まだ友情ともよべない感情から。─愛澤心優の場合─
短いです。
「愛澤さんは……甘いものが好きで、音楽が大好きな、可愛い女の子です」
家に帰っても、この言葉が頭の中でぐるぐると駆け巡る。
あんな草食系な雰囲気のくせして、いきなりとんでもねー事ぶつけてきやがる。
「お姉ちゃん、大丈夫? 帰ってきてから元気無さそうだけど」
「雨降ってたけど、姉さん、風邪引きかけてるんじゃない?」
妹の千優と真優が心配して声をかけてくる。体調が悪いわけではないけど、良くもないかもな。確かに顔は熱いし。
(いや、わかってはいるんだよ)
不意打ちみたいな言葉のせいで、気が動転している。有り体に言ってしまえば、今まで言われたことの無い事に……照れているだけだ。
「ちょろいかよ……」
いや違う。ただ突然だったから驚いただけだ。明日になれば、またいつも通りに顔を合わせて喋ればいい……のに。
朝になると、もっと無理だと思った。
(いや、無理無理無理。こんな気持ちじゃ会えない)
ムカつく。調子が元にもどったら、ぜってー仕返しする。こんなの私じゃないんだからな。
(あぁ、今日はずる休みしよ……明日、明日になれば、もう平気なはずだから……いつもの、私だから)
でも、今は会いたくないのに、会えないのもつまらないと感じるのも、本当の気持ちだった。
久しぶりに好きな音楽の話で盛り上がれるやつと出会えたからだろうか、ここ最近は、ずっと橘と話してばかりだったことに気づく。
「橘、信吾、ね。……そういや歳下だったな」
教室じゃお互い話さない。それに特に理由はないが、その分部室でたまったものを吐き出すように語る。あの時間が、私は好きだった。
「ま、同級生だけど、可愛い弟みてーなもんだな」
まるで自分に言い聞かせているようだとは、気づかないフリをした。
──そして、次の日の夕方が、やって来るのだった。