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愛澤心優が留年した理由。

ヒロインが出ません。

愛澤さんのお父さん──一雄さんは工場で期間従業員として働いているらしい。

立ち話もなんだからと、室内に入れてもらった。

窓の隙間からぬるい風が入り込んできている。よくみると、あちこちにガムテープや新聞紙が敷き詰められていて、それが昨夜の雨風の侵入を防ぐためとはすぐにわかった。


愛澤……心優、さんは今は眠っているようで、もうすぐ起きるだろうからよければ待っていると良い……とのことで。


「嫁には若いうちに逃げられてね。それからは、娘達をなんとか育てる日々だったよ」

「娘、たち」

「心優の下にはあと二人いてね。高校一年生と、中学三年生。次女は君たちと同じ、信清高校(しんせいこうこう)だよ」


初めて知った姉妹の存在。……高校一年生と、中学三年生。

かなり失礼なことを考えているが、それを口にだすのは憚られた。


「ふふ、こんなあばら家染みたところに住んでて、二人も私立高校によく通えるな、って思うよね」

「あ、いえ、そんなことは……」


図星だった。

一雄さんも期間従業員ということもあり、収入も安定してはいないはずだし、無理と言わなくとも、かなり厳しい生活を強いられてしまうのではないかとは感じた。


「事実だからね。だけどなんとか長年、働きに働き、稼ぎに稼いだ。そのまま進めば、なんとかなるはずだった……のだけど。ついに体を壊してしまってね。今は回復したけど……半年は働けなかった」

「その間……あい、み、心優さん達は……」

「……橘くんは、心優が留年しているのを知っているね?」


あれは、私のせいなんだと続ける一雄さん。


「心優は、私が動けない間、黙ってアルバイトをいくつも掛け持ちしていたんだ。次女が入学するためにかかる費用と、生活費を少しでも稼ぐためにね……学校を無断で休んだりしていた日が何日もあったらしい。たまに登校しても、その疲れが来るのか居眠りばかり」


「でも、そういう事なら、三者面談とかで……改善するように注意されそうですが……」


「……半年経って、また働きだしてから私は県外へ出稼ぎへ出ていたんだ。一刻も早くお金を稼ぐために。だから心優の近況は、心優本人の口からしか、電話で聞けなくてね……あのときは、私も冷静さを失っていたと後悔したよ。もっとはやく気づいてやれば、あの子も留年しないですんだはずなのに」


「……そうだったんですか」


「でも、かなしいかな。あの子の頑張りのお陰で私達は助かったんだ。ピアスも髪を染めるのも、やめろと言えなくてね……でも、心優にはもうこれ以上は無理だけはさせない。だから学校も行ってもらって、部活も好きなようにして、なんとかもう一度青春を謳歌してもらいたい……とはおもったが」


そこから先の言葉は、僕も何となく察する。留年した生徒が、果たしてのびのびと高校生活を送れるのか、という疑問。

実際、彼女はクラスでは浮いている。


「初日に行かせた後に気づいたよ。無責任な事を言った、と。だからもしも、自主退学したいと言い出したときは甘んじて受け入れるつもりだった……」

「でも……」


「あぁ。心優はそうは言わなかった。むしろ、徐々に満足気な顔をして帰ってくる心優をみて、訊いてみたんだ。学校は楽しいのかい、って。そうしたら、心優何て言ったと思う?」

「……検討もつきません」




「『可愛い同級生がいる』ってさ」

「はい? 誰の事ですかね」

「君だよ橘くん」


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