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雲払

「隣町に空に浮かぶ雲に、払拭の払で、雲払神社があるけれどそっちに行ってみる?」


徒花さんに聞かれ僕は頷く。


もしも、もしも仮に…見つけられなかったら?

嫌な予感が脳裏に浮かぶ。

彼女は僕を信じてこのメッセージを残した。他の誰でもなく、彼女が信じた僕なのだからきっと出来る。


そう自分に言い聞かせた。


自分に対する自信よりは彼女に寄せる信頼の方が遥かに大きい。


「それでその神社はどこにあるんだ?」


頭の後ろで手を組み、気楽そうに日吉が言った。


「場所はわかんない」


と徒花さん。"えっ!?"僕と日吉が声を合わせる。


「ま、だいじょーぶ!」


謎の自信を持つ徒花さんを信じることにして、僕達は再び山を下りる。


「お待ちしておりました。彼岸様、ご学友様」


……。

ゴガクユウ?誰の事だ?


「そいじゃ、昨日言った神社までヨロシクー」


「大丈夫ってそういう事!?いや僕達が大丈夫じゃないって言うか…」


とは言え、わざわざ迎えに来てくれた徒花さんの執事さん?(分からないけれど)を前に今更自分たちで向かいます。なんて言えるはずもなく何だか高級そうな車に乗り込む。


「ヨロシクオネガイシマス」


ロボットのようになってしまった日吉と共に後部座席に乗り込む。クラシック音楽の様な高級車に似合うBGMを聴きながら、さしてやることもない僕はぼんやりと外を眺めていた。


人、人、ビル、人、ビル。


割と見慣れた光景。市街地を抜けると景色は一気に変わった。


田、山、木、草、人。


少し街から離れるだけでこうも景色は変わるのか…

都会の喧騒から離れるとそこはまるで異世界だった。なんて言ってしまうと大袈裟だけれど、少なくとも同じ県だとは思えないほどに、ましてや隣町だとは思えないほどだった。


30分ほどした所で車は止まった。

山の麓。幾つかある山の中でとびきり何の変哲も無い山の前で車から降りた。


「ありがとね中山!」


中山さん、この間地図で丁寧に教えてくれた人もそんな苗字だったような…


「ではここからは徒歩で案内致します」


「ここまででいいよ中山、後は私達で行くから。確か雲払神社は山の頂上だよね」


「左様でございますが…もし、彼岸様に何か」


「大丈夫!!日吉くんも色取くんもいるんだから」


中山さんの言葉を徒花さんが遮った。

なんだか僕が徒花さんをお守りするかの様な流れになってない?どちらかと言えば守られるのは僕な気がするけれど。何かあったら日吉に任せるとしよう。


…ん?あれ?日吉は?


「あれ?日吉は?」


と聞いてみるも


「ありゃ?色取くんと一緒に居るものと思ってた」


慌てて周りを見渡すが居ない。

先に山に入ったのか?いやそんな事をする奴じゃない。もしやと思い僕は車に戻る。


寝てやがった。


日吉をたたき起こし、3人で山を登る。

本日二回目の山登りはまあまあきつい。山なんてどれも同じだろうと思っていたけれど山にも随分と個性があることを知った。草の種類や木の高さ、葉の色も違う。


あるのかないのか分からないような細い道を歩き、ようやく頂上に着いたのは日がすっかり高く昇った頃だった。


"雲払神社"


と掘られた岩と随分古びた鳥居があった。


「雲払神社ねえ…何だかこんな所にあると雲を晴らしてしまいそうだな〜」


絶景とまではいかないまでも、そこそこの景色を見て僕は頷く。場所も何となく空に近いし、もしかすると本当に晴れを願ったりする神社なのかもしれない。


けれど…それだけだった。


折角ここまで連れてきて貰いながらやっぱり思い出せない。

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