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たったひとつ
帰り道、すっかり暗くなった道を僕は歩く。
泣き止んだ とどめちゃんを家まで送り届けると、もう月が出ていた。
もう鈴虫が鳴く季節か…
秋は好きだ。虫は少ないし、涼しいし。
せっかくなので少し遠回りをして帰ることにした。
病院。人が戦う場所。
医者も看護師も患者も家族も、全員で戦うのだ。
生きるために。
ひよりもそうだった。
だから僕は生きなくちゃならないんだ。
家に帰り、僕は珍しく机に向かった。まあ勉強のためじゃないのだけれど…
机に向かい、紙とペンを取り出す。いつの日かひよりに渡せるように僕は手紙を書くことにした。
本当は今すぐにでも会いに行きたいけれど、それは最後の楽しみにしておくよ。僕の人生の楽しかった事や嬉しかった事、悲しかったことも全部全部、君に伝えるから。
少しだけ待ってて欲しい。
きっとひよりを迎えに行く。どれだけ時間がかかるかわからないけれど必ず行く。
そして最後に、ひよりがもう心配しなくていいように
たったひとつの嘘を、君に。




