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溢れだす

僕達が再び山を下りた頃には、もう既に日が傾き始めていた。帰りの道中、登り道よりもみんなの口数が少なくなったのは決して疲労だけではないのだろうと思った。


絵に書いたような執事の中山さんが車で音楽を聴きながら熱唱している。何だか理想と現実のギャップが凄い…まあそれを言うならお嬢様であるはずの徒花さんもこんな感じだしなぁ。


ふと徒花さんを見ると偶然目が合った。

ふわりと徒花さんは微笑み、そして"ハクション!"と盛大にくしゃみをした。


「ち!違うの!色取くんコレには訳が!」


くしゃみをした直後徒花さんは顔を赤くして言った。

え…何が?と困惑する


「私実は花粉症で普段からこんな感じじゃ無いんだよ!」


「え…何の話?」


たまらず僕が聞くと徒花さんは恥ずかしそうに手で口元を隠し


「何か色取くんが今、野生のゴリラでも見るような冷めた目をしてたから…」


多分野生のゴリラを冷めた目で見る猛者(もさ)なんて一体どこの世界にいるのだろうかなんて事を考えて僕は車に乗り込んだ。


「雨降ってきたね」


ぽつり、助手席に乗っている徒花さんが呟いた。

窓の外を見てみるとさっきまで晴れていた空がいつの間にか曇り、ぽつりぽつりと雨を降らしていた。


「続きはまた明日かな」


僕は言った。雲が厚そうだし、雨も降り止む気配がない。だからこれ以上付き合わせる訳にはいかない。


「でしたらこのままお送りいたします」


中山さんの言葉に甘え僕と日吉は家まで送って貰うことにした。



「それじゃまた明日ね!」


日吉と徒花さんに手を振り僕は車を下りる。家に入り傘を取って僕は再び出掛けた。


雨の音を感じながら僕は歩く。歩く。

やっぱり僕は一人が好きじゃないのかもしれない。無性に誰かと話したい。誰かが隣にいて欲しい。


……。


誰か…ね。自分で言っておきながら呆れる。"誰か"なんて1人しか居ないくせに。

弱気な考えを振り払うように僕は歩を早めた。



やはりこの場所に帰ってきてしまう。

思い出の場所。雲祓神社跡地。




今日は山を登ったり降りたり、降りたり登ったり。

流石に疲れが出てきて、僕は岩にもたれる。


"いーつのー事だかー

思い出してごらん

あんなことーこんなことーあったでしょう"


懐かしい歌が聞こえてきた。卒業ソング?こんな時期に?


"はーるのことですー思いだしてごらん

あんなことーこんなことーあったでしょう

ぽかぽかおにーわで なかよく遊んだ

きーれいな花も 咲いていた"


懐かしい曲に耳を澄ます。名前は忘れてしまったけれど僕も歌ったような記憶がある。


当たりがすっかり明るくなった時にようやく僕は、これが想い出であると気がついた。


隣を見ると目を瞑り、岩に手を当てている彼女の姿があった。


「ひより……」


その幻に手を伸ばしたいという気持ちを何とか(なだ)める。


触れたら消えてしまうから。


「思い出のアルバムって歌だよ。懐かしいね、って言っても雫は覚えてないかもね」


「…僕のことが見えているの?」


聞いた後になんて馬鹿な質問なのだろうと我ながら呆れた。


「僕はさ、ひよりが居なきゃ何も出来ない奴だけれど最近ちょっとだけ自立出来たような気がするんだ」


聞こえていないと知りつつも僕は言った。


「完全に立ち直れた訳じゃない。そんな日が来るのかどうかも怪しいところだけれど、今は日吉や徒花さんのおかげで何とかやっていけてるよ」


「……」


溢れ出す思いが止められない。

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