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神社

雲ひとつない空だけれど、時期も時期なのでそれほど汗もかかない。快晴とはこういう日の事を指すのかもしれないと思った。


「取り敢えずどこから向かう?」


眩しそうに太陽に手をかざし、徒花さんが言った。


「もう一度だけ、神社の跡地に行っていいかな?」


「おいおい、なんで疑問形なんだ?行くから着いてこい!くらいの勢いじゃないと」


言えるか、そんな事。


「じゃあ色取くんが先頭だね」


そう言うと徒花さんは僕の後ろに並んだ。日吉もそれに続く。確かに3列横並びは邪魔だけれど、何も縦3列にならなくても…


と思いつつも僕は歩き出す。


「一応だけどさ、神社がそもそも間違っているってことはないよな?」


後ろから日吉の声がした。


「それは無い……と思う」


自信は無い。何しろ僕の記憶力は恥じるに(あたい)する程のものだからだ。どうでもいい事はおろか、大切な事ですらも忘れてしまう。


「そっかー、他に行ってた神社とかは無いの?」


「覚えてない。あったかもしれないけれど"待ち合わせをしていた神社"ってのは雲祓神社なんだ」


「とすれば"実は他のだった説"はナシか」


徒花さんはポケットからメモ帳を取り出し、シャッと線を引いた。


「一応色んな仮説を立ててみたんだ。例えば実は他の神社だった。実は似ている漢字だった。実は雲祓は神社は中学の頃の待ち合わせで小学校の頃は別の神社だった。エトセトラエトセトラ」


メモ帳を受け取り目を通す。


・実は色取くんの記憶違い説

・実は色取くんが何かを忘れている説(濃厚)

・実は色取くんが…


って僕の信頼度は地よりも低いのか!

なんて、せっかく考えて来てくれた徒花さんに言う訳にもいかず"ありがと"と言ってメモ帳を返した。


「どう?参考になるのはあった?」


悪意のあの字すら感じられない太陽のように眩しい眩しい笑顔で聞かれ、僕は戸惑う。

ああ、何だか徒花さんが疲労しているようにも見えてきた。もしかしたら徹夜で考えてくれたのかもしれない。


「うん、全部とても参考になったよ」


僕は答える。


「もしかしてこの山を登るのか…?」


不意に立ちどまり日吉が言った。


「それほど急斜面でもないし、木々も生い茂ってないし、山って言う程でもないけれどね」


「そう言う事じゃねーよ、もしかして毎朝登校ルートでもない山道を登ってたのかって事だ」


確かに言われてみれば…

いや、でも何かあったような…無かったような…


「昔は元気だったのかも」


「3年を昔って言うな。そんなこと言ったら俺の母さんは旧石器時代から生きてることになるぞ。」


「ふーむ、40ちょいかな?」


「あったりぃ!」


パチン!僕と日吉はハイタッチを交わす。


「ちょっと!二人とも女の人の年齢は言うものじゃないの!」


「「さーせん」」


気を取り直して僕達は歩く。

流石に坂道を歩くと汗ばむけれど、結構心地いいものだった。

森の香り、木々のトンネル、流れる水の音。全てが懐かしく思えてきた。中学の頃、彼女と待ち合わせした あの神社に向かって毎朝ここを通ったのだ。


しばらく歩くと木製のコケに覆われた鳥居が見えるはずなのだけれど、今はもう無い。

代わりの目印といえばあの大きな岩。しめ縄のようなものが巻かれていたような気もするけれど余り神社に関係の無いものだったのだろうか?


「ここだ」


僕は立ち止まる。

散歩道のような所から横にそれて、少し登ったところ。そこだけ少し開けていて空気が澄んでいるように感じた。


「何だか秘密の場所って感じがするね!」


「幼い頃から中学の頃まで、ずっとこの山で遊んでたからね。そりゃもう知らないところなんて無いくらい知り尽くしてたよ」


僕はその岩に向かって再び歩き出した。

近くに寄ってみると記憶の中の岩よりも随分と小さく感じた。もっとこう…見上げる感じがしたのだけれど、

僕の身長が伸びたのだろうか?


「どうだ?何か思い出せそうか?」


後ろから日吉と徒花さんが歩いてくる。僕は首を横に振った。


「確かにここのはずなんだけれど…」


惑う。


何も見れない自分に、思い出せない自分に、戸惑う。

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