表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほんのひと匙  作者: 遠津汐|和田貫
姫君と人魚 ≪荒原稿≫
10/15

姫君と人魚

 切り立つ崖の上にある保養地は、とりわけ貴族に人気だった。



 小さな川が流れる細い谷間を降りたところには小さな海岸があり、貴族の姫君はそこで打ち寄せられた男を見つけたのだ。


 別荘ゆえに、ここには彼女を含めて四人しかいなかった。湯水のようにお金を使い医師を呼び、使用人のみならず彼女自身もそして近隣から借りた使用人も総動員で、三日三晩寝ずの番をしながらその命を守り通した。


 あなたが助けてくださったのですか?


 はい。私だけではなく、屋敷の者と医師と皆があなたを助けようとした結果です。ほんとうに良かった。

 それはそれはありがとうございます、愛しの姫よ。

 両手を握られ驚いたが、悪い気はしなかった。



 命を助けた娘が、看病という名で男性と同じ部屋で一夜どころか三ヶ夜を過ごした醜聞に巻き込まれるのは偲びないと、婚約を申し出たのは男の父親だった。男は呼び名で言えば彼女より一階級高い身分にあたり、彼女の両親はことのほかこの良縁を喜んだ。


 手が足りず、屋敷を管理する村の者にも季節外れの薪や茹であげたリネンなどを用立ててもらった。

 ひとの口に戸はたてられない。

 三ヶ夜を面白おかしく語らないとも限らない。


 婚約披露は噂よりも早くと、美談をつけて滞在中に行われることになった。


 迅速な手配がなされた。村人たちは準備に携わることで、たんまりと臨時収入を得た。


 そんな最中に紛れ込んだのは、歩くのが苦手な口のきけない女。村娘とは思えない瑞々しい美貌に美しい所作。

 なにものかと、貴き彼らは警戒を怠らない。それでもあっという間に男は美しい庇護欲をそそられる女に惹かれてしまうが、貴族の娘に助けて貰った恩もあって、進む婚姻話はもはやとめられるはずがない。



 パーティの最中にバルコニーから身を投げた美しき女を目撃してしまった客は多かった。上がる阿鼻叫喚の悲鳴に、事態を知り駆け寄る男。


 なぜなんだ、君を愛しているのに。


 別の娘との婚約披露の場で、愛しているのに、心は君だけのものなのにと、泣き濡れたのは侯爵の跡取り。公の場での発言は当然咎められるべきことで、ケチがついた婚約はその場で破談となった。


 男は、命を救われた大恩ある身でありながら、恩を仇で返し両家に泥を塗ったと廃嫡され、留学という名目で国外追放となった。


 醜聞の責任は負うということで、爵位は末の配偶者のいない叔父が継ぐこととなり、助けた娘はそちらと添うこととなった。年の差はあれど、彼らは仲睦まじく家を盛り立てたという。

 新しい小話『姫君と人魚』を投稿いたしました。

 こちらは、<b>古典の二次創作</b>に当たります。


 原作は、デンマークのハンス・クリスチャン・ アンデルセンによって1837年に発表されました童話です。彼の有名な<b>『 <i>Den lille Havfrue</i> 』(邦題:人魚姫)</b>に他なりません。


 なろうにも、たくさんこちらの二次創作はあるかと存じます。

 人魚姫から見た世界が『人魚姫』でありますけれど、姫君ってそんなに悪いかたなのかしらと、幼心ながらそう思っておりました。

 私が今回投稿しましたおはなしは、<b>姫君の立場からみた人魚姫の作中世界</b>を描きました。

 少しでも姫君に向ける目をかえるきっかけとなりましたら幸いに思います。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ