表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/35

初めての戦闘(3)

「ヴィーゼルまだか!」

「読み込み終了しました」

「ステッキをこっちに投げろ!」

 ヴィーゼルがステッキのコードを抜き投げようとするが、巨大ナマズの方が一歩早かった。

 カオルがステッキを受け取ろうとヴィーゼルの方に手を伸ばした瞬間、背後で巨大ナマズが飛び上がった。

「しまっ――」

 逃げる間もなく、巨大ナマズの大波がカオルを襲う。

 波に足を取られ、カオルはステッキを受け取る前に転んで仰向けになった。

 そこに、水の塊が降り注ぐ。

「うわああああ!」

「カオルさんステッキです! 呪文はグリーンハートスプラッシュ!」

 水の塊がぶつかる寸前、カオルはヴィーゼルから投げられたステッキを頭上で掴み、掴んだ勢いのまま振り下ろした。

「グリーンハートスプラッシュ!」

 ステッキから圧縮された風が飛び出し、カオルに迫る水の塊を切り裂く。

 二つに割れた水の塊は、カオルの身体を真ん中に、左右に分かれてカオルにぶつかることなく落ちた。

「あ、あっぶねーー!」

 カオルはガバリと起き上がり、四つん這いでわたわたと地面を這い、池から距離を取った。

 安全な場所まで進むと立ち上がり、池に向かってステッキを構える。

「もう好き勝手させないからな!」

 巨大ナマズが飛び上がったところを狙い、カオルはステッキを振る。

「グリーンハートスプラッシュ!」

 カオルは巨大ナマズの中心を狙ったが、ステッキから飛び出した風はそれて、巨大ナマズのヒゲを切り落とした。

「意外と狙うのが難しいな」

 カオルは次こそはと、池の水面を泳ぐ巨大ナマズに、呪文を唱えながらステッキを振る。

「グリーンハートスプラッシュ!」

 風の刃が水面を切り裂き、泳いでいる巨大ナマズに襲いかかる。

 今度は見事に当たったものの、巨大ナマズの表面を傷付けただけで終わった。

 水の抵抗で風の威力が落ちたようだ。

 それに気付いたカオルは、池に向かって走り、池のふちギリギリに立った。

「さあ来い!」

 カオルの挑発に引っかかった巨大ナマズが、カオルに向かって池を突っ切って泳ぐ。

 そして、カオルの真正面まで来た時、巨大ナマズが大きく飛び跳ね、カオルに飛びかかって来た。

 カオルはそのチャンスを逃さなかった。

 ステッキを何度も下から振り上げる。

「グリーンハートスプラッシュグリーンハートスプラッシュ!」

 風の刃が巨大ナマズに直撃し、巨大ナマズはその衝撃に空へ躍り上がる。

 そのままカオルの頭上を通り過ぎ、カオルの後ろに落ちた。

 巨大ナマズの身体は地面に触れたとたんキレイに三つに分かれ、地面の上に広がった。

「巨大ナマズの三枚下ろし完了」

 カオルは振り返って巨大ナマズを見る。

 そして、ゆっくりとステッキを振り下ろした。

「レッドリボンシャワー」

 巨大ナマズがこんがりと焼けていく。

「焼き巨大ナマズの出来上がりっと」

「見事ですカオルさん」

 カオルが戦っている間、安全な場所から近寄ろうともしなかったヴィーゼルが、ようやくカオルに近付いて来た。

「これでシュテルン石を回収出来ます」

「そういえば、シュテルン石ってどうやって回収するんだ?」

 巨大ナマズが燃え尽き、灰となって崩れ始める。

「実体化したシュテルン石を倒すと、シュテルン石の周りを形成していた物質が灰となります。その灰もいずれ消えますが、シュテルン石はその灰の中に埋もれています」

 ヴィーゼルは巨大ナマズの灰の中を、小さな前足で漁る。

 すると、灰の中からキラリと光るものが出てきた。

 ヴィーゼルは灰を払いながら、それを掴み上げる。

「これがシュテルン石です」

 それは、キラキラと光る青色の丸い石だった。

「へー、ビー玉に似ているんだな」

 ヴィーゼルからシュテルン石を受け取り、カオルはシュテルン石を日に透かして見た。

 太陽の光を通して見るシュテルン石は、より煌めいていてとてもキレイだった。

「さ、しまいましょう」

 シュテルン石をしまうエーデルキステを、ヴィーゼルはリュックから取り出していた。

 エーデルキステを開き、カオルに差し出してくる。

 カオルはシュテルン石を、エーデルキステの中の窪みにはめこんだ。

「これでようやく一つ目か……」

 カオルはため息を吐く。

「こんなことがあと四回もあるのかよ」

 カオルは巨大ナマズとの戦闘を思い出す。

 単調な攻撃だったから今回はどうにかなったが、これから先、戦闘に慣れていない自分にどこまで出来るのか。

 カオルは不安を抱く。

 こんなこと今すぐにでも止めたいが、状況がそれを許さない。

 もう一度ため息を吐いた時、ポンという音とともに、カオルから煙が出た。

「お、戻る時間か」

 煙が晴れると、薫は元のコック服姿に戻っていた。

 馴染みのある男の身体。

 それにほっとするのと同時に、こんな当たり前のことに安堵する日が来るなんてと、薫はまたため息を吐いた。

「ため息のし過ぎは幸せが逃げますよ」

「誰のせいだ」

「ボクのせいではないですね。ボクはただの使いっぱしりなので。苦情があれば王子にお願いします」

「ぐっ」

 あの変態王子には二度と会いたくない。

 色々と言いたいことはあったが、王子に連絡を取られると困るので、薫は言葉を飲み込んだ。

「片付けますよ」

 ヴィーゼルがエーデルキステをリュックにしまい、薫に前足の平を見せる。

 薫は手に持っていたステッキを、ヴィーゼルに無言で渡した。

 ヴィーゼルはそれもリュックにしまう。

「そういえば」

「何だ?」

「薫さんはケーキ屋で働いていたんですね」

「そうだけど」

 何でそんなことを聞くのかと、訝しみながら薫は答える。

「もしかして、誕生日のケーキも自分で作りました? 誕生日に、一人で、自分の為に」

 薫は黙り込む。

 一人と一匹の間を、寒い空気が流れた。

「さーて、帰るか」

 薫はズボンから時計を取り出して見る。

「もう三十分ないから急いで帰らないといけないな」

「薫さん?」

「さあ、急ごう」

 わざとらしく言うと、薫はフェンスに向かって歩き出した。

 しつこく聞き続けるヴィーゼルが、その後を追う。

 一人と一匹が去った貯水池には、ようやく元の静けさが戻った。

読んでいただきありがとうございます。

ジャンル別日間ランキングに入っていました!

皆様の評価、ブクマのおかげです。

ありがとうございます。

今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ