召喚された吾輩は犬ではあるけれどカワイイという名もあるゆえ何も起こらぬぞよ
我輩は犬である。名前はカワイイ。愛すべきポメラニアンとは我輩のことである。
我は唐突に人間と言葉が通じるようになった。
通じるようになったのは、魔法というもののおかげらしい。人間とは次から次へと奇怪な技を繰り出すとは思っていたが、言葉が通じるとは見事である。
我は、我が名が体を現す可愛いだとようやく知った。
うむ、我は可愛いのだ。
箱形の油臭いマシンに乗ってたどり着いたドッグランで日頃の運動不足を解消していたところ、なにやら聖女の召喚とやらに巻き込まれたもようである。なお我の庇護者の匂いも油臭いマシンのにおいもしない。
さっそく補償の交渉がはじまった。うむ、我の毛布が誤って廃棄されたときには、我が次の毛布を選ぶ権利を有するようなヤツだな。
我は注目を集めんがため、ワンと声をあげた。
「我輩の庇護者はこいつが良い。我輩の住居は清潔な屋根の下であれば狭くて構わぬ。その代わり屋内は自由に歩かせよ。扉は閉めきらぬようにな。汚れるのは嫌いでな、そうだな月に一度は風呂を要求したく思う。優しく洗ってたもれ。ただし、目にぶくぶくを入れてはならぬ。お尻を痛くしてはならぬ」
「むっ、要求ばかりで役に立たぬと思うておろう。我輩は役に立つぞ。例えばほれ、あちらの壁の向こうの通路だ。あの絵の裏に先ほどからひとり張り付いておる。そして天井裏にはふたり」
使用人通路か。天井裏だとと、まもなく捕物がはじまった。泳がせてあったらしいが、まあ仕方あるまいと偉ぶった人間が言ったのを吾輩は聞き漏らしはしなかった。
「なるほど。召喚陣の翻訳機能がかくも優秀だとは」
「然り。我輩は有用なのだ。敵を追い払うのも得意だ。我が身を我輩の寿命まで保証せよ。そして、人は我輩を忘れるべからず。飯は美味いものが良し。これらを保証するなら、我輩はそなたらの忠義に応えよう」