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おもいおもい

3番目にあたるお守りをゆっくりと開く。

紙を取り出すと、さっきまでの熱は嘘のように収まった。


【病院】


と二文字。

しばらくその場に凍りつき、息苦しくなってからようやく自分が息を止めているのだと気付いた。


「ふぅ」


ゆっくりと息を吸い、そして吐きだす。


多分、92日だ……

"あの日"以来僕は病院に行っていない。

行く理由なんて無かったけれど、病院の前を通ることだって出来なかった。避ける為に遠回りもした。


あれから1週間が経つ、99日目の今日。はたして僕は前に進めただろうか?


せめて前くらいは向けたかな?



…。


……行かなくちゃ、病院に。

けれどその前に少しだけ、眠ろう。


目を瞑ると体がグーンと沈む感覚がした。

目をつむった瞬間、今日一日の疲労が押し寄せる。

その疲労感の波にもまれ僕は久し振りに深い眠りについた。




翌朝の目覚めは過去最高に悪かった。

いや、最低に良かった。


鉛のような体を起こして水を一杯飲むと幾分か体が軽くなる。思い切り伸びをして小さく呟く。


「よし、行こうか」



曇り。やはり曇りはいい。

太陽の眩しい光から守ってくれてありがとうと礼をも言いたくなる。


僕は軽めの足取りで病院へ向かう。

数人、制服姿の同級生を見て今日が登校日だとようやく気がついた。思い切り私服で、何も持っていない自分を見てよもや深井高校の生徒だと誰も思わないだろうと安心し再び歩き出す。


「あ、雫さん!」


どきり。早速バレた…!


「い、いや僕は今から病院に行くんだ。だからズル休みって訳じゃ無いんだ」


「へー、雫さんにしては軽い足取りで行くのが病院ですか…ふーん、もしや頭の病院では…?」


「なんだ、とどめちゃんかビックリした」


僕はほっと胸を撫で下ろす。


「どうして安心したんです?まさか私がちくらないとでも?」


こいつ…僕がサボっている事に気づいてる!


「って、とどめちゃんだってサボってるんだろ」


「ふふん、今日は運動会の振替休日なのですよ」


得意そうに胸を張るとどめちゃんの横を、ランドセルをしょった小学生が通過した。


「ま、そういう事だ」


とどめちゃんの肩にポンと手を乗せる。ドンマイ、的な意味を込めて。


「い、いいんですか!?私が【ここに深井高校の色取雫さんがいまーす】って叫んでも!」


「一向に構わないよ、何しろあの高校で僕の友達なんて数名しかいないからね」


そう言って僕は肩をすくませる。


「うう、友達が少なくて得する事なんてあんまり無いと思ってました」


その通りだよ、と胸の中で答える。


「まあ僕が言うと説得力なんて全くないけれど学校は行った方がいいよ色々為になるからね」


「本当に説得力無いですね…ま、休むのは今日までなので」


「今日まで?」


もしやインフルエンザの潜伏期間かな?確か熱が引いてから5日だったよな、あの五日間は未だに忘れない至福のひと時だったような気がする。


合法的に学校を休む優越感。もちろん宿題もない。


「あ、別にインフルエンザの潜伏期間じゃないですよ?ちょっと雫さんと話がしたかっただけです」


「それインフルよりタチ悪くない?」


「いや本当なんですって」


うーん、僕は頭をひねる。

ともかくジュースを奢って近くの公園に座ることにした。


「もしかしてツッコミ待ち?」


海藻サイダー(ゲソ入り)と書かれたジュースを見て僕は言った。


「なんの事です?」


ぐびり、ぷはー。平然と飲むとどめちゃんを見てそれ以上深入りしない事にした。


「それはともかく、話ってなんなの?」


謎の液体から目を逸らし僕は聞いた。


「ちょっと待って下さいね、中のイカが出てこなくて…」


缶の裏をペンペンと叩くとどめちゃん。


「いや、そりゃアルミ缶にゲソなんて入れたら引っかかるだろ」


開発者も開発者だが消費者(とどめちゃん)消費者(とどめちゃん)だ。


「このゲソが美味しいのにい…」


とどめちゃんは本当に残念そうな顔をして空き缶をゴミ箱に捨てた。


「聞いたですよ、ひよりさんの話。その話を聞いた時何よりも初めに雫さんが心配になりました。それは多分、私が同じ気持ちを味わったからです」


「私は、ひよりさんみたいに雫さんの気持ちが分かりません。どうするべきかも分かりませんし自分ならどうされたいかも分かりません」


「でも夢でひよりさんに会って私はようやく前を向けました」


「ひよりさんはこう言ったんです"どうすればいいか分からない時はこう考えてごらん。目標とするあの人なら、誰よりも強いあの人なら、誰よりも優しいあの人なら、あるいは…とが姉ならどうするか"」



「…とが姉は強いです。優しいし賢いし何よりも私を愛してくれました。だから、だからこそ私が死んだら誰よりも深く悲しむと思います。深く深く悲しんで、そしていつかちゃんと私の分も歩いてくれると思います」


「あの…雫さん?」


僕は答えられなかった。

目にいっぱい涙をためてとどめちゃんが言った。


「どうして雫さんが先に泣いてるんですか…」




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