おーばーかみん
「これでおしまい?おやすみなさいぃ?」
僕は思わず呟いた。
いやいや、そんな事はないだろ。流石に最後の最後に、それもひよりに限ってこんな肩透かしは無いはずだ。家に篭っていても仕方がないので取り敢えず散歩でもしてみることにした。その方が頭が回りそうな気がするし。
太陽が一番高く昇った時刻、多分12時頃。
僕はどこにと言うわけではないが家を出てぼんやりと街を歩いた。平日の真っ昼間、人なんて居ないだろうと思い込んでいたが案外いるのか…
井戸端会議をするおばさんズや買い物帰りのおばちゃん。ふーん、おばちゃん年代が多いのだな。
「あ…」
「あ!」
平日の昼間から散歩している少女を発見。というかとどめちゃんだった。
「あの…とどめちゃん?」
「うげ、雫さんじゃないですか」
「そんな出会い頭に事故現場でも見たかのような顔しないで欲しいな」
「事故のようなものじゃないですか、突発的で衝撃的ですし」
もう少し別の例えがあるじゃないか…という言葉を飲み込む。
「この間、今日が最後みたいなこと言ってなかった?」
「今は登校中です」
とどめちゃんが事も無げに答えるので僕はとどめちゃんの歩いて来た方向。つまり小学校の方を指さした。
「地球は丸いのでこのまま真っ直ぐ進むことと後ろに進むことは同じです」
「…」
なんか物凄いスケールの言い訳だった。
「というのは冗談で今日は創立記念日でお休みなんですよ?」
「僕の通ってた小学校と同じだよね?」
「サボっちゃいました!」
「素直で大変よろしい」
それに僕だって人のこと言えないし。
「でも平日の真っ昼間から出歩いてちゃ何かあったら助けてくれる人が居ないよ?最近不審者とかで物騒だし」
「すでに雫さんが居るので大丈夫です」
「知ってると思うけれど僕は並の中学生よりも弱いよ」
「そっちじゃないです。もう既に雫さんという不審者が居るので不審者の心配はしていませんって意味です」
不審者?こんなにも人畜無害で草食動物が肉を勧めるくらいベジタリアンの僕が不審者?平日に散歩道で偶然出会った女子小学生に声をかけただけなのに?
いや十分不審者じゃないか僕!
「雫さんの話はともかく、不審者さんこそどうなさったのですか?」
「逆だよ!逆!」
冗談です と舌を出すとどめちゃん。なんか今回もしてやられたなあ。
「散歩だよ。歩いた方が考えがまとまりそうな気がして」
「ふうん、ではその散歩とやらにご一緒してもいいですか?」
「別に構わないけれど」
そう言って僕はゆっくり歩き出した。とどめちゃんもそれに合わせて歩き出す。
「雫さん随分と顔色が良くなりましたね」
「お陰様で…というか知っていたなら教えてくれても良かったのに」
「いいえ、生き急いでる雫さんはたまにゆっくり休まないとダメです。どうせ言っても聞かないのでしょうし」
「さ、さーせん」
小学生にド正論で怒られた。しかも僕よりも先の事を考えていらっしゃる。これはかなり恥ずかしい。
「これ以上身近な人が居なくなるのは悲しいです」
「とどめちゃん……そのセリフ僕の足を踏まずに言って欲しかったな」
歩き出して数分、不意にとどめちゃんが僕の足を踏んだのだ。割と強めに、足の小指を的確に。
「足が疲れてしまいました」
「おんぶしてやろうか?」
僕がしゃがみこむと、とどめちゃんは一歩踏み出した後しばらく悩み、僕の背中におぶさってきた。
「何だかこうしていると昔、とが姉によくおんぶしてもらったのを思い出します。私が転んで泣いたり、拗ねたりすると、いつもおんぶしてくれたんです」
「とがめさんと比べられちゃ僕なんて取るに足らないだろうけれど、安全運転には自信があるから眠っててもいいよ」
「……」
ってもう寝てるんかい!
僕は少し速度を落とした。歩くことから意識が離れると今度は色々な方向に意識が向く。
少し冬の香りを織り込んだ風の匂いや、いつの間にか紅く彩られた葉。
そうしていつも僕は夏の終わりを知る。




