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眠い朝にはご用心

91日目の朝、つまり作戦決行日の朝。

今日も今日とて僕はやっぱり病院に来ていた。なんて言ってしまうと僕が病院に通いたくて仕方の無い人間のように聞こえてしまうが呼び出されたのだ。

朝の4時に電話をかけて。


「おっはよー雫!いい朝だね」


「まだ太陽が登ってねえ」


「分かってないなあ、いい朝と言うのは太陽が登っている日とは限らないんだよ」


面倒くさいのでスルー。


「それで、なんでこんな早朝に僕は呼び出されたの?」


「お願いが半分でもう半分はお節介。」


それわざわざ呼び出さなくてもメールがあるじゃん、と言いたくもなる気持ちを辛うじて呑み込む。

呼び出されてそれに応じたのは僕なのだから。


「明日の夜さ、一緒に散歩しない?」


「別に良いけれど…お節介の方は?」


「夜散歩しない?ってお願いと、女の子のエスコートの仕方をレクチャーするお節介」


ペロリと舌を出して彼女は答えた。


「わざわざ呼び出さなくてもメールがあるじゃん!」


「ハッ!」


「そのリアクション、さては今思いついたな!?まあいいけれど…でもそんな明日の散歩より今晩の方が大事なんだろ?」


彼女の考えた作戦(服を入れ替えて何食わぬ顔で出て行く)はいささか雑ではあったけれどバレる心配はそれほど無かった。マスクをしたら顔なんて分からないし、僕が看病していると看護婦さんは気を使って余り話しかけてこないからだ。


「今日は、うん。とっても大事」


一瞬、彼女の顔が真剣になったので彼女が言わないなら聞かないでおこうと思っていたけれど僕はつい聞いてしまった。


「一体そこまでして何するの?」


「うーんとね、具体的な話は内緒だけど、例えるなら世界が終わる前にやっておきたい事かな?雫は今日世界が終わるなら何する?」


「うーん」


世界が終わるって事はきっと何をしても無駄なのだろう、それだったら僕は何もしないだろうな。やりたい事なんて無かったから、やり残した事なんてある訳ないし。


「多分僕は…」


僕は何をするだろう?そもそも何かをするだろうか?


「きっと雫は世界を救うヒーローなんだ」


僕が何か答える前に彼女が口を挟む。


「世界を救うヒーロー?僕が?」


「うん」


彼女はふざけている訳でもなく至って真面目に答えた。それだけに僕は反応に困る。


「私は世界が終わるなら神様じゃなくて、雫に明日をお願いするかな、なぜだか分からないけれど雫なら何とかしてくれそうな気がするんだ」


「それは過大評価が過ぎるよ」


「雫の凄さを知ってるのは私だけでいいの」


僕の凄さ?凄いって言葉は僕に最も似合わない言葉のひとつだと自負していたけど…

他には努力とか天才、有能、凄い等々、基本的に前向きな言葉は似合わない。ああ、前向きも似合わないや。


「それじゃ、おやすみ雫」


そう言って彼女は大きくあくびをして、布団を被ってしまった。全く…


僕もあくびをして病室を出た。


帰って寝よ…


「ってあと数時間でホームルームじゃねえか!」

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