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初めての戦闘(2)

「いつでもきやがれ!」

 カオルの怒鳴り声に答えるかのように、巨大ナマズが池から跳ね上がった。

 カオルは巨大ナマズが落ちる前にステッキを振る。

「レッドリボンシャワー!」

 ステッキの先から炎が噴き出て巨大ナマズを襲った。

 しかし、巨大ナマズは空中で尾びれを器用に動かして池の水をすくい、ステッキに大量の水をかけた。

 炎は巨大ナマズに辿り着く前に消えてしまう。

 そして、巨大ナマズは池の中に戻り、カオルは大きな波にまた流された。

「意外と賢いな……」

 カオルはすぐに立ち上がり、池に向かってステッキを構える。

 しかし、構えたところでカオルには炎以外に戦う手がない。

 炎で攻撃しても、先ほどのように防がれてしまう可能性が高い。

 これでは巨大ナマズを倒せない。

「ヴィーゼル! 他に使える魔法はないか?」

「雷、水、土、風、色々とありますが」

 カオルは巨大ナマズに有効な魔法がどれか考える。

 雷はナマズの攻撃でカオルの周囲が濡れているから、カオルまで感電する恐れがある。

 水は相手も水の生き物だから、攻撃したところでそんなにダメージを与えられる気がしない。

 土なら土の塊で攻撃すれば、かなりの衝撃を与えることが出来るのではないだろうか。

 いや、炎が届く前に消されたぐらいだ。

 土の塊ぐらいなら、水の衝撃で崩されてしまうだろう。

 あとは風で吹き飛ばす。

 飛ばしてその後はどうする。

 カオルがどの魔法にするか考えているうちに、巨大ナマズが池の上で跳ねた。

 今度は尾びれで、ナマズは水の塊をカオルに飛ばしてくる。

 油断していたカオルは避ける暇もなく、水の塊を身体に受け吹っ飛ばされた。

 雑草の上を転げ、数メートル先でやっと止まる。

「ぐうぅ」

 カオルは腹を抱えて縮こまった。

 水の塊をもろに腹にくらったのだ。

 それは、まるで殴られたかのような衝撃だった。

 巨大ナマズは池の水面を悠々と泳いでいる。

 カオル相手では潜って身を隠すほどでもないと、バカにしているかのようだった。

「舐めやがって」

 カオルは地面に手をついて立ち上がる。

 ヨロヨロと前に進むが、巨大ナマズを倒す手があるわけではない。

 巨大ナマズは泳ぎながら、また尾びれで水の塊を飛ばしてきた。

「やべっ」

 カオルは身体ごと横に跳び、なんとか避けた。

 が、受け身などとる余裕もなく、カオルはゴロゴロと地面の上を転がる。

 巨大ナマズと少し距離があったから、ギリギリで避けられた。

 巨大ナマズは確実に知恵を付けていっている。

 早く倒さなければ、勝てる見込みがなくなる。

 カオルは焦り出した。

「レッドリボンシャワー!」

 池の水面にいる巨大ナマズに炎を飛ばすが、やはり尾びれで水を飛ばしてきてカオルの攻撃は防がれる。

「くそっ、当たらな、うわあああ!」

 今度は水の塊が大量に飛んで来た。

 悠長に悔しがっている暇はない。

 カオルは走り回って、巨大ナマズが飛ばしてくる水の塊を避ける。

 飛んだり跳ねたり転がったり、カオルはそこらじゅう逃げ回った。

「カオルさん! 逃げているだけじゃダメですよ!」

 遠く離れた安全な場所から、ヴィーゼルが叫ぶ。

「そんなこと分かってるっつーの! おわっ」

 逃げようとした目の前に水の塊が落ちた。

 地面に跳ね返った水しぶきがカオルに当たり、カオルは水の衝撃によろける。

 水しぶきだけでも、かなりの威力があった。

「やべっ」

 止まったとたん、カオルの頭上に集中して水の塊が大量に降ってきた。

「レッドリボンシャワーレッドリボンシャワーレッドリボンシャワーレッドリボンシャワーレッドリボンシャワー!」

 呪文をたて続けに唱え、カオルは降って来た水の塊に炎をぶつけた。

 いくつかの水の塊は炎で相殺し、それで出来た隙間からすんでのところで転がり出る。

「あちちち」

 蒸発しきれなかった水が熱湯と化し、カオルの身体にかかった。

 カオルは熱さに慌てて、ジャケットやスカートについた熱湯を払った。

「俺が湯引きされてたまるか」

 ナマズの調理法の一つに湯引きがある。

 カオルはパティシエではあるが、学校で一通りの料理を学んでいた。

 日本料理の授業だったが、先生がちょっと変わった人で、山里の生き物をどこまで美味しく調理出来るかという授業があった。

 その授業は今でも思い出したくないものまで調理対象とされ、トラウマになった生徒も少なくない。

「こんな巨大でさえなければ」

 ナマズはその授業で調理していた。

 ナマズの三枚下ろしが、なかなかの出来だったのを覚えている。

 普通のナマズだったら簡単にさばいてやるのに。

 と考えて、カオルはふと気が付いた。

「あれもさばけるんじゃないか?」

 巨大ナマズの外見は、サイズこそ違うものの他は何も変わらない。

「ヴィーゼル!」

「何ですか?」

「切り裂く魔法なんてあるか?」

「ありますよ」

 ヴィーゼルはノートパソコンをリュックから取り出して操作する。

「風魔法の中に、風で切り裂くものがあります。購入しますか?」

「ああ。買え!」

 カオルはヴィーゼルにステッキを投げる。

 ヴィーゼルはステッキを受け取り、ノートパソコンに繋いだ。

 その間も、カオルにはいくつもの水の塊が降る。

「早くしろ!」

 カオルは巨大ナマズの攻撃を必死に避けながら、ヴィーゼルが魔法を購入するのを待った。

 ステッキを失った今のカオルには、巨大ナマズを攻撃することも、己を守る為に炎を出すことも出来ない。

 カオルは水の塊から逃げ続けた。

 が、急にそれが止んだ。

「何だ?」

 カオルが池を見ると、今まで水面を泳いでいた巨大ナマズの姿が見えない。

 池をくまなく見ても、その姿を見付けることが出来なかった。

 何だか嫌な予感がする。

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