我慢
目を覚ます。
賽銭箱にもたれ掛かる形で僕は眠っていた。
長く、僕を苦しめていた裁判に決着がついたのだ。
無罪。
罪は無いと書いて、無罪。僕が僕に言った。
そう判断するまで随分と長い時間がかかったし、周りの人に迷惑をかけた。
だからこそ、僕は無罪となり釈放されたのかもしれない。手放しで喜ぶのではなく僕は考えなくちゃいけない。
"自分が何をしたか"ではなく。
"自分が何をするか"を。
立ち上がり僕は歩き出す……とその前に、とどめちゃんを忘れていた。ん?あれ?とどめちゃんは?
「とどめちゃん!?」
さっきまで横になって眠っていたはずのとどめちゃんがいない…!誘拐でもされたのかも知れない…
僕が呑気に眠っていた所為で…
「おや?やっと起きたのですか?雫さん」
本殿の後ろから、とどめちゃんがひょっこりと顔を出した。
「…いたのか」
慌てて探していたなんてバレたら恥ずかしいので冷静を装う。
「随分と長い間眠ってましたね」
ふと空を見上げ空が赤みがかっている事に気が付く。
「とどめちゃん、今って何時くらいかわかる?」
「結構前に5時のチャイムが鳴ってましたし、5時過ぎていることは確かですね。多分6時前くらいじゃないですか?」
「6時!?とどめちゃん怒られるじゃん!」
怖いことで有名な例のスパルタママ。
何でも本気で怒ると窓ガラスが割れたり、地震が起こったりするらしい。
とどめちゃんの門限は5時。
今の時点で1時間オーバー、走って帰ったとしても15分はかかる。
「いえ、今は帰らない方がいいんです」
「一刻も早く帰った方がいいと思うよ」
「今お母さんは私の事を考える余裕なんてありません。だから1人にさせて欲しいと言われました」
「もしかして…とがめさんが亡くなってからずっと帰ってないの?」
「ずっとという訳ではありませんけれど、ほとんど家にいません」
それは違うだろ…
そう言いかけて僕は言葉を飲み込んだ。
そんな時だからこそ、寄り添うべきだろ。
唯一と言える心の拠り所を失った僕だから分かる。
確かにとどめちゃんのお母さんも辛いのだろう。けど1番辛いのはとどめちゃんと…とがめさんだ。
僕はポケットに入れている、ひよりからの手紙を握った。この長くて、狂おしいほどに切ないメッセージが何よりもその証拠だ。
死んだら終わりなんかじゃない。
生きている人だけが辛いわけじゃない。
死んだ本人が、そして誰よりも寄り添った人が1番辛いんだ。
「とどめちゃん。君はお母さんの心配をしている見たいだけれど、1番心配するべきは自分自身だ」
「私は見ての通り大丈夫ですよ」
じゃあどうして、どうして、とどめちゃんはずっと泣いているんだよ。
「我慢する事だけが美徳じゃない、たまには思いっきり泣いたっていいんだ。涙が枯れるくらい泣いて何が悪い…とどめちゃん、君が我慢する必要は無いんだよ」
「う、うう、うわああああああああああ」
とどめちゃんが思い切り声を震わせて泣いた。
今まで我慢していた悲しみや、怒りや、涙も全部吐き出して。
僕はとどめちゃんが泣き止むまでの30分間ずっと横にいる事にした。何かを言うわけでなく、慰める訳でもなく。




