに便利な魔法でもお断りだ。

「しかし、変態王子をたしなめるやつはお前の国にいないのかよ」

「王子の趣味を知っているのはごく一部の人間だけで、たしなめられる地位にいる人間は誰もいません」

「こんな魔法少女だのめちゃくちゃなことをしているのに、ごく一部の人間しか知らないって?」

 登録だのなんだのあるのだから、他人の目に晒される機会などいくらでもあるはずだ。

 不穏な行動をしていたらたとえ王子でも、いや王子だからこそ目立つのではないだろうか?

「王子なだけあって外面はいいんです」

「外面……」

「その外面は両親でさえ騙せるレベルで、誰かに王子の本性を言っても嘘だと思われて笑われるだけです。しかも、王子らしく優秀な頭脳をお持ちで、素晴らしい実績を残していることで、人格者としても名を馳せています」

 カオルは変態王子を思い出す。

 カオルの会った王子は、とてもじゃないが人格者には見えなかった。

 本能に訴えるあの気持ち悪さを隠すとは、とんでもない外面だった。

 あの舐め回すような目を思い出すだけで、カオルは今でも鳥肌が立つ。

 カオルは寒さとは別の理由で、思わず腕を擦った。

「そんなわけで、王子を止めるのは不可能です。我々は自分への被害を最小限に抑え、そこから最大限の旨みを……おっと」

 急に立ち止まったヴィーゼルは、口を前足で押さえた。

「おい。何だ旨みって」

 カオルも歩みを止めてヴィーゼルを見下ろす。

「何でもないです。とにかく、王子の暴走を止めるのは無理ってことです」

「止める気があるのか怪しいもんだな」

 この数日間、ヴィーゼルとは一緒に暮らしてきたわけだが、変態王子以上に曲者なんじゃないかという気がしてきた。

「まあまあ。早く帰りましょう。こんなところで立ち止まっていたら、職務質問もとい補導されますよ」

「おい、やめろ。そういうことを言うとたいてい――」

「こんな時間にどうしたのかな?」

 カオルの心臓が驚きに跳ねた。

 後ろの方から、女の声が聞こえた。

 いつも聞いている声に、そっくりな声が。

 どうか思っている人物ではありませんようにと願いながらカオルが振り返ると、そこには買い物袋を手に持ち、長い髪を下ろした桃子がいた。

 カオルはいっきに青ざめる。

 補導より最悪な状況だった。

「お母さんかお父さんは?」

 カオルに話しかけながら、桃子が駆け寄ってくる。

「えっと……。その……」

 急なことにカオルの頭は真っ白になってしまい、とっさに言い訳が思い付かない。

「もしかして一人なの?」

 カオルの前にしゃがみ、近くでカオルを見ると桃子が怪訝な顔をした。

「……あれ? もしかして濡れてる?」

 桃子はカオルの服をペタペタと触り、そして、目を見開いた。

「どうしたのこれ? 濡れているし、だいぶ冷えてる。何があったの?」

「え……。その……」

 何と言えばいいのか分からず、カオルの頭の中はパニックになっていた。

 植物と戦ってぬるぬるになったので水洗いしました。

 正直に話すバカがどこにいる。

 雨に濡れた。

 いや、雨は降っていない。今日は一日晴れていた。

 水撒きしている人間に水をかけられた。

 ここまで、濡れるわけがない。

 焦っているせいか、まともな案が全く出てこなかった。

「まさか……。誰かに何かされたの?」

 桃子がカオルの両肩をしっかりと掴み、深刻そうな顔でカオルを見た。

 これはまずい。

 もし騒ぎになったら、今以上の窮地に立たされることになる。

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