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中庸

作者: 自転車

普段からこの国のルールは曖昧で国民も一貫性がない、こんな国で生きるのは息苦しい。こんな中途半端な連中と一緒にいたらこっちまで中途半端になってしまう。そう思って憤慨している男がいました。


男はちゃんとしたルールの国で暮らしたい、中途半端ではなく、しっかりとした一貫性のある生活がしたい。中途半端よりは絶対にはっきりしていたほうがいい。ルールが分かりにくすぎて、みんな中途半端すぎて俺は何も分からないと飲んだくれていました。


「俺は適応能力があるんだ、ルールとそこの人間さえしっかりしてれば俺はどこにだってなじむ事ができるんだ。どいつもこいつも適当に生きやがって、俺はそういうのが大嫌いなんだ。どいつもこいつも都合がいい野郎どもだ」


それが男の口癖でした。


男はどこか自分を受け入れてくれる国があるはずだ。中途半端じゃなくしっかりとしたルールの元で人々が暮らせる場所があるはずだ。そう思い男は自分に合った国を探しすため、旅に出る事にしました。


男が始めに行った国は善人の国です。この国には善人しかいません。男は悪人ではありませんが、善人ではありませんでした。誰もゴミすら捨てません。誰もが自分をそっちのけで他人を助けます


男は参ってしまいました。自分は良心的な男だと思っていましたが、こうまでみんな善人だと困ってしまいます。そこまで人の為に尽くすことはできません。


なので男は次の国に行くことにしました。


次の国は悪人の国です。この国には悪人しかいません。男は善人ではないではないですが、悪人ではありませんでした。誰もが人を騙し、力があるものは弱者を殺し、他人の妻であろうが無理やり奪っていきます。


男は参ってしまいました。男は自分は悪の心を持っていると思っていましたが、こうまでみんなが悪人だと困ってしまいます。そこまで鬼になる事はできないのです。


なので男は次の国に行くことにしました。


次の国は馬鹿の国です。この国には馬鹿しかいません。男は賢くはないが馬鹿ではありませんでした。誰もが男に自分の名前を忘れて困っている、お前は俺の名前を知らないかと聞いてきます。自分の家にはどう帰ったらいいと男に尋ねてきます。


男は参ってしまいました。男は自分が頭が悪いと思っていましたが、こうまでみんなが馬鹿だと困ってしまいます。ここまで馬鹿になる事はできないのです。


なので男は次の国に行くことにしました。


次の国は賢者の国です。この国には賢者しかいません。男は馬鹿ではありませんが、賢者ではありません。ここでは人間の最小単位はなんであるのか?人は死んだら何処に行くのか?お前さんはなんで生まれたのか?そんな事ばかり尋ねてきます。


男はまいってしまいました。男は自分の頭がそれなりに賢いと思ってましたが、こうまでもみんなが賢いと困ってしまいます。そんな事ばっかり考えて賢者になる事などできないのです。


なので男は次の国に行くことにしました。


次の国は正直の国です。この国には正直者しかいません。男はウソつきではありませんが、正直者ではありません。ここでは誰もが自分の思った事を包み隠さず、誰もが感情の赴くままに欲望の赴くままに行動します。


男は参ってしまいました。自分は正直ものだと思っていましたが、こうまでもみんなが正直だと困ってしまいます。ここまで正直に生きることはできないのです。


なので男は次の国に行くことにしました。


次の国は嘘つきの国です。この国嘘つきしかいません。男は正直者ではありませんが、ウソつきではありません。ここでは自分に都合のいい事しかいいません。その場の都合で自分の都合で人々は平気で人を騙します。


男は参ってしまいました。自分は嘘つきだと思っていましたが、こうまでもみんなが嘘つきだと困ってしまいます。ここまで嘘をつき続けることはできないのです。


なので男は次の国に行くことにしました。


偽善の国、偽悪の国。がんばる国、頑張らない国。愛する国、愛さない国。


男は色々な国を回りました。どの国も男が望んだ一貫性のあるルールはありました。けれど男に合う場所はありませんでした。


男はほとほと困ってしまいました。


しかし男の次の目的地はもう決まっていました。


男はずっと歩いてきた道を重い足取りで戻っていきました。初めの国の人々は旅に出る前は怒ってばかりだった男の顔が気がつくといつでも不満そうな顔に変っていて大層不思議がったそうです。

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