病院
病院。
医者が看護師が患者が病気と戦う場所。
人が生きる場所で死ぬ場所でもある。
病院だけじゃない。必ず今日もどこかで誰かが死んで、誰かがどこかで生まれる。
基本的にどこの世界でも人が死ぬと墓が建てられる。このまま何千年、何万年と繁栄したら墓が大地の大半を占める日が来るのだろうか?
ぐにゃりと視界が歪む。
魂を燃やした彼の分も。一生懸命に生きた彼女の分も、誰よりも輝いたあの子の分も、平和を望んだ先祖たちの分も、生きなくちゃならない。
僕の為に誰かが死んで、僕の所為で誰かが死んでも、僕は生きなくちゃならない。
「生きろ」
誰かの声が聞こえる。
その言葉にとてつもない重みを感じた。
瞬間、視界が明るくなり、その光に目が眩む。
「…もしもし!大丈夫ですか!」
慌てるように呼びかけられ僕は目を覚ます。
「君、大丈夫か?」
目を覚ますと白い部屋、白い服を着た人々。
数秒後、僕はようやくそこが病院であると理解した。
「えと、大丈夫です」
反射的にそういったものの、割れるように頭が痛い。
鏡見たら随分顔色悪いんだろうな…
「君は病院の前で倒れてたんだよ。全く…こんな雨の中傘もささずに何していたんだい?」
若い医者らしき人に問いかけられ返答に戸惑う。
「散歩…ですかね」
「全く…若さに胡座をかくのもいいけどその内痛い目を見るよ」
「ごめんなさい」
若さに胡座をかいたつもりはないけれど、取り敢えず謝っておくことにした。
ベッドから起き上がろうとすると"ちょ!ちょっと待って!"と慌てて近くの看護師に止められた。
「全く…自分の体調管理くらいしっかりしてもらいたいものだ」
どうやらこの医者の口癖は"全く…"らしかった。
「あとどれ位こうしていればいいですか?」
「少なくとも今日一日だ」
一日って長い…
看護師や医者が出ていってものの数分で退屈になった。じっと横になって天井を見つめる。
本も無いしゲームもない。こんな風に横になってじっとするだけで具合が良くなるものなのか疑わしくすらなってきた。もっとこう、山に登ったり海に潜ったり自然に触れた方が元気になりそうなものだけれど…
いやその元気がそもそも無いか。
今朝体が鉛のように重かったのは気持ちの問題だけだと思っていたけれど、どうやら本当に具合が悪かったらしい。
ひよりは毎日毎日こうやって過ごしていたのかな…なんて考えると僕が毎日通い詰めていたのは案外いい暇潰しにはなったのかもしれない。
…。
……それにしてもやる事ないなあ。
外の雲を眺めてその上を空想のキャラクターが走るゲームでもしようかな。
バタン!
ドアが乱暴に開く音がした。
「色取!大丈夫か!?」
「色取くん大丈夫!?」
ほぼ同時に日吉と徒花さん、2人の声が聞こえる。
「お前、何も言わずぶっ倒れやがって俺達がどれほど心配したか」
「ごめん、ちょっと疲れてたみたいだ」
「運良く小学生が通ったからよかったものの…」
「小学生が通った?」
なんの事かまるで分からないけれど、何となく嫌な感じがする。
「そうそう、私達が登校している時に偶然通りかかった女の子が"あー、色取 雫って人の顔色随分悪かったなー!もしかしたら、いや多分今頃病院かもなー。まあ私は関係ないけど"って言いながら前を通過したんだよ」
「……」
とどめちゃん…あざとすぎるよ。と言うか気付いているなら教えてくれてもよかったのに。
「色取 雫なんて素っ頓狂な名前はこの星に1人しかいねーからさ、俺達すっ飛んで来たわけだ」
もしかして僕バカにされた?
「ともかく色取くんが大丈夫そうで安心したよー」
「うん、1日もすれば大丈夫だってさ。本当に心配かけてごめん」
「まあ、その何だ、大丈夫そうでよかった」
何故か日吉が照れて鼻頭を擦りながらそう言った。
「それじゃまた学校帰りに寄るからな!三限から飛び入り参加してくるぜ!」
日吉がそう言い残し徒花さんと部屋から出ていった。
再び静寂。ちょいと寂しい。
ギイ。
ちょうど2人と入れ替わりのタイミングで入ってきたのは"全く…"が口癖の医者だった。
「色取くん、ちょっといいかな?」




