留年した生徒、愛澤心優。
削除するものを間違えてこれを消してしまいました……ので、再投稿です。これだけは完結させます。
二年生に進級すると、クラスメイトに留年した女子生徒がいた。
赤髪、ピアス。着崩した制服。あの成り、間違いなく不真面目で勉強についていけなくて留年してしまったパターンなんだろうな。
浮いてるし、距離とられてるし。現に僕も近寄りがたいと感じている。ああいうのは苦手なタイプだし、関わることなんてまずないだろうから、気にしないことにしよう。
「俺、初めて見た。実際に留年してる奴」
「僕もだよ」
「気を付けろよ~、タンゴ。かつあげされちゃうぞ」
「タンゴはやめろっつったろ」
「橘 信吾だからタンゴって良いあだ名だと思うんだがなぁ」
友人の三木 裕一の相手をしてやっていると、新しいクラスでのホームルームが始まる。
自己紹介が行われて、例の留年生は愛澤 心優と言うらしい。愛だの優だの、名前負けな人物像に僕は少しおかしくなった。
どこかで聞いた名前な気もしたけれど、特にそれ以上は気にしなかった。
☆☆☆
さて、放課後。今日もいつも通り部室へと向かう。
イメージと違う、なんて言われるけど僕は軽音楽部に入部している。去年まで三年生の先輩しかいなくって、その年入部したのも僕一人だったから、今年入部してくる人がいなかったら僕一人になってしまう。
とはいえ音楽は一人でも出来るし、仮にいなかったとしてもそれはそれで──
「こんちわー」
いざ一人で活動を始めようとした時に、突然やって来た女子生徒。というのも、今朝ホームルームで見た人物だった。
「誰お前」
「……クラスメイトですよ」
「覚えてない」
愛澤心優だった。
なぜ彼女がここに来たのかもわからなかったが、彼女からしてもなぜ僕がここにいるのか理解できないという顔だった。
「まぁなんでもいいけどさ。部員?」
「そうですけど。愛澤……さんは」
「私は一年の時から部員だよ。って言っても、今日まで一度も顔だしたことはなかったけどな」
やはり不真面目ガールのようだ。
あぁ、そうだ。愛澤心優の名前に覚えがあったのは、入部したときに卒業した先輩が呟いていたからだ。その時もいつも来ない奴がいてな、なんて言っていたのを思い出す。
「でもなんで今日は部活に来たんですか?」
「いろいろ来れない事情があったんだよ。お前にゃ関係ない」
いちいち一言余計だなこの人。せっかく一人落ち着いて練習出来る環境になったかと思えばこの乱入。まぁこの様子じゃすぐ来なくなるだろうし、今は我慢しておこう。
「てか、なんで敬語でさん付けなんだ」
「一応歳上ですし」
「学年おんなじなんだから別に気ぃ使わなくて良い」
別に気を使ってる訳じゃないのだけど、愛澤さんはそう言う。だけど仲良くする気もないし、逆にガンガン敬語さん付けで話してやろう。
「ふ~んふふ~ん」
鼻歌を歌いながら、持参してきていたらしいベースケースからベースを取り出す愛澤さん。どこのメーカーかもわからない見た目だけど、割りと僕は好きなデザインだった。
向こうも適当にやるみたいだし、こっちも気にせずに好きなことしよう……と、思った矢先に。
(ん? これって……)
背後からベースが響く。どこかで聴いたような、好みの音で……そうだ、これは。
(『フレイムサウザンド』のインディーズの時の曲じゃん)
フレイムサウザンドというのは数年前にインディーズからメジャーにあがり、人気を獲得していき今や大人気となったロックバンドだ。古参ぶるわけではないけど、僕はインディーズの頃から好きで、今でもライブに行く程度にはファンなのだ。
しかし、インディーズの頃の曲の知名度はやはり高くはなくて、その中でもマイナーな曲なんかはメジャーから入ったような人は大抵知らないのだが……。
(いや、別に珍しいことじゃない。ちょっと意外だったから、驚いているだけだな)
僕は僕で弾こう。
アコースティックギターで、お気に入りの一曲を弾く。それはまず、知っている人になんて会えないだろうなという曲で、インディーズで三曲のみ出したあとにボーカルが急死し解散となった日本のバンド。
誰かと共感できることなんてないけれど、そんな必要もない。いや、やっぱり本当はこの歌を共有したい気持ちはあるのだけど、いかんせん、あまりにも知名度が低いことと、世に広まる前に活動が終わってしまったことが痛かった。
だからせめて僕が、好きだった人間がいたことを証明したいからと……自己満足のためにギターをかき鳴らす。
「待て」
「え?」
「……よく知ってるな、その曲」
「え、知ってる……んですか?」
「私がベース始めようと思ったきっかけのバンドたちだからな」
なんだ。ミーハー、ってわけじゃないんだ。
ふーん、でもまぁ、別に。知ってるからって言っても僕とは波長はあわないだろうしな~。
「──い、いいですよね! ベース! 今でも個人で活動してて……」
「そうそう、私あれに惚れたんだよな~」
「じゃあ──」
☆☆☆
「おっとそろそろ帰るかな。は~、なんか久しぶりにこんなに喋ったな。じゃ、またな」
「あ、は、はい」
雑談をはじめてから二時間ほどが経っていた。
なんてことだ、この僕が……思わずあんなにもベラベラと……。いや、楽しかったんだけども……。
あんなに最初、留年生がどうたらこうたら言ってたのに……都合が良いというか……。
(いや、いまのところ! 話が合うってだけだ! それだけだよな……?)
あぁ、もやもやする。
明日も話せるかな、とか考えてる自分にはもっとな!