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ほんのひと匙  作者: 遠津汐|和田貫
海岸線漫遊 記録ノ書――Ⅰ 外海をみたかばん ≪途中まで≫
8/15

志帆、さかなをたべる。

書きかけ

 志帆は駆けた。

 イギリス経由のアメリカ民謡でもある「ピクニック」を歌いながら、山を駆け下りて、そして広い広い草原に出た。まもなくズボリと足が埋もれた。湿地だった。

 平らな大地を川は幾重にも幾重にも自由に蛇行していた。

 小さなガマがそこかしこに生えていた。鳥の群れが星のように散りばめられた沼地に降り立っては、水を飲み羽を洗う。

 神話が生まれた場所と呼ばれる大河の源流の果てに志帆はいた。とても無自覚に。

 志帆は「第九」を歌いながら、沼の縁に生えたガマの穂を引き抜いた。指揮棒の代わりでもあり、カマボコに出会いたいという欲求でもあった。


 あまりにも川は澄んでいた。

 魚すら棲めないほどに澄んでいた。


 川で身体を洗えば川は汚れる。

 洗濯なんてもってのほかだ。

 茶の川の二の舞はするまい。

 志帆は川をおかしくしないで海にたどり着くことを、己に誓った。

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