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サマーロックストームと連絡先。

「さいきん、お前なんか楽しそうだな」

「え?」


昼休み、いつものように裕一と食堂で昼飯を食べていたときに、そんなことを言われた。

僕としてはそんなに、なにか変わったようなことはなかったのだけど、客観的に見るとそう感じるのだろうか。


「楽しみがあって、それがあるから頑張れる、みたいなさ」

「楽しみ、か」


それがなんなのかは、なんとなく気づいてはいる。放課後になり、いつも行く場所。その向かう足が、日に日に早くなることも、自覚しつつあった。

それを正直に裕一に言うのは、なんだか恥ずかしかったから適当にはぐらかすけど。


「まぁ、いろいろと」

「ふ~ん。まっ、いいけどな。あ、そういやよ」


定食を平らげた裕一は、携帯で何かを検索している。なにか見せたいものがあるのだろうか、というか一応携帯は持ち込み禁止だ。何を堂々と使っているんだ。


「せんせー来たら教えて。あ、これこれ」

「ん……お、サマーロックストームのチケット販売か」

「今年もこの時期がやって来たな~、とれるといいけど」


サマーロックストーム、通称サマストというのは、要は多種多様なロックバンドやアーティストたちがやってくる、二日間連続で行われるロック・フェスティバルだ。毎年真夏にやるから、聴いている方も演者も汗だくになるけど、あれは気持ちのいい汗だ。


「二人分でいいよな?」

「あぁ、頼……」


ふっと、頭によぎる。一人の影。


「……」

「どうした?」

「あ、いや……なんでもない。よろしく頼む」


……裕一との関係も大事だしな。今回は、友情を優先しよう。


☆☆☆


「サマストな~。行きたいけど、やっぱ金がないしな……」

「場所も遠いですもんね」


今日は、昨日約束した通りちゃんと学校にやって来ていた心優さん。話題はもちろんサマーロックストームだ。


「実は私、まだ一回も行ったことないんだよな」

「そうなんですか? 楽しいのに」

「だから金がないんだよ」


確かにチケットと交通費、また二日間共に行くならホテルもとる必要があるしで、高校生には中々に厳しい額が必要なのは事実だった。


「いいよな~、信吾は行くんだろ? 友達と」

「まぁ、そうですね。友情は大事ですから」


僕たちはお互いを、名前で呼ぶようになった。

僕は心優さん、心優さんは信吾と。出会ってからまだ3ヶ月程度だけど、僕たちはそれくらいの仲にはなっていた。


「……ま、楽しんでこいよ」


なんでもないように振る舞う心優さんだったけれど、どことなく拗ねているようにも見えた。


「そうだ、心優さん。ちょっと気が早いですけど、文化祭。僕たちも何か軽音楽部として何かやりましょうよ」

「何かって? 演奏か?」

「そうですね……やっぱりそうなるかなって。本当は、バンド形式でなにかやりたかったけど……」

「私と信吾だけじゃなぁ」


気まずさを変えるため、僕はそんな話を始める。文化祭は10月だから、時間はまだ残されてはいるけれど、だらだらと決めていてはそれもあっという間に過ぎる。


「私、キーボードも弾けるぜ? それなら二人でもなんとかなるんじゃない?」

「弾き語り、とかですか。僕がギター担いで」

「なら案の一つだな」


そこからは、やるのなら好きなバンドの曲か、自分達のオリジナルにするかという話や、僕はちゃんと歌えるのかとか、心優さんにキーボードを弾いてみてもらったり。


話は盛り上がり、日が暮れるまでそれは続いた。


☆☆☆


「なぁ、信吾」

「はい?」

「連絡先、交換しとこう」


帰り道、心優さんからの申し出だった。心優さんが学校をずる休みしてお見舞いに行った時も交換しようと思っていたけど、その時は断られてしまっていた。


「もちろん。でもそれなら、なんであの時断ったんです? 割りとショックだったんですけど」

「いや、その……まぁ、理由はこれなんだけど」


恐る恐るといった様子で見せてくれたのは、何も珍しいことはない、ごく普通のスマホだった。それが理由と言うけれど、これに何があるというのだろうか。


「実は、これ……お前が帰った後に、父さんがくれて。ちょっと古いタイプだから安く手に入れることが出来たんだって」

「なるほど、でもそれがなんの関係が……」

「ガラケーだったんだよ、今まで」


今時ガラケーなんて恥ずかしかったから、見せたくなかったらしい。僕は特に気にはしなかったけど、本人は見られたりするのも嫌だったようだ。確かに言われてみれば学校で──いや、だから校則で禁止なんだけども──携帯電話を扱っているところを見たことがなかった。


「それでよく使い方がわからなくて。電話のかけ方くらいはさすがにわかるけど、このチャットアプリのやり方が……」

「あぁ、それなら……ええと、画面見せてもらっても?」

「ほら」


見慣れたチャットアプリ。まだトモダチがいない新鮮な状態で、なんだか懐かしく感じた。まずは僕とトモダチ追加をしてもらうことにした。


「これ?」

「そう、その信吾ってやつです」

「これがお前の?」

「はい、僕です」


お互いにトモダチ追加が完了して、いつでも連絡ができるようになった。名前はそのまま「心優」にしたようで、新しいトモダチとしてトップに来ていた。


「ありがとな」

「いえ全然」


それを最後に、歩道橋のところから僕たちは分かれ帰路に就く。

頭の中で、文化祭で二人で何をしようかなと考えながら。


☆☆☆


その日の夜、さっそく心優さんからのメッセージが届いた。


『これは届いてるのか?』

『届いてますよー』

『おお、こうか。なるほど』


家にいても心優さんと会話が続いていることに、不思議な感覚に陥る。


『明日は試しになんかやってみたい曲とか、あわせてみようぜ』

『そうですね、そうしましょう』


楽しい時間はすぐに過ぎると言う。

明日やりたいことや、最近出た好きなバンドの新譜の事、夏休みが始まったらやりたい事。

夢中でメッセージを送りあっていたら、日付が変わりかけていた。


『もうそろそろ良い時間だな』

『ここまでにしておきますか』

『そうだな。じゃあまた明日。おやすみ』

『おやすみなさい』


おはようから、おやすみまでを交わす。

心優さんとの距離が縮まったようで嬉しくなったし、 また明日の約束も、安心を覚える。


(出会ったときとは、もう気持ちが全然違うや)


会えて良かったな、なんて本気で思ってしまう。

そんなことを伝えたら、心優さんには笑われてしまいそうだけど、笑われても本心だから仕方ない。


明日試しに伝えてみようかと考えながら、僕は眠りにつくのだった。



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