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オネガイゴト

「ねえ、お願いがあるんだけと 体育祭色別リレーあるでしょ?それで1位取ってよ」


70回目のお参り…じゃなくて通院で彼女がこんな突拍子も無いを言った。


「なんで今更?もう体育祭三日前じゃん」


「雫は三日坊主だから丁度良いでしょ、それに何か知らないけど足速いじゃん」


「ははは、逃げ足の速さには定評があるよ」


「かっこわるー」


僕は別に陸上部じゃなかったけれど何故か昔から足が早かった。それこそ陸上部に引けを取らないくらい。

とカッコつけて言っても勝てる訳でもないし長距離に至ってはとても話にならないけれど…


「まあ取り敢えず頑張ってみるよ」


いくら僕でも病人の願いは無下にはできない。

一応断わっておくが、彼女の願いだからという訳ではない。もし健康ならわざと最下位になってやる所だったけれどここは甘んじて受け入れてやろう。


その日僕は何となく走って帰ることにした。



彼女が言ったように僕は努力が大の苦手だ。

努力できる人に言わせるとそれは甘えで、多分努力出来ないなんて言っている事にすら苛立たれるのだろうけれど…


なんかもう"努力"って漢字を見るだけでアレルギーなんじゃないかってくらい体が拒否反応を示す。

努力する人はキラキラしていて、何だか自分が何もしていないのに、と言うより何もしていないから悪い奴みたいに思えてくる。

だから僕は努力している人があまり好きじゃない。


昔そんな話を彼女にしてみると、


「努力してる人も雫の事嫌いだと思うよ」


と呆れ気味に、いや寧ろ同情気味に言われた。

僕は昔から典型的な三日坊主だったので(三日も続かないことの方が多い)正直、体育祭まで走り続けられるのか不安ではあったけれど何とか今日まで続けることが出来た。確実に言える事は雨が降ったら辞めていた。



72回目の通院、体育祭前日。

彼女は自分が病気なのにも関わらず僕の心配をした。


「凄い汗かいてるじゃん!走ってきたの!?病院内寒いから風邪ひくよ、シャワーあるから借りたら?」


僕は何も言えないままグイグイと背中を押されシャワー室に押しこまれてしまった。

そして汗をかいた後のシャワーはビックリするくらい気持ちがいいのだと知った。何か汚れや疲労が水と一緒に流されていくみたいで心身ともに洗われる。


病室に戻ると彼女は


「三日間で何だかちょっと男らしくなったね」


と意味不明な事を言うのだった。

熱で頭でもやられてしまったのか、はたまた ただの嫌味か…


「腕相撲でもする?」


でも言われてみると急に自分が男らしくなった気がしたので勝負を仕掛けてみた。


「いいよ、何か賭けるの?」


「僕は僕が負けるにジュース三本」


「何それ全然男らしくないじゃん!」


ホントだ、全然男らしくない。男らしくなった気がしたのはやっぱり気の所為みたいだ。


「僕は正々堂々戦って、正々堂々負けてやる」


「かっこわるっ!」


結果、3勝0敗。

あ、今の結果は彼女の結果で僕は全敗。


「やりい!ジュース三本ゲット!」


負けた腹いせに僕はワザとオーバーに言った。


「ねえ雫、昔からことある度に腕相撲を挑んでくるけど私に勝った回数覚えてる?」


腕相撲をした記憶はあるけれど勝った記憶がない。


「零回だよ?雫、零回!もう色取 零 でもいいんじゃない?」


「いいわけあるもんか、見た目が似てるだけで読み方が全然違うよ」


色取(いろどり) (ぜろ)って名前と言うよりも悪口じゃないか…


「そんなヒョロヒョロの腕じゃ彼女が出来た時お姫様抱っこできないよー?」


彼女がいたずらっぽく笑い、僕は言葉に詰まった。

2年ほど前腕相撲を挑んで惨敗し、三日程腕立て伏せをした記憶がある。三日後に全敗したので辞めたけれど。


「お姫様抱っこを要求してこない彼女と付き合うからいいよ」


「と言いつつも、お姫様抱っこをしたい雫は密かに腕立て伏せを決心したのだった」


「ナレーションするな!」


合ってるけど!


「てか明日は体育祭でしょ?早く帰って寝なきゃ」


そう言われて僕は明日が体育祭である事を思い出す。

彼女との約束もあるので今日はさっさと帰ってちょいと走って寝る事にしよう。


「じゃあ、また明日」


僕が病室を出ようとすると彼女に引き止められた。


「あ、ちょっと待って!これあげる」


そう言って僕に紙袋を手渡した。僕はそれを受け取り中身を取り出そうとするとまた彼女に止められる。


「わあ!ここで開けないでよ!マナーだよマナー」


怒られた。


「何か分からないけれど取り敢えずありがと」


そして僕は病室を後にした。



家に帰り僕は例の袋を開ける。

中身は手紙が二通と封筒が一つ。手紙には【体育祭前に読む用】と【私が合図してから読む用】と書かれてあったので取り敢えず前者を読む事にした。


[雫は頑張ろうとするといつも空回りして大コケするから、夜遅くまで走ろうとか思わないで風呂に入ってご飯食べたらすぐに寝ること。]


それだけだった。彼女らしいと言えばらしい。

僕はすぐ出れるように玄関に掛けておいたスポーツウェアを部屋に片付けた。

あまりにも呆気なかったので【私が合図してから読む用】を開けることにした。中にはさらにもう1枚便箋が入っていて


【合図してないのに開けて許すのはここまで】


と書いてあった。流石にそれを開ける勇気は僕には無い。代わりに封筒の方を開けてみると中には小さなお守りが入っていた。僕の好きな青色で表面に金色の文字で"1"と刺繍されていた。


「なんだよ"1"って!」


もしかして1位の1だろうか…

そう言えば彼女は1位とって欲しいって言っていたしな、ここまでされちゃ1位を取らなくちゃいけない。



「手紙とお守りありがと」


と彼女にメールを送り携帯をソファーに放り投げ本日2度目の風呂に入る。

風呂から上がると彼女から返信が来ていた。


「^^」


短いにも程がある。何か返そうか悩んだが返す言葉もないので僕はそのまま携帯の画面を閉じ、ベッドにダイブした。

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